"天井裏の元彼" 第1話
20124、福岡央区。
24歳の林里奈は、古い5階建てビルの最階にあるワンルームマンションで、初めての暮らしを楽しんでいた。
部は決して広くなかった。玄関からい廊が延び、その脇にさなキッチンがある。奥にはベッドとソファ、テレビ台を置けば、ほとんど余は残らなかった。
それでも、里奈にとっては切な自分だけの空だった。
学卒業にさな貿易会社へ就職し、慌ただしく働き始めてから2。朝くをて、帰宅するのは午8を過ぎることもかった。
夕を簡単に済ませ、好きな音楽を聴きながら本を読む。週末には友と買い物へかける。
誰にもを尋ねられず、誰にも予定を決められない。
里奈は、ようやくに入れた自由をからんでいた。
その自由を奪い続けていたのが、3かに別れた恋、田誠だった。
誠は35歳で、里奈と同じ会社に勤めていた。交際を始めたのは約1だった。
最初の頃、誠は優しかった。
仕事で疲れているとみ物を買ってくれ、記でもないのにさなプレゼントを渡してくれた。里奈が困っていれば、誰よりもく気づいて声をかけた。
らしい落ち着きがあり、頼れるに見えた。
しかし、半ほど経った頃から、その気遣いはしずつ形を変えていった。
「今、どこにいる?」
広告
「誰と緒なの?」
「どうしてすぐ話になかった?」
仕事であっても、誠は何度も話をかけてきた。られなければメッセージが届き、返事が遅れるとさらに着信が増えた。
友と事をすると言えば、相の名を聞かれた。男性の同僚と仕事の話をしただけで、そのの夜まで問い詰められた。
やがて誠は、里奈の族や女性の友にまで嫉妬するようになった。
「休みのくらい、俺といればいいだろ」
「友達より俺のほうが事じゃないのか」
されているのではなく、監されている。
里奈がそうじ始めるまで、それほどはかからなかった。
何度も話しおうとした。
「私にもで過ごすが必なの」
里奈が静かに伝えると、誠は傷ついたように眉を寄せた。
「配してるだけだよ。好きだから、どこにいるかりたいだけだ」
その言葉を聞くたび、里奈は自分のほうがたいなのではないかとわされた。
だが、息苦しさは消えなかった。
20121の終わり、里奈は誠を自宅へ呼び、別れを告げた。
「もう続けられない」
誠はしばらく何も言わなかった。
やがて里奈のを掴み、何度も首を振った。
「悪かった。変わるから」
「今までだって、そう言ったでしょう」
「今度は本当に変わる。だから捨てないでくれ」
誠は泣いた。
それでも里奈が決を変えないと分かると、表が変した。
広告
「恩らずだな」
い声が、狭い部に響いた。
「俺ほどおのことを考えてる男はいない。絶対に悔するぞ」
誠は玄関のドアをく閉め、ていった。
翌朝、里奈はすぐに部の鍵を交換した。
それから数、誠は会社へ来なくなった。
司や同僚が話をかけても応答はなく、親族が方届をした。警察も方を捜したが、がかりは見つからなかった。
成した男性が自分ので姿を消した能性もある。
警察は、誠が失恋をきっかけに別の町で活を始めたのではないかと考えた。
やがて会社でも、誠の名が話題にがることはなくなった。
里奈も忘れようとした。
いなくなった理由を自分のせいだとわないようにした。
何より、あの息苦しい々から解放されたことに堵していた。
だが、里奈はまだらなかった。
誠はくの町へったのではなかった。
彼は、里奈のすぐくにいた。
壁よりもく、扉よりもい所で、里奈の活を見続けていた。
異変が始まったのは、誠が姿を消してから約3かだった。
最初は、本当に些細なことだった。
ある夜、里奈はコンビニでオレンジジュースを買い、蔵庫へ入れた。コップに半分だけ注ぎ、残りは翌朝むつもりだった。
ところが翌朝、パックを持ちげると、予していたよりも軽かった。
半分以なくなっている。
里奈は蔵庫ので首を傾げた。
「昨、そんなにんだっけ……」
疲れていたため、覚えていないだけかもしれない。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
ATMで呼ばれた「奥様」
離婚の日、夫から一枚のキャッシュカードを渡された美月。 「これで最後だ。暗証番号は0427」 それは2人が婚姻届を出した日の数字だった。夫に捨てられた悔しさから、美月は3年間、一度もカードを使えずにいた。 仕事を失い、預金が7300円になったある日、とうとうATMへカードを入れる。しかし暗証番号を押す前にエラーとなり、銀行員から「奥様、別室へどうぞ」と案内された。 離婚したことを伝えても、銀行員は「承知しております」と答えた。そして別室で差し出されたのは、元夫が預けていた一通の封筒だった。 表には、《0427を覚えていてくれた美月へ》の文字。冷たく自分を切り捨てたはずの夫は、なぜ3年後に美月が銀行へ来ることを待っていたのか。使われなかったカードには、彼女が知らない夫の決断が隠されていた――。夫婦|真相|金銭問題|熟年離婚2.1万字5 1510 -
完結第13話
一枚のタダ券から始まった家族
夫を亡くし、家賃も食費も尽きかけていた早苗は、5歳の娘・歩美を連れ、冷たい雨の町をさまよっていた。 道端で拾った「唐揚げ1個サービス」の券を握り、閉店間際の《川村食堂》を訪れた早苗。ところが店主の健一は、券の使い方を間違えている彼女を追い返さず、母娘の前に大盛りの唐揚げ定食を置いた。 さらに健一夫婦は、行く場所のない2人を食堂の2階へ住まわせることにする。しかし案内された部屋には、色鉛筆や子ども服、若い夫婦と少女が写った古い家族写真が、暮らしていた当時のまま残されていた。 写真の裏に書かれていた少女の名前は、早苗の娘と同じ「歩美」。しかもその部屋は、健一夫婦が10年間、誰にも使わせずに守り続けてきた場所だった。 なぜ君子は初対面の少女を見た瞬間、「歩美ちゃん」と呼んだのか。雨に濡れた一枚の券から始まった母娘との出会いが、帰らない家族を待ち続ける老夫婦の止まった時間を動かしていく――。人生逆転|真相2.0万字5 466 -
完結第15話
妻の葬儀で老犬が暴いた秘密
妻の葬儀から3日目の夜、元自衛隊三佐の石田隆は、老犬・小太郎の異様な行動に息をのんだ。 後飾り祭壇へ飛びかかった小太郎。その拍子に倒れたろうそくの火が白布へ燃え移り、祭壇の下に隠されていた不自然な床板が露わになる。 そこから見つかったのは、妻・幸子が大切にしていたはずの花瓶と、身に覚えのない不動産書類だった。 階段からの転落事故として片づけられた妻の死。だが、弟夫婦との金銭トラブル、土地を巡る不可解な要求、そして幸子が亡くなる直前に残していた「大丈夫」という言葉が、少しずつ別の意味を帯びていく。 妻は本当に事故で亡くなったのか。 老犬が暴いた床下の秘密をきっかけに、隆は妻が最後まで守ろうとしていた家と、葬儀の陰で隠された真実を追い始める――。夫婦|真相|金銭問題2.2万字5 4630 -
完結第11話
卒業3か月前に消えた娘
1995年11月、卒業まであと3か月だった富山大学4年生・大山蓮子が、突然消息を絶った。 家には財布も読みかけの本も残されていた。ところが、半年以上かけて集めた卒業論文の取材資料だけが、すべて消えていた。 蓮子は都市開発で土地を手放した住民たちを訪ね、補償金の記録を調べていた。失踪前、友人には「土地のお金を調べていたら、生きている人たちの話が出てきた」と漏らしている。 下宿に残された地図には、土地買収が行われた3つの地域を示す赤い丸。そして古い行政資料から浮かんだ担当者の名前は、失踪前夜に蓮子と口論していた叔父・達夫だった。 達夫には完璧なアリバイがあり、捜査はやがて縮小される。しかし6年後、赤い丸がつけられた土地の工事現場から、二重の袋で守られた2枚の書類が見つかった。 余白には蓮子の筆跡で、こう記されていた。 《単価に不自然な変更あり》 そして最後に――《担当者 大山達夫》。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 561 -
完結第11話
合格発表の日、父は消えた
2003年3月8日、19歳の佐伯千春は第一志望の大学に合格した。ところが、その夜に祝うはずだった父・正雄は、勤務中のタクシーと黄色いチューリップだけを残して姿を消す。 車内には千春の合格通知書があり、料金メーターに残された最後の走行距離は43キロ。しかし、なぜか運賃は「0円」だった。さらに父のロッカーからは、《千春には大学を諦めてもらうしかない》と書かれたメモまで見つかる。 多額の借金を知った千春は進学を断念し、父に捨てられたという思いを抱えたまま20年を生きてきた。 2023年、廃業したタクシー会社の倉庫から、父が最後に運転した27号車が発見される。壊れた料金メーターを解析すると、正雄が失踪前の18か月間、毎月同じ施設から同じ乗客を乗せ、東京まで運んでいた記録が残されていた。 そして後部座席から見つかったのは、《佐伯千春》と印刷された一枚の生徒証。しかし、そこに写っていた少女は千春ではなかった。父はなぜ、見知らぬ少女へ娘と同じ名前を与え、合格発表の日に彼女を乗せたのか――。ミステリー|真実|真相1.6万字5 1097 -
完結第12話
消印は失踪の3日後
1996年、岐阜県北部の山あいの町で、配達中の女性郵便局員・小沢真紀が突然姿を消した。 郵便バイクは旧バス停のそばで見つかり、翌朝には河原で制服帽も発見された。警察は川への転落を疑ったが、真紀の姿はどこにもなかった。 それから25年後、閉鎖された旧郵便局の壁の中から、真紀の職員番号が書かれた郵便袋が見つかる。中には、亡くなったはずの人々に関する記録と、真紀が失踪3日後に投函した一通の手紙が残されていた。 そこに書かれていたのは、息子・拓海へ向けた不可解な指示。 「年賀状を全部調べて」 母は本当に川で消えたのか。なぜ死者の名前で年賀状が届き続けていたのか。そして父は、25年間何を隠していたのか。 届かなかった手紙が、長い沈黙の奥に封じられた真実を少しずつ暴いていく――。ミステリー|行方不明1.8万字5 208