"21年目の誤公式" 第3話
でも、何かが違うようにじます」
き終えたひなは、便箋を両で持ちげて確認した。祖父のノートに挟み、枕元へ置いてから、ようやくベッドへ横になった。
けれど、かりを消してもなかなか眠れなかった。
目を閉じると、黒板の数式と笑い声が交互に浮かんでくる。そのたびに、枕元にあるへを伸ばし、そこに確かにしていることを指先で確かめた。
翌朝、母娘は再び学へ向かった。
物理学棟のロビーには、と同じようにくの見学者が集まっていた。きな公式のでは、今も何組もの族が写真を撮っている。
ひなは混みのから、昨の女性スタッフを見つけた。
が止まりそうになったが、リュックサックの肩ひもを握り直し、母と緒に歩み寄った。
「昨の数式のことです」
ひなが差ししたを見て、女性スタッフはし困ったように眉をひそめた。忙しい見学会の最に、子どもの計算を受け取っても、どう扱えばよいのか分からない様子だった。
「これを、物理学の先に渡してもらえませんか?」
ひなは相の目を見て、今度ははっきりと頼んだ。
女性スタッフは便箋を受け取り、かれている式へく目を落とした。やがて形式な笑顔を浮かべ、教授へ届けると約束した。
ひなはくをげた。
そのが本当に教授のへ届くのかは分からなかった。
広告
それでも、自分ができることはしたのだとい、母のもとへ戻った。
母は何も言わず、ひなのを握った。
そのさな便箋が、数に学の研究者たちを沈黙させることになるとは、そのの2はまだらなかった。
そのの午、物理学部の研究棟にある教授では、数の研究者がそれぞれの机に向かっていた。部には淹れたばかりのコーヒーのりが漂い、パソコンの作音とをめくる音が静かになっていた。
グレッグ・シュミット教授は、午にスタッフから渡された便箋をのポケットから取りした。
「本から来た子どもが、ロビーの公式に違いがあると言っています」
スタッフからそう説された、シュミット教授も最初は、子どもが記号をき写しただけのだとっていた。忙しさもあり、そのではをほとんど確認せず、何となく捨てる気になれないまま持ち帰っていたのである。
便箋を机のに広げると、学のロビーに掲示されている公式の部が、丁寧な文字でき写されていた。そのには別の係数が記され、問題だとじた記号の周囲にさな丸がつけられている。
端には、し自然ではあるものの、懸命にいたことが分かる英文が添えられていた。
「違っていたら、ごめんなさい。
広告
でも、何かが違うようにじます」
シュミット教授は便箋を眺めながら、わずかに苦笑した。
研究者たちが扱ってきた式を、8歳の子どもが見ただけで訂正できるとは考えにくい。掲示されてから21が過ぎるに、何もの教授や学が同じ公式を目にしてきたのである。
それでも、女が示した位置は偶然にしては妙に具体だった。
教授は子へ座り直し、パソコンをいた。数分だけ確認しておこうといながら、ひながいた修正案を数式ソフトへ入力した。
最初の計算結果が画面に表示された、教授の指が止まった。
予していたものとは違っていた。
ひなが示した係数を使うと、式全体のつながりが崩れるどころか、従来より定した結果がたのである。教授は姿勢を正し、条件を変えてもう度計算した。
結果は同じだった。
「おい、しこれを見てくれ」
シュミット教授が声をげると、隣の机にいた研究者が子を滑らせるようにづいてきた。2は便箋と画面を見比べながら、別の解析ソフトでも同じ式を試した。
何度計算しても、女の修正には理があった。
さらに過の実験記録を当てはめると、それまで測定の誤差として処理されていた微妙なずれが、修正の式では無理なく説できた。21、装置や環境の響だとわれていた数値の揺れが、係数そのもののさな誤りによってじていた能性が浮かびがったのである。
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
「慰謝料500万円」ママ友が出した弁護士の名刺に驚愕
夫を亡くし、九歳の娘すももを一人で育てる弁護士・水瀬ひまり。ある日、投資で多額の借金を抱えたママ友の香織から、突然「夫との浮気の慰謝料500万円を払え」と迫られる。 証拠として突きつけられたのは、身に覚えのないLINEと、弁護士を名乗る男の名刺。ところが、その名刺には、ひまり自身の名前が記されていた。 偽りの請求、広がる不倫の噂、そして娘の学校生活にまで及ぶ嫌がらせ。ひまりが証拠を集め始めると、思いもよらない金銭トラブルが浮かび上がる。母として、弁護士として、彼女が下す決断とは――。怒り|裡の顔|真相|第二の人生|金銭問題2.8万字5 219 -
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 507 -
完結第20話
借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算
父の急逝により、43歳の真帆が引き継ぐことになったのは、信州の古びた温泉旅館と約3億円の借金だった。夫の拓也は「貧乏になる前に離婚してくれ」と冷たく言い放ち、ただ一人、17歳の息子・勇気だけが母について行くと決める。 亡き父の宿を守ろうとする真帆だったが、遺された宿日誌から夫の恐ろしい裏切りが発覚。さらに離婚協議では、16年間つけ続けた家計簿が思わぬ反撃の切り札となる。 夫に見捨てられた母と息子は、3億円の借金を抱えた旅館で新たな人生を切り開けるのか――。人生逆転|真実|孤獨|親子関係2.4万字5 80 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 83 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 507 -
完結第13話
昭和21年、米を没収された母が引き返した理由
昭和21年秋、食糧難の大阪。三人の子どもを育てる森川澄子は、大切な着物と引き換えに手に入れた二升の米を、買い出し列車で警察に取り上げられてしまう。途方に暮れる母へ、十歳の息子が告げたのは、米袋の中に隠された小さな鉄の箱の存在だった。次の駅で引き返し、警察に事情を話した澄子。しかし、その箱に刻まれた三本の稲穂の印は、母子寮から消えた救援物資と、夫が隠していた仕事の秘密へとつながっていく。家族の生活さえ脅かされる中、一人の母親がたどり着く真実とは――。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 173 -
完結第14話
「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実
結婚17年目、42歳の立花伊佐美は、単身赴任中の夫・秀哉から突然離婚を突きつけられた。 「3月末までに息子と家を出ていけ」 長年家庭を支えてきた妻に、夫はわずかな解決金しか渡さないと言い放つ。ところが、赴任先を訪れた伊佐美は、夫が別の女性と6歳の息子を育て、もう一つの家庭を築いていた事実を知る。 絶望する伊佐美に手を差し伸べたのは、夫と不仲だった義父・信造だった。 そして3月28日。新しい妻子を連れて家を奪いに来た秀哉は、まだ知らなかった。自分の知らないところで、すべてが変わっていたことを――。夫婦|真実|親子関係|修羅場|不倫1.9万字5 487 -
完結第20話
7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った
七年間大切に伸ばしてきた髪を、妹の美緒に突然切り落とされた凛。ところが両親も婚約者の修も、泣きそうな彼女を見て笑うばかり。それどころか、凛が泣き出すまでの時間を賭けていた。 長年、家族のために自分の希望を諦めてきた凛は、ついに婚約を破棄し、遠く福岡への転勤を決意する。 だが、彼女が去ったあと、家族が遊び半分で撮影していた動画から、思いがけない事実が明らかになっていく。 失った七年間を取り戻すように、新しい人生を歩み始めた凛。彼女を笑い続けた人々を待ち受ける結末とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|真相|第二の人生2.9万字5 1540 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 1078 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 949