"10年目のハザード" 第1話
19991014、夜けのことだった。
阪自の岸田付をっていた距トラックの運転は、暗い肩で規則正しく点滅するのに気づいた。づいてみると、ハザードランプをつけた1台のタクシーが、の流れから取り残されたように止まっていた。
故障したのだろうか。それとも、何か事故でも起きたのだろうか。
運転は速度を落として脇を通り過ぎたが、タクシーの周囲には見えなかった。胸に引っかかるものをじた彼は、し先のパーキングエリアにトラックを止め、管理者へ事を伝えてから現へ戻った。
夜けの速には、たいが吹いていた。型が通過するたびに面がく震え、タクシーのハザードランプだけが、暗ので同じ隔を刻み続けていた。
運転が内をのぞき込むと、運転席には誰もいなかった。助席にも部座席にもの姿はなく、ドアには鍵さえかかっていなかった。
エンジンは止まっていたが、キーは内に残されていた。座席やに争った形跡はなく、血の跡や壊れた物も見当たらなかった。
「誰もおらん……」
運転は周囲を見回したが、暗い脇にがっている様子はなかった。斜面や非常話の方へ目を向けても、助けを求める声は聞こえてこない。
審にった運転は、すぐに警察へ通報した。
広告
ほどなくして、赤い回転灯をらせたパトカーが到着した。空の端がわずかにみ始める頃には複数の警察両が集まり、静かだった肩は物々しい空気に包まれていた。
体に記された営業番号を照会すると、タクシーの所者はすぐに判した。堺内で個タクシーを営む藤達夫、48歳だった。
現の警察官は無線をに取り、藤の自宅へ連絡を入れるよう指示した。
「本に連絡を取ってくれ。をここに置いた事を確認したい」
ところが、藤の話は何度鳴らしてもつながらなかった。呼びし音が続くだけで、達夫も族も受話器を取らなかった。
朝の7を回る頃、警察官2が堺にある藤へ向かった。
藤が暮らしていたのは、昭の終わり頃に建てられた4階建ての古い団だった。同じ形をした建物が何棟も並び、壁にはのだれが黒い筋を残していた。
ベランダには洗濯物や布団が干され、敷内では通勤や通学のためをる民の姿が見え始めていた。どこにでもある朝の景ので、警察官の制だけが自然に目っていた。
藤は、敷の最も奥にある棟の3階だった。
警察官が呼び鈴を押したが、返事はなかった。続けてドアを何度かノックしても、部のから音ひとつ聞こえてこなかった。
広告
「藤さん、いらっしゃいますか。警察です」
声をかけながらドアノブにをかけると、鍵がかかっていた。それも、から施錠してかけたというより、内側から閉ざされているような状態だった。
警察官たちは顔を見わせた。
速にタクシーを残した達夫がにいるのなら、なぜ応答しないのか。にいないのなら、誰が内側から鍵をかけたのか。
隣の民に事を聞くと、50代くらいの主婦がそうな表でてきた。突然の警察の訪問に戸惑いながらも、夜の様子をいすように線をげた。
「藤さんのところ、昨夜は普通にしてはりましたよ。たしか夜の8頃やったかな。ごみの分別のことで奥さんとしち話をして、『ほな、おやすみなさい』って笑うてはりました」
そこで主婦は言葉を止め、警察官の顔を見た。
「何かあったんですか」
警察官が、速で達夫のタクシーが見つかったことを説すると、主婦の顔から血の気が引いていった。
管理が呼ばれ、ち会いのもとで藤の鍵が使われた。警察官たちは物音に注しながら、ゆっくりとドアを押しけた。
その先に広がっていたのは、事件の現とはえないほど平凡な庭の景だった。
しかし、その静けさのには、だけが突然切り取られたような自然さが残されていた。
玄関には、族3分の靴がきちんと並んでいた。
達夫のものとわれるきな革靴、妻の子が履いていたサンダル、そして娘の真奈美のいスニーカー。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 147 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 599 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 59 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 226 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1148 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 378 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 345 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 417