"藤蔵は二度生きた" 第2話
先ほどまでい調で言い返していても、顔を変えて姉に謝り、どうか話さないでほしいと頼んだ。
同じことが何度か続くと、両親も2の様子を審にうようになった。勝郎が何か悪いことをしたのではないか、がその秘密をっているのではないかと配したのである。
ある晩、族が夕を終えると、父親はを呼び止めた。母親もを止め、囲炉裏のを挟んで娘の顔を見つめた。
「おが勝郎に言っている『あのこと』とは何だ」
父親に問いかけられたは、すぐには答えなかった。弟との約束を守ろうと俯いたが、両親は何か危険なことを隠しているのではないかと考え、何度も事を聞いた。
はいを閉ざしていたものの、やがて耐えきれなくなった。勝郎が田んぼで話した内容を、途切れ途切れに両親へ伝えた。
「勝郎は、自分がは程久保にいたって言ったの。藤蔵という子供だったって」
母親のが止まり、父親は眉を寄せた。囲炉裏の向こうでは、話を聞いていた勝郎が唇を固く結んでいた。
父親は息子のへ座り直した。
「が言っていることは本当なのか」
勝郎は答えず、膝ので両を握りしめた。父親が鳴ることはなかったが、曖昧なままにはできないという目で息子を見ていた。
「誰かから聞いた話なら、正直に言いなさい」
広告
母親が穏やかな声で促すと、勝郎はゆっくり顔をげた。目には涙がにじんでいたが、やがて覚悟を決めたようにをいた。
「俺は、程久保の藤蔵だった」
勝郎によれば、藤蔵の父親は久兵、母親はおしづという名だった。久兵はくにくなり、おしづはその、半郎という男と再婚したという。
「半郎は、本当の父ちゃんじゃなかった。でも、俺をすごくがってくれた」
勝郎は、い記憶を確かめるように、ゆっくりと話した。半郎と過ごしたの様子や、の裏からへ続くのことまで、目のに景が見えているかのように語った。
しかし、藤蔵がそので過ごしたはくなかった。6歳になった頃、疱瘡にかかり、にに体がっていったという。
母親が額の汗を拭き、半郎が配そうに枕元へ座っていたことを、勝郎は覚えていた。体がく、目をけることも苦しくなり、最には周囲の声がざかっていった。
「藤蔵は、それでんだのか」
父親が慎に尋ねると、勝郎はさく頷いた。
「んだ、体は棺に入れられた。の墓まで運ばれて、穴のにろされたんだ」
勝郎の声は幼いままだったが、話している内容は8歳の子供がいつくものとはえなかった。族は誰もを挟まず、囲炉裏の薪がはぜる音だけが響いていた。
広告
「棺が墓穴に入った、どすんという音がした。その、体から抜けしたんだ」
勝郎は、自分の胸元から何かがれるような振りをした。棺のに藤蔵の体が残り、自分はそのから葬儀の様子を見ていたという。
おしづは墓のそばで泣いていた。勝郎は母親のくへき、何度も声をかけた。
「母ちゃん、俺はここにいるよって言った。でも、母ちゃんには聞こえなかった」
誰も勝郎の姿に気づかず、声にも反応しなかった。勝郎は泣き続ける母親の周りをれられず、どうすればよいのか分からないままち尽くしていた。
やがて、い髭をやし、黒い着物をにつけた老が現れた。その老は勝郎を見つけると、怖がる必はないというように静かにづいてきた。
「もう、ここにはいられない。次にまれるへきなさい」
老に導かれ、勝郎はを越え、現の父母が暮らしていた野のまで来たという。そこで夫婦の会話を聞き、このにまれることを決めたと勝郎は語った。
その話を聞いた母親は、わず父親を見た。勝郎が語った会話に、夫婦しかるはずのない内容が含まれていたからだった。
勝郎がまれる、の暮らしは苦しかった。収入だけでは分にべていけず、母親が戸へ奉公にるべきかどうか、夫婦だけで話しった夜があった。
そのことは誰にも話していなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 242 -
完結第20話
借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算
父の急逝により、43歳の真帆が引き継ぐことになったのは、信州の古びた温泉旅館と約3億円の借金だった。夫の拓也は「貧乏になる前に離婚してくれ」と冷たく言い放ち、ただ一人、17歳の息子・勇気だけが母について行くと決める。 亡き父の宿を守ろうとする真帆だったが、遺された宿日誌から夫の恐ろしい裏切りが発覚。さらに離婚協議では、16年間つけ続けた家計簿が思わぬ反撃の切り札となる。 夫に見捨てられた母と息子は、3億円の借金を抱えた旅館で新たな人生を切り開けるのか――。人生逆転|真実|孤獨|親子関係2.4万字5 81 -
完結第16話
庭付き新居に押しかける長男夫婦、引越し当日に絶句
夫を亡くした62歳の田所美津子は、長年暮らした家を売り、菜園付きの一軒家で新生活を始めようとしていた。 ところが長男の琢磨と嫁の真理亜は、相談もなく同居を宣言。「断るなら一生介護しない」と脅しまでかけてくる。 夫の葬儀で遺産を要求された美津子は、もう息子に振り回されないと決意していた。 長女の美香と密かに進めていたのは、誰にも知らせていないもう一つの引っ越し計画。 何台ものトラックを連ね、当然のように新居へ乗り込んだ長男夫婦。だが引っ越し当日、二人は思いもよらない事実を知ることになる――。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|介護2.4万字5 86 -
完結第10話
銀座の384万円
巨大企業グループの総帥という身分を隠し、平凡な専業主婦として暮らす美央。夫と義母に見下されながらも、温かい家族を夢見て五年間耐え続けてきた。 義母の誕生日、55万円の高級バッグを用意して銀座のレストランへ向かうと、義家族はすでに食事を終えていた。美央の席も料理もなく、代わりに突きつけられたのは384万円もの請求書。 「会計はあなたが払って」 その言葉に、美央は静かに微笑んで店を去る。しかし義家族はまだ知らなかった。自分たちが誰を敵に回したのかを――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場1.6万字5 747 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 497 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 848 -
完結第10話
本当の家主
仕事で疲れ果てて帰宅したのり子を待っていたのは、義妹・美香が散らかしたゴミだらけのリビングだった。片付けも夜食作りも拒否すると、夫の誠は妻を責め、義母のかよは「この家から出ていけ!」と怒鳴り、雨の降る夜にのり子を追い出してしまう。 助けを求める妻を見ながら、夫は冷たくカーテンを閉めた。しかし義家族は知らなかった。土地も建物も、亡き両親の遺産と自分の稼ぎで手に入れた、のり子名義の財産だったことを。すべてを奪われ続けた妻が、ついに静かな反撃を決意する。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|修羅場1.8万字5 617 -
完結第14話
「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実
結婚17年目、42歳の立花伊佐美は、単身赴任中の夫・秀哉から突然離婚を突きつけられた。 「3月末までに息子と家を出ていけ」 長年家庭を支えてきた妻に、夫はわずかな解決金しか渡さないと言い放つ。ところが、赴任先を訪れた伊佐美は、夫が別の女性と6歳の息子を育て、もう一つの家庭を築いていた事実を知る。 絶望する伊佐美に手を差し伸べたのは、夫と不仲だった義父・信造だった。 そして3月28日。新しい妻子を連れて家を奪いに来た秀哉は、まだ知らなかった。自分の知らないところで、すべてが変わっていたことを――。夫婦|真実|親子関係|修羅場|不倫1.9万字5 510 -
完結第20話
「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断
義父の死後、義母との同居を始めて十年。40歳の香織は仕事と育児を両立しながら、家事も義母の世話も一人で担ってきた。 しかし義父の法事の日、義母は親族の前で「遺産は全部娘に渡す。嫁には一円もやらない」と笑いながら宣言する。 限界を迎えた香織が「では出ていきます」と告げると、夫も五歳の息子も一緒に家を出ることを決意。 三人が去った途端、義母の生活は崩れ始める。さらに、香織が十年間隠し持っていた亡き義父のノートには、誰も知らない前田家の秘密が記されていた――。人生逆転|嫁姑|介護|金銭問題2.4万字5 2554