"復讐とんかつの逆転便" 第10話
特許問題の詳しい内容を公表することはなかったが、販売止の危を乗り越えたさな老舗として、コミが広がった。
注文数は再び増加し、柏は製造体制をしずつえていった。
父親は品質を守るため、急激に規模を広げることを拒んだ。
過の失敗を繰り返したくないといういもあった。
琢磨もその判断に賛成した。
「売れるに売れるだけ作った方がいいんじゃないの?」
綾音が尋ねたことがある。
だが父親は首を横に振った。
「作れない数まで売ったら、客を裏切る。うちはもう、数を追いかけない」
琢磨はその言葉を販売計画へ反映させた。
産数を限定し、予約販売を導入する。
注文を待たせる代わりに、品質を落とさない。
結果として希性がまり、「待ってでもべたいとんかつ」として気はさらにがった。
販売始から1半、柏は10かかると言われていた借を全額返済した。
完済のも、父親はいつもと変わらず厨にっていた。
朝から肉を切り、をつけ、油の温度を見ていた。
ただ1つだけ違ったのは、閉、の神棚のへ1でったことだった。
父親はをわせ、い、目を閉じていた。
綾音がろから声をかけた。
「お父さん、お疲れさま」
父親は背を向けたまま、さく頷いた。
肩がわずかに震えていた。
広告
琢磨はれた所から、その姿を黙って見守った。
綾音との距も、しずつ変わっていった。
仕事の打ちわせが終わった、2で事をするようになった。
最初は商品の話ばかりだった。
売、庫、購入者の、商品の案。
だが回数をねるうちに、卒業の話や族の話をするようになった。
綾音は、代の自分を何度も悔やんだ。
「が持ちだから、自分まで偉いとってた」
ある夜、の閉に2で片づけをしながら、綾音が言った。
「お父さんのがきくなって、周りのがみんな私に優しくしてくれた。それが私自の価値だと勘違いしてたの」
琢磨は洗った皿を拭きながら黙って聞いていた。
「堀川君にひどいことを言ったも、みんなが笑ったから、自分が正しいとってた」
綾音はを止めた。
「が駄目になって、友達だとってたが誰もいなくなって、初めて分かった。私の周りにいたたちは、柏のおを見てただけだったんだって」
「俺も似たようなものだ」
琢磨が言った。
綾音は顔をげた。
「成功すれば、誰かが俺自を認めるとってた。でも会社がきくなるほど、寄ってくるがを見ているようにじた」
「寂しかった?」
「別に」
「今、しがあったけど」
「うるさい」
綾音が笑った。
琢磨も、気づけば笑っていた。
広告
代、見す側と見される側だった2。
そのにあったものは、簡単に消えたわけではない。
琢磨は々、あの昼休みをいした。
綾音の何気ない言葉で傷つき、教で事ができなくなった自分を。
許したからといって、過がなかったことになるわけではない。
だが綾音は、言い訳をしなかった。
何度も謝り、琢磨がすぐに許せなくても受け止めた。
その姿を見ているうちに、琢磨もしずつ考えるようになった。
は、過にしたことだけで決まるのではない。
違いに気づいた、どうきるかでも変わるのだと。
やがて2は交際を始め、借完済からしばらくして婚約した。
周囲は驚いた。
代をる同級のには、信じられないという顔をする者もいた。
だが琢磨と綾音には、の反応はどうでもよかった。
ただし、琢磨には誰にも言っていない秘密があった。
最初は復讐するつもりで、何度も弁当を注文していたこと。
綾音に自分の成功を見せつけ、をげる姿を見て満しようとしていたこと。
この事実だけは、墓まで持っていくつもりだった。
婚約が決まった夜、琢磨はまともに連絡を取っていなかった母親へ話をかけた。
呼びし音が続く、何度も切ろうとった。
やがて、老いた母親の声が聞こえた。
「もしもし」
「俺だよ」
話の向こうが静かになった。
琢磨は息をえた。
「結婚することになった」
い沈黙の、かすかなすすり泣きが聞こえた。
「……よかった」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 53 -
完結第10話
銀座の384万円
巨大企業グループの総帥という身分を隠し、平凡な専業主婦として暮らす美央。夫と義母に見下されながらも、温かい家族を夢見て五年間耐え続けてきた。 義母の誕生日、55万円の高級バッグを用意して銀座のレストランへ向かうと、義家族はすでに食事を終えていた。美央の席も料理もなく、代わりに突きつけられたのは384万円もの請求書。 「会計はあなたが払って」 その言葉に、美央は静かに微笑んで店を去る。しかし義家族はまだ知らなかった。自分たちが誰を敵に回したのかを――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場1.6万字5 50 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 61 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 420 -
完結第15話
「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない
フリーランスの設計士・美穂は、三年間無職の夫・浩司と同居する義母・富江を、自分の収入で養い続けてきた。感謝されるどころか、夫からは「離婚するぞ」と脅され、生活費として25万円を要求される日々。 ところが、夫の浮気だけでなく、義母まで愛人を家へ招き入れ、亡き父から相続した家を奪おうとしていることが発覚する。 半年間、証拠を集め続けた美穂は、三年前に夫が署名した離婚届を手に、静かな反撃を決意する。しかし、何も知らない夫と義母は、さらに300万円を要求してきて――。怒り|夫婦|金銭問題|修羅場1.8万字5 482 -
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 1359