"湖底の五本柱" 第18話
とせざるを得なかった。
だが、藤の胸にはまだ、拭いきれないが残っていた。
事件は終わっていない。
が最に残した「計の音」。
相馬が繰り返した「鐘の音」。
あれは単なる錯乱ではない。
もっと現実な何か。
もっと酷な仕掛けの予兆なのではないか。
その疑いは、もなく最悪の形で現実となる。
季節はへ向かっていた。
解けが鏡ダムを満たし、かつてのは濁ったのへ沈んでいった。根の部、柱の先、墓のだけがに面から顔をし、やがてそれらもゆっくり消えていった。
々はその面を見つめながら、ダムのに眠るものをるようになった。
30の。
黒田剛作。
田、佐藤、寺。
そしておそらく、茂蔵。
鏡ダムは完成したはずだった。
だが、事件は最の余韻を残していた。
それは、き残った相馬賢に関することだった。
相馬は逮捕された。罪状は、体遺棄、過の過失致、そして今回の事件への関与である。彼は法廷で全てを認め、実刑判決を受けた。
刑務所へ収監される、相馬は藤との面会を求めた。
面会で会った相馬は、つきものが落ちたような顔をしていた。髪は増え、頬は痩せ、目の奥に残っていた狂気のは消えていた。だがその代わりに、別の種類の恐怖が宿っていた。
広告
相馬はテーブルに置かれた自分のを見つめながら、い声で言った。
「警部、最に1つだけ気になることがあるんです」
藤は黙って相馬を見た。
「さんが残した。あれには続きがあったんじゃないかとうんです」
「続き?」
「あれが全文だ。鑑識も確認している」
「いいえ。文章のことではありません」
相馬は顔をげた。
「音です」
「音?」
「あの、龍鳴寺で聞いた鐘の音。そしてダムの底から聞こえた計の音。あれはさんが鳴らしていたんじゃない」
藤は眉を寄せた。
「どういうことだ」
「さんの懐計は、私が持っていました。壊れてかない計です。でも音は聞こえた。カチ、カチ、と」
相馬は声を潜めた。
「あれは、タイマーの音だったんじゃないでしょうか」
藤の背筋がたくなった。
「タイマー? 何のタイマーだ」
「分かりません。ただ、さんはダムを墓にするだけでは満しなかったのかもしれない」
「何を根拠に」
「彼は言っていました。は永になる、と」
相馬の目が揺れた。
「永にするためには、度すべてを無にする必がある、と」
面会が終わった直、藤はダム管理事務所へ急した。
たな管理所に、ゲート操作と監査廊の回図を再確認させた。
「操作盤に独した源はないか。限式で作するプログラムは残っていないか。デジタルだけじゃない。
広告
物理な配線も含めて全部調べろ」
所は困惑した顔をしたが、藤の表を見てすぐに技術者を呼んだ。
調査にはがかかった。
やがて、所は顔面蒼になって戻ってきた。
「警部……信じられませんが、予備源回に奇妙なバイパスが仕掛けられています」
「何だそれは」
「単純なアナログタイマーです。デジタル制御の裏に隠されていました」
「作刻は」
所は腕計を見た。
「今から10分です」
藤は瞬だけ目を閉じた。
「何が起きる」
「分かりません。ただ、この回はダム堤体の監査廊排ポンプと連しています。もしこれが逆回転、つまり排ではなく注、あるいは加圧をうように細されていたら……」
所はそこで言葉を失った。
藤は悟った。
茂蔵の復讐は、彼自ので終わってはいなかった。
彼はダムそのものに限爆弾を仕掛けていたのだ。
爆薬ではない。
圧という名の爆弾を。
監査廊内部に限界を超えた圧をかければ、コンクリートの壁に亀裂が入り、最悪の、ダムが決壊する。
藤の声が管理に響いた。
「避難警報。流のに伝えろ。ダムが崩れるぞ」
サイレンが鳴り響いた。
制御盤は赤い回転灯のと警告音の嵐に包まれた。壁のモニターには位、圧力、ゲート状況が次々と表示され、数字が異常な速度で変化していく。
「残り3分。ポンプが起します」
所の叫び声は、サイレンにかき消されそうだった。
藤は複雑に入り組んだ配線の束をに、油汗を流していた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 460 -
完結第18話
離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私
十五年間の結婚生活を終え、四十二歳で一人になった沙耶。途方に暮れていた彼女に、突然、六億円を超える宝くじの当選という奇跡が訪れる。両親を助け、人生をやり直そうと実家へ帰った沙耶だったが、弟の健太は「この家に姉ちゃんの居場所はない」と冷たく言い放った。理由も分からず傷つく沙耶。しかし、弟夫婦が十二年間背負ってきた現実を知り、彼女の考えは大きく揺らぎ始める。さらに当選を打ち明けた夜、健太が突きつけた一言が、家族の隠してきた本音を浮かび上がらせる。六億円があっても取り戻せないものとは――。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係|金銭問題1.8万字5 867 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 980 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 478 -
完結第12話
大家だった姑の逆転
夫を亡くしてから、息子を育てながら八世帯のアパートを守ってきた私。四十歳の息子が迎えた若い嫁は、「お母さんを支えたい」と同居を望んだ。ところが結婚後、私は台所にも立てず、夕食は寝室で一人。ついには「年金暮らしの無職は邪魔。出て行って」と言い放たれる。嫁が信じていたのは、息子がアパートの大家だという嘘だった。本当の所有者が私だと知っても、息子夫婦は名義を譲るよう要求してくる。私は静かに承諾した。しかし、二人が欲しがったアパートには、まだ知らない重大な問題が隠されていた。親不孝|裡の顔|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.6万字5 751 -
完結第20話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 1111 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 1918 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 852 -
完結第18話
「少しくらい困ればいい」母をSAに置き去りにした夫の本当の狙い
家族旅行の帰り道、夫の雅人は、足の悪い七十四歳の義母・澄江をサービスエリアに置き去りにした。「少しくらい困れば、次から早くなる」。息子まで夫に同調する中、妻は必死に母を捜す。ところが、母のバッグから見つかったのは、本人が知らない老人ホームの入居申込書だった。さらに、夫が管理していた母の預金、身に覚えのない介護記録、そして車内カメラに残された会話から、旅行そのものが仕組まれていた疑いが浮かび上がる。夫婦|親不孝|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 1893 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 3068