"夫の顔と20年目の罪" 第5話
夫は何も言わなかった。
私は息をえ、もう1つだけ勇気をした。
「もしよかったら、ついでにもう1つわがままを言わせてもらえませんか?」
夫がわずかにきを止めた。
「真さんのお顔に触りたいんです」
覚を失ったは、代わりにの覚が並み以に発達することがある。
私もその1だった。
で触れたものの形を、鮮にイメージすることができる。輪郭、骨格、肌の質。見えなくても、相のをる方法はあった。
夫は黙って私のを取った。
そして、自分の顔に触れさせてくれた。
シュッとした頬。
筋の通った。
切れの目元。
私は指先でゆっくり形をなぞりながら、胸がくなった。
「真さん、きっとイケメンね」
そう言うと、かすかに笑い声が聞こえた気がした。
それは、とても幸せなだった。
盲目の私と結婚してくれているだけで幸せだとわなければいけないのかもしれない。
私はそう自分に言い聞かせながら、胸ので夫へのいをめていった。
翌朝、目を覚ましてリビングへくと、幸恵さんが料理をする音が聞こえた。夫は今も朝から勤している。ずっと準備してきたきな術が、もなく本番を迎えるのだという。
「はるかお嬢様、おはようございます」
幸恵さんの声が、いつもより弾んでいた。
「いいらせがございますよ」
広告
「いいらせ?」
私は子に座りながら首を傾げた。
「角膜移植術の順番が回ってきたんですよ。術は来週ですって」
瞬、言葉のが分からなかった。
次の瞬、臓がねがった。
「それって、つまり……」
「目が見えるようになるんですよ」
私は両で元を押さえた。
ついに順番が回ってきた。
角膜移植は、移植術のでも提供数がない。私が希望をしてから、20い歳が過ぎていた。
やっとこのが来た。
私は子ので震えながら、まだ見えない世界へ顔を向けた。
あとしで、が戻る。
あとしで、真さんの顔が見られる。
そのびが、私の胸をいっぱいにした。
それからの私は、術までのを指折り数えて過ごした。
入院するのは、義父が院を務める桜田病院だった。20、私が事故に運ばれ、力を失ったと告げられた所でもある。
同じ病院で、今度はを取り戻すかもしれない。
そううと、胸の奥が議な緊張で満たされた。
入院の準備は、すべて幸恵さんがえてくれた。着替え、の回りの具、普段使っている物。私はただ、落ち着かない気持ちでが過ぎるのを待つことしかできなかった。
術のの朝、私は特別に案内された。
「はるかお嬢様、こちらです」
幸恵さんにを引かれ、病へ入る。元の触が柔らかく、内の空気は静かで清潔だった。
広告
義両親も応援に来てくれていた。
「はるかさん、きっと丈夫よ」
義母の声は穏やかだった。
義父も落ち着いた声で言った。
「最の体制をえている。しなさい」
私はその言葉に頷いた。
を着替え、術へ向かう、胸の鼓は速くなっていた。廊をむストレッチャーの振、消毒液の匂い、くで聞こえる医療器の音。すべてが、私のと期待をきくしていく。
数。
術は成功した。
包帯で目元をぐるぐる巻きにされたまま病に戻ると、幸恵さんが配そうな声で迎えてくれた。
「お嬢様、丈夫ですか?」
「うん。なんだか違はあるけれど、痛くはないよ」
私はゆっくり答えた。
そのの数はかった。
包帯ので、目の奥がじんわりを持つような覚があった。医師や護師が様子を確認し、幸恵さんは毎そばでを握ってくれた。
「もうすぐですね」
「うん」
私は何度も頷いた。
く見たい。
この世界を。
のを。
幸恵さんの顔を。
そして、夫の顔を。
やがて、包帯をすが来た。
病には、医師、護師、幸恵さん、義両親、そして夫がいる気配があった。私はベッドので背筋を伸ばし、膝のでを握った。
「では、ゆっくりしていきますね」
医師の声がした。
包帯がしずつほどかれていく。目元に触れる空気が、ひんやりしていた。
最のガーゼがされた瞬、まぶしいが瞼越しに差し込んだ。
私はわず目をく閉じた。
「焦らなくていいですよ。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 375 -
完結第20話
借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算
父の急逝により、43歳の真帆が引き継ぐことになったのは、信州の古びた温泉旅館と約3億円の借金だった。夫の拓也は「貧乏になる前に離婚してくれ」と冷たく言い放ち、ただ一人、17歳の息子・勇気だけが母について行くと決める。 亡き父の宿を守ろうとする真帆だったが、遺された宿日誌から夫の恐ろしい裏切りが発覚。さらに離婚協議では、16年間つけ続けた家計簿が思わぬ反撃の切り札となる。 夫に見捨てられた母と息子は、3億円の借金を抱えた旅館で新たな人生を切り開けるのか――。人生逆転|真実|孤獨|親子関係2.4万字5 68 -
完結第16話
庭付き新居に押しかける長男夫婦、引越し当日に絶句
夫を亡くした62歳の田所美津子は、長年暮らした家を売り、菜園付きの一軒家で新生活を始めようとしていた。 ところが長男の琢磨と嫁の真理亜は、相談もなく同居を宣言。「断るなら一生介護しない」と脅しまでかけてくる。 夫の葬儀で遺産を要求された美津子は、もう息子に振り回されないと決意していた。 長女の美香と密かに進めていたのは、誰にも知らせていないもう一つの引っ越し計画。 何台ものトラックを連ね、当然のように新居へ乗り込んだ長男夫婦。だが引っ越し当日、二人は思いもよらない事実を知ることになる――。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|介護2.4万字5 74 -
完結第14話
「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実
結婚17年目、42歳の立花伊佐美は、単身赴任中の夫・秀哉から突然離婚を突きつけられた。 「3月末までに息子と家を出ていけ」 長年家庭を支えてきた妻に、夫はわずかな解決金しか渡さないと言い放つ。ところが、赴任先を訪れた伊佐美は、夫が別の女性と6歳の息子を育て、もう一つの家庭を築いていた事実を知る。 絶望する伊佐美に手を差し伸べたのは、夫と不仲だった義父・信造だった。 そして3月28日。新しい妻子を連れて家を奪いに来た秀哉は、まだ知らなかった。自分の知らないところで、すべてが変わっていたことを――。夫婦|真実|親子関係|修羅場|不倫1.9万字5 366 -
完結第20話
「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断
義父の死後、義母との同居を始めて十年。40歳の香織は仕事と育児を両立しながら、家事も義母の世話も一人で担ってきた。 しかし義父の法事の日、義母は親族の前で「遺産は全部娘に渡す。嫁には一円もやらない」と笑いながら宣言する。 限界を迎えた香織が「では出ていきます」と告げると、夫も五歳の息子も一緒に家を出ることを決意。 三人が去った途端、義母の生活は崩れ始める。さらに、香織が十年間隠し持っていた亡き義父のノートには、誰も知らない前田家の秘密が記されていた――。人生逆転|嫁姑|介護|金銭問題2.4万字5 850 -
完結第22話
離婚裁判で7歳の娘が見せた秘密の映像
夫の健太郎から突然離婚を突きつけられた詩音。七歳の娘・柚月の親権も、自分が貯金を出した家も奪われようとしていた。 夫が提出したのは、詩音を「母親失格」に仕立てる写真と専門家の意見書。しかし、資料の矛盾や消えた預金を調べるうちに、夫の隠された計画が浮かび上がる。 そんな中、柚月は画面の割れた古いタブレットを頑なに手放そうとしなかった。 そして裁判の日、娘が口にした思いがけない言葉。 「裁判長、ママも知らないもの、見せていい?」 七歳の娘が守り続けていた秘密とは――。人生逆転|夫婦|裡の顔|親子関係3.1万字5 305 -
完結第20話
7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った
七年間大切に伸ばしてきた髪を、妹の美緒に突然切り落とされた凛。ところが両親も婚約者の修も、泣きそうな彼女を見て笑うばかり。それどころか、凛が泣き出すまでの時間を賭けていた。 長年、家族のために自分の希望を諦めてきた凛は、ついに婚約を破棄し、遠く福岡への転勤を決意する。 だが、彼女が去ったあと、家族が遊び半分で撮影していた動画から、思いがけない事実が明らかになっていく。 失った七年間を取り戻すように、新しい人生を歩み始めた凛。彼女を笑い続けた人々を待ち受ける結末とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|真相|第二の人生2.9万字5 657