"湖底の五本柱" 第12話
ダム内部の監査廊は、コンクリートで囲まれたたくい迷宮だった。
音が反響する。
壁からはがにじみし、湿った気が肌にまとわりついた。
「3階ゲート操作まで、距120メートル」
先をく隊員が叫んだ。
藤はりながら考えていた。
茂蔵の目は何だ。
ダムの破壊か。
いや、古文の記述が正しいなら、彼は「沈める」ことを目としている。
だとすれば、がやろうとしているのはダムの完成を阻むことではなく、むしろ完成させるための最の仕げなのではないか。
3階に到達した、異様な音が聞こえてきた。
あの音だった。
龍鳴寺の跡で聞こえた、あの械な音。
カチリ。
カチリ。
計の音。
それはゲート操作のスピーカーから、音量で流されていた。
部ののな鉄扉はロックされていた。
「警察だ。けろ」
藤が扉を叩く。
から応答はない。
代わりに、スピーカーからしわがれた声が響いた。
「遅かったな。警察の方々」
茂蔵の声だった。
録音ではない。
ライブの声だ。
「。きているのは分かっている。今すぐてこい」
「私はんだよ。度、を割られたにんだ。今の私はただの霊だ」
の声は、どこか澄んでいた。狂気をじさせないほど静かで、それがかえって気だった。
「寺君たちは、かわいそうなことをした。
広告
私の計画では、彼らには眠ってもらうだけでよかった。だが欲がた。それもまた、神の望みだったのかもしれん」
「何を馬鹿なことを。おの計画とは何だ。1500万円はどうした」
「か。あれはただの切れだ。だがは切れのために簡単に魂を売る。それを見極めるための試だった」
は笑った。
乾いた氷が割れるような笑い声だった。
「藤さんと言ったかな。君に1つ教えておこう。あの寺の鐘のにいた言葉を覚えているか」
「、底にて待つ、か」
「そうだ。私は待っているのだよ。最の仕げを」
突然、轟音が響き、ダム全体が激しく揺れた。
爆発音ではない。
流の音だった。
「警部、放流ゲートが勝にいています」
部が叫んだ。
「なんだと」
「操作から制解放されています。このままでは、試験湛もしていない状態で急激にが溜まってしまいます。流のにも危険が及びます」
はダムの放流ゲートを閉じるのではなく、逆に流からのゲートを全にし、さらに予備の導トンネルまで放したのだ。
本来なら数かかけてゆっくりを溜めるべきところを、気にを流し込み、ダムを満にしようとしている。
それはダムの堤体に致命な負荷をかける為であり、同に彼自がいる空をも没させる自殺為だった。
広告
「やめろ、」
「言っただろう。私は柱になるのだ。5本目の柱に」
スピーカーの向こうで、何かが操作される音がした。
「寺、田、佐藤。3つの柱はすでにった。相馬は逃げたが、まあいい。私が2分働けば済むことだ」
「突入しろ。ドアを爆破する」
藤が指示をした瞬、鉄扉の向こうからが吹きしてきた。
操作の窓ガラスが圧で割れ、濁流が流れ込んできたのだ。
は、自分自のいる部に部のを導入したのである。
「退避! 全員退避!」
流の勢いは凄まじく、藤たちはをすくわれそうになりながら階段を駆けがった。
背でゲート操作がにみ込まれていく音がする。
その轟音ので、茂蔵の最の言葉が、かすかに、しかしはっきりと聞こえた。
「これでは永になる」
藤たちが命からがらへ脱した、空はすでに暮れかけていた。
の位は異常な速度で昇していた。本来ならのないはずの底が、黒い面で覆われつつあった。
その面には、解けと共に量の砂や流が渦を巻いていた。
「警部、は……」
部が息を切らせて尋ねた。
藤は黒い面を見つめたまま、く答えた。
「沈んだ。奴の望み通りにな」
茂蔵の柄は、確保できなかった。
彼が操作にいたことは確実だったが、その部は今や数万トンの圧のにある。
潜による捜索など、能な状況だった。
ダムの管理システムは破壊され、位の制御は困難になっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 460 -
完結第18話
離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私
十五年間の結婚生活を終え、四十二歳で一人になった沙耶。途方に暮れていた彼女に、突然、六億円を超える宝くじの当選という奇跡が訪れる。両親を助け、人生をやり直そうと実家へ帰った沙耶だったが、弟の健太は「この家に姉ちゃんの居場所はない」と冷たく言い放った。理由も分からず傷つく沙耶。しかし、弟夫婦が十二年間背負ってきた現実を知り、彼女の考えは大きく揺らぎ始める。さらに当選を打ち明けた夜、健太が突きつけた一言が、家族の隠してきた本音を浮かび上がらせる。六億円があっても取り戻せないものとは――。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係|金銭問題1.8万字5 866 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 980 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 478 -
完結第12話
大家だった姑の逆転
夫を亡くしてから、息子を育てながら八世帯のアパートを守ってきた私。四十歳の息子が迎えた若い嫁は、「お母さんを支えたい」と同居を望んだ。ところが結婚後、私は台所にも立てず、夕食は寝室で一人。ついには「年金暮らしの無職は邪魔。出て行って」と言い放たれる。嫁が信じていたのは、息子がアパートの大家だという嘘だった。本当の所有者が私だと知っても、息子夫婦は名義を譲るよう要求してくる。私は静かに承諾した。しかし、二人が欲しがったアパートには、まだ知らない重大な問題が隠されていた。親不孝|裡の顔|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.6万字5 750 -
完結第20話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 1111 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 1917 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 852 -
完結第18話
「少しくらい困ればいい」母をSAに置き去りにした夫の本当の狙い
家族旅行の帰り道、夫の雅人は、足の悪い七十四歳の義母・澄江をサービスエリアに置き去りにした。「少しくらい困れば、次から早くなる」。息子まで夫に同調する中、妻は必死に母を捜す。ところが、母のバッグから見つかったのは、本人が知らない老人ホームの入居申込書だった。さらに、夫が管理していた母の預金、身に覚えのない介護記録、そして車内カメラに残された会話から、旅行そのものが仕組まれていた疑いが浮かび上がる。夫婦|親不孝|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 1893 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 3068