"湯殿床下の女将日記" 第5話
そして、その女将が最まで切にしていたものがあった。
「まさか……あの事件と関係あるんじゃないか」
その言葉がた瞬、現の空気が変わった。
すぐに警察へ連絡が入れられた。
らせを受けた警察署では、ある男の名が浮かんだ。
塚刑事だった。
6。
糸の失踪事件を担当した刑事。
当は若だった彼も、今では40代になっていた。
くの事件を経験し、署内でも頼られるになっていた。
しかし、彼のの片隅には、ずっと残っている事件があった。
鍛原沢子失踪事件。
なぜ彼女は消えたのか。
どこへったのか。
あのの朝、何が起きていたのか。
6、答えのないままだった。
「糸のから……?」
報告を聞いた瞬、塚は言葉を失った。
胸の奥に眠っていた記憶が、気によみがえった。
あの静かな旅館。
然と残された部。
そして、何かをりながらを閉ざしていた老。
造。
塚はすぐに現へ向かった。
解体途の糸。
かつて沢子が歩いた廊。
かつて客の笑い声が響いた部。
今は、壊される途の残骸になっていた。
塚は作業員から渡された包みをいた。
まず目に入ったのは帳面だった。
表をく。
そして、1ページ目を見た瞬――
息をんだ。
そこにかれていた文字。
それは、6に何度も見た跡だった。
沢子の字。
丁寧で、真っすぐで、几帳面な文字。
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違いなく、鍛原沢子本がいたものだった。
しかし、それは帳簿ではなかった。
宿の売記録でもない。
そこにかれていたのは――
沢子自のの記録だった。
6、誰にも語れなかった彼女の本当のい。
なぜ消えたのか。
何を守ろうとしていたのか。
その答えが、そこに残されていた。
塚はページをめくった。
最初にかれていたのは、糸の苦しい経営状況だった。
客が減ったこと。
借が増えていったこと。
古い旅館を維持する費用。
1で宿を背負う圧。
それは、塚が6に帳簿から読み取った内容と致していた。
しかし、読みめるうちに、ある名が何度も現れた。
彦。
息子だった。
沢子の記には、京で暮らす息子の苦しい状況がかれていた。
彦は事業に失敗していた。
額の借を抱え、しかも相は普通の融関ではなかった。
悪質な取りてをする物たち。
そのは、京にいる彦だけではなく、形の糸まで伸びていた。
塚のに、6の久子の証言が蘇った。
京から来た男。
沢子を青ざめさせたい会話。
あの男は――
彦の借を取りてに来ただったのだ。
沢子は息子を守ろうとしていた。
宿を守ろうとしていた。
しかし、追い詰められていた。
ページをめくるたび、彼女の苦しみが伝わってきた。
そして最の付。
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それは、沢子が失踪するだった。
塚はい、けなかった。
6、のへ消えた女性。
その姿が、今、残された文字によって浮かびがってくるようだった。
しかし――
そこには番りたいことがかれていなかった。
沢子はどこへったのか。
きているのか。
なぜにこの帳面を隠したのか。
答えは、まだ残されていなかった。
そして塚ので、1の老のがきくなっていった。
助、造。
6、何を聞いても「お優しい方でした」としか言わなかった男。
この帳面を隠せた所をっていた唯の物。
塚は確信した。
造は何かをっている。
6、誰にも言わずに守ってきた秘密がある。
塚はすぐに決めた。
もう度、造に会う。
今度こそ、真実を聞くために。
い閉ざされていた扉が、ようやくこうとしていた。
造がどこで暮らしているかを調べるのに、はかからなかった。
糸が閉じた、く当てもなかった彼は、温泉のれにあるさなで暮らしていた。
以は旅館のれとして使われていた建物だった。
塚が訪れたのは、の午だった。
さな畑の奥。
古い造の平。
しかし、荒れた様子はなかった。
庭は綺麗に掃かれ、薪は然と積まれていた。
40、湯殿を磨き続けた男らしい暮らしだった。
縁側には造が座っていた。
くなった髪。
丸くなった背。
しかし、その目だけは6と変わっていなかった。
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