"9,000億円の離婚届" 第6話
くを引き、鏡ので背筋を伸ばす。
浩司の顔をうかがい、怯えていた昨までの私は、もういなかった。
午1、浩司が勤務する会社のエントランスへ入った。磨きげられた理のに、私の物のパンプスの音がく響いた。
ロビー奥の応接スペースには、弁護士が先に座っていた。葬儀ののなスーツではなく、仕ての良いグレーのスーツを着て、胸にはの弁護士バッジがっていた。
「ゆみさん、よく来られましたね」
さんは向かいの席を勧めた。
「浩司さんには、お父様の遺産相続について確認したい類があるとだけ伝えました。私が弁護士だとは、まだらせていません」
しばらくすると、エレベーターの扉がいた。
浩司が腕計を見ながらに歩いてきた。そのろには、派な化粧をした美穂が、体を寄せるようについてきていた。
「まったく、忙しいに葬儀の分際で――」
浩司が顔をげ、私の姿を認めた瞬、言葉が止まった。
「お、お……どうしてここにいるんだ」
声がけないほど震えていた。
美穂も私の顔を見て、怪訝そうに眉をひそめた。私はちがらず、静かに微笑んだ。
「こんにちは、浩司さん。今は父の本当の遺産について、しお話をしましょう」
浩司は周囲の社員を気にしながら、向かいのソファへ腰をろした。
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美穂も当然のように隣へ座り、私の紺のスーツをからまで眺めた。
「浩司さん、この方が奥様ですか?」
美穂は、わざと周囲に聞こえるい声で尋ねた。
「本当にお気の毒なですね」
線が、私の膝ので組んだ両へ落ちた。の事と清掃パートでひび割れ、指先には絆創膏が貼られていた。
美穂は、自分のきれいなネイルを見せつけるように指をかした。
「お父様ののお世話ばかりして、女としての価値も、ご自分のも全部捨ててきたんですね。だからご主にも捨てられるんですよ」
そのい言葉は、私が族のために捧げてきた28を、根元から否定するものだった。
胸が締めつけられ、私は無識にをテーブルのへ隠そうとした。
「とても美しいです」
隣にいたさんが、静かにをいた。
騒がしいロビーのでも、その声は議なほど瞭に響いた。
「自分のを削り、誰かの命を最まで支え続けた、誇りいです。恥じることなど、何ひとつありません」
美穂は満げに顔をしかめた。私は隠しかけたを、もう度膝のへ戻した。
そうだ。
私は、何も恥じる必はない。
「おい。葬儀が偉そうにを挟むな」
浩司が指先でテーブルを叩いた。
「それより、ゆみ。遺産の話って何だ。俺は今朝、親父のへってきたんだぞ」
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顔を寄せ、声を荒らげる。
「残3万円ってどういうことだ。残りのはどこへ隠した。俺が払った見だけでも、すぐ返せ」
さんは内ポケットから名刺を取りし、浩司のへ置いた。
「私は葬儀社のではありません。ゆみさんの代理を務める、弁護士のです」
浩司の目が、名刺と胸のバッジへ釘づけになった。
「べ、弁護士……?」
「そして、くなられたお父様から、に遺言執を託された者でもあります」
浩司は私と名刺を交互に見た。
「遺言だと? あのぼろアパートの貧乏管理に、遺言なんてあるわけがないだろう」
がる声の端が震えていた。
私は姿勢を正し、浩司をまっすぐ見た。
「浩司さん。あなた、どうしても今すぐ3,000万円が必なのよね」
浩司の肩がきくねた。
「な、何の話だ」
「昨、のへ捨てた私の荷物に、あなたの古いジャケットが混ざっていたの」
額に汗が浮かび、浩司はネクタイへをやった。
「規設法の資同が入っていたわ。あなたと美穂さんが、それぞれ3,000万円をす予定だったのよね」
美穂の顔からも血の気が引いた。
「あれは、ただの計画だ。まだ決まったわけじゃない」
浩司は震えるでテーブルをつかんだ。
「おには関係のない話だ」
私は今度、美穂へ顔を向けた。
「美穂さん。の1112、どうして父の病にいらしたの?」
美穂が息をみ、体をくした。
「父が危篤状態から戻ったばかりで、まだ声もせなかったよ。私が買い物で病院をれている隙に、1で入ったのね」
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