"消えた父子の23枚" 第10話
内部の壁には、消防士代の写真が何枚も飾られていた。若い頃の輝と林が制姿で並び、笑っている写真もあった。
湊はその写真のからくことができなかった。のでしからなかった男が、確かにこの世界でき、働き、自分を守ってくれていたことを実していた。
林は湯を沸かし、3へ温かい茶をした。全員が席へ着くと、い胸の内に隠してきた真実を語り始めた。
「輝が赤ん坊を連れてきた、私は正気ではないとった。だが、理由を聞いて助けることにした」
林は湊を見つめた。
「君の母親、美恵は国会議員・田健の秘だった。2は秘密の関係を持ち、美恵は君をごもった」
当初、田は責任を取ると約束していた。しかし総理臣候補として名が挙がり始めると、美恵と子供のが政治としての経歴を傷つけると考え、態度を変えた。
「田は美恵に子供を諦めるよう迫った。だが、美恵は拒否した。さらに彼女は、田の違法な政治資や贈収賄に関する証拠を持っていた」
湊のが震えた。
「田健が、僕の実の父親なんですか」
「物学にはそうだ。だが、父親として君を守ろうとしたことは度もない」
林は戸棚から古い箱を取りした。には型のテープレコーダーと、1本のカセットテープが入っていた。
広告
「これは美恵さんが残した証言だ。自分に危険が迫っていることをり、輝へ預けた」
再ボタンを押すと、雑音の向こうから若い女性の声が流れ始めた。
『私の名は美恵です。この録音を聞いているがいるなら、私はすでに危険な状況にあるといます』
声は落ち着こうとしていたが、ところどころで震えていた。
『私は国会議員・田健の秘でした。私たちは関係を持ち、私は妊娠しました。彼は最初、責任を取ると約束しました。しかし、総理臣候補として注目され始めると、態度を変えました』
『田は私に子供を諦めるよう求し、拒否すると脅すようになりました。私は彼の違法な政治資と贈収賄に関する証拠を持っています。この証拠を――』
そこで音声は激しい雑音に変わり、途切れた。林はレコーダーを止め、く息を吐いた。
「美恵さんはこの録音を残した、審な交通事故でくなった。輝は彼女の古い友で、最の頼みとして君を託された」
斎藤彩佳も美恵の学代の友だった。輝からハルトを全な庭へ託したいと相談を受け、養子縁組センターで記録をき換えたという。
彩佳は正規の続きを無したのではなく、田側のに子供を見つけられないよう、報を消した。だが、やがて彼女自も追跡され、奥摩で消息を絶った。
広告
「USBメモリに残された資料を公表すれば、田の政治命は終わるかもしれない」
林はい調で続けた。
「だが、相はい権力を持っている。輝は、君が何もらず平凡にきられるなら、それが番だと願っていた」
の窓からかりが差し込み、テーブルに置かれた古い写真を照らしていた。湊は輝、美恵、彩佳、そして育ての両親の顔を順番にい浮かべた。
りも、しみも、混乱も消えてはいなかった。しかし、そのの底には、自分を守るためにを懸けた々へのい謝があった。
「僕は、真実を公表したいです」
湊はゆっくり顔をげた。
「輝さんと母さん、彩佳さんの犠牲を、なかったことにしたくありません」
「俺たちも協力する」
優斗が答えると、奈も頷いた。
「でも、1ではかないで。私たちが緒にいるわ」
林はい、湊の顔を見つめていた。やがて、かすかに笑みを浮かべた。
「君は、自分が伊藤ハルトなのか鈴湊なのか迷っているのだろう」
湊は無言で頷いた。
「名は、君ののすべてではない。どの名を名乗り、どのようなとしてきるかは、君自が決めていい」
夜がける頃、湊は自分の答えをにした。
「僕は鈴湊という名できていきます。それは、育ててくれた父と母がを込めて呼んでくれた名です」
湊は輝の写真をに取り、胸ので切に抱えた。
「でも、伊藤輝さんを僕の父親として記録に残したい。
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
「慰謝料500万円」ママ友が出した弁護士の名刺に驚愕
夫を亡くし、九歳の娘すももを一人で育てる弁護士・水瀬ひまり。ある日、投資で多額の借金を抱えたママ友の香織から、突然「夫との浮気の慰謝料500万円を払え」と迫られる。 証拠として突きつけられたのは、身に覚えのないLINEと、弁護士を名乗る男の名刺。ところが、その名刺には、ひまり自身の名前が記されていた。 偽りの請求、広がる不倫の噂、そして娘の学校生活にまで及ぶ嫌がらせ。ひまりが証拠を集め始めると、思いもよらない金銭トラブルが浮かび上がる。母として、弁護士として、彼女が下す決断とは――。怒り|裡の顔|真相|第二の人生|金銭問題2.8万字5 115 -
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 503 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 55 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 416 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 11 -
完結第13話
昭和21年、米を没収された母が引き返した理由
昭和21年秋、食糧難の大阪。三人の子どもを育てる森川澄子は、大切な着物と引き換えに手に入れた二升の米を、買い出し列車で警察に取り上げられてしまう。途方に暮れる母へ、十歳の息子が告げたのは、米袋の中に隠された小さな鉄の箱の存在だった。次の駅で引き返し、警察に事情を話した澄子。しかし、その箱に刻まれた三本の稲穂の印は、母子寮から消えた救援物資と、夫が隠していた仕事の秘密へとつながっていく。家族の生活さえ脅かされる中、一人の母親がたどり着く真実とは――。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 123 -
完結第20話
7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った
七年間大切に伸ばしてきた髪を、妹の美緒に突然切り落とされた凛。ところが両親も婚約者の修も、泣きそうな彼女を見て笑うばかり。それどころか、凛が泣き出すまでの時間を賭けていた。 長年、家族のために自分の希望を諦めてきた凛は、ついに婚約を破棄し、遠く福岡への転勤を決意する。 だが、彼女が去ったあと、家族が遊び半分で撮影していた動画から、思いがけない事実が明らかになっていく。 失った七年間を取り戻すように、新しい人生を歩み始めた凛。彼女を笑い続けた人々を待ち受ける結末とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|真相|第二の人生2.9万字5 1473 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 946 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 174 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 758