"消えた娘の38分" 第2話
古い材を傷つけないよう、器具が差し込まれる。やがて、板の1枚がゆっくりと持ちげられた。
その瞬、部の空気が変わった。
には、埃に覆われた黒い子ども用のバッグがあった。
「ありました」
鑑識員の声がく響いた。
はちがろうとして、に力が入らず、そのに座り込んだ。バッグは黒ずんで見えたが、形は崩れていなかった。ファスナーは閉まっており、無理にけられた様子もない。
慎に取りされたバッグは、証拠袋のに置かれた。
ファスナーがけられる。
からてきたのは、ピンクの着と赤い筒だった。
は元を押さえた。
それは、美緒が失踪当ににつけていたものと致していた。
「美緒の……」
声にならない声が漏れた。
奇妙なのは、物品の状態だった。
着も筒も、期にさらされたような損傷がなかった。やに濡れた跡もない。むしろ、誰かが内で丁寧に保管していたように、比較きれいな状態だった。
に積もった埃のさから見て、バッグは事故発の頃にその所へ置かれ、現まで放置されていた能性がいと推定された。
警察官たちの表がくなっていく。
この瞬から、警察は単純な失踪という提を捨てた。
誰かが図に、美緒の所持品を隠した。
そしてそれは、1の事故と直接結びついている。
広告
その考えが、現にいた捜査員たちので静かに共されていった。
さらに、発見所のくには庫が1つあった。
寝の奥、収納の裏に隠すように置かれていた型の庫だった。扉はこじけられており、は空っぽだった。
はその庫のすららなかった。
「これは、ごじでしたか」
刑事に尋ねられ、は首を横に振った。
「いいえ。見たこともありません」
婚、夫婦関係が悪化していた期、健が個におを貯めているようなそぶりは何度かあった。通帳を隠すようにしまったり、話を聞かれないようベランダへたり、夜に1で何かの細を見ていたこともあった。
けれど具体な内容は、にはらされていなかった。
空の庫は、事故以に何らかの現が引きされ、どこかへ持ちされた能性を示していた。
警察はこの点で、失踪よりも計画な犯罪に焦点を当て始めた。
埃に覆われたさなバッグ。
に隠された子どもの着。
こじけられた空の庫。
そして1ぶりに鳴った位置追跡チップ。
静かに閉ざされていた部ので、事件は再びきした。
バッグは、慎に証拠品として搬された。
はリビングの子に座ったまま、けずにいた。廊をき交う捜査員の音、無線のい声、鑑識用の袋が擦れる音。
広告
そのすべてがくの来事のように聞こえた。
1、あれほど探しても見つからなかったものが、自分たちの部のにあった。
その事実だけで、のは真っになっていた。
「田さん」
刑事がづいてきた。
「バッグは詳しく鑑定に回します。埃、繊維、付着物、指紋、すべて確認します」
はさく頷いた。
「美緒は……あの子は、ここに来たんでしょうか」
刑事はすぐには答えなかった。言葉を選ぶように、しだけ線を落とした。
「現点では断定できません。ただ、何者かがこの部にバッグを隠したことは違いありません」
その言葉は、の胸にたいのように沈んだ。
バッグから収集された埃と繊維の残留物は、科学警察研究所へ送られた。
分析結果がるまでの数、はほとんど眠れなかった。布団に入っても、目を閉じるたびに寝のが浮かんでくる。ピンクの着、赤い筒、黒いバッグ。美緒のさながその筒を握っていた姿が、何度も何度もよみがえった。
結果は、予のものだった。
に残っていた埃は、密閉された内で期放置されたものだった。バッグがくそこにあったことを裏づける結果だった。
しかし、バッグの表面からはしい指紋の痕跡と汗の成分が検された。
誰かが最、このバッグに触れていた。
失踪から1、誰も入りしていないはずので、最の接触の痕跡が見つかったのだ。
このさなバッグは、事件の根幹を揺るがす最初の糸となった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
10年目のハザード
1999年10月、夜明け前の阪和自動車道に、1台のタクシーがハザードランプを点けたまま残されていた。 運転席は無人。車内に争った跡はなく、鍵も残されたまま。所有者は、大阪・堺で個人タクシーを営む藤村達夫だった。 警察が自宅を訪ねると、妻・安子と娘・真奈美の姿も消えていた。台所には冷めた味噌汁、まな板には切りかけのネギ。家族3人は、夕食の途中で突然この世から切り取られたように姿を消していた。 達夫が最後に乗せた客は誰だったのか。 そして、なぜ一家は財布も通帳も残したまま消えたのか。 10年後、取り壊しが決まった団地の室外機の裏から、1本の古いカセットテープが見つかる。 そこに残されていたのは、達夫が命がけで吹き込んだ、震える声だった――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 0 -
完結第15話
土俵下の12年
昭和47年、東京・両国の相撲部屋から、期待の若手力士・林岳司が突然姿を消した。 能登の小さな漁村から上京し、家族の期待を背負って土俵に立っていた21歳の青年。部屋には荷物も手紙も残されたままで、まるで少し外へ出ただけのように、彼の生活だけがそこに残っていた。 両親は息子がどこかで生きていると信じ、12年間待ち続けた。 しかし昭和59年、故郷の古い土俵を解体した時、土の下から思いがけないものが見つかる。 東京で消えたはずの岳司は、なぜ故郷の土俵の下にいたのか。 稽古場で何が起き、誰が12年間も真実を隠し続けたのか。 若き力士の失踪は、故郷の土の中から静かに動き出す――。ミステリー|行方不明2.2萬字5 0 -
完結第9話
50年目の沈黙の部屋
2021年、福井県の山あいにある閉鎖病院で、壁に塗り込められた小さな部屋が発見された。 窓もなく、扉もなく、外から完全に塞がれたその空間に残されていたのは、1人の男の骨と、古い観察記録だった。 記録の日付は、1973年。 そこに書かれていたのは、吉川明という30歳の患者の名前だった。だが不思議なことに、彼は病院の閉鎖後も、家族からも行政からも、誰からも探されていなかった。 なぜ彼は、誰にも知られず壁の中に残されたのか。 そして、最後の記録に残された「生命の兆候なし」という一文の後、病院では何が行われたのか。 50年近く沈黙していた廃病院の壁が、今、ひとりの男の消された人生を語り始める。ミステリー|行方不明1.4萬字5 0 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 6 -
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 83 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 151