"9,000億円の離婚届" 第7話
バッグから名刺を取りし、テーブルへ置く。
「父が、あなたの名刺を持っていました。裏には、父の字で全てかれていたわ」
『のい女性が来た。く遺産を渡せと迫られた』
私が読みげると、美穂は隣の浩司を見た。
「浩司さん、あなた、何も言ってなかったじゃない」
「おい、おこそ、俺に黙って病院へったのか」
「違うの。私は、し様子を見にっただけで……」
2は互いを責め始めた。
完璧だとっていた計画は、名刺1枚によって音をてて崩れ始めていた。
私はゆっくりちがった。
「今は、ご挨拶に来ただけです。本当の遺産については、今週末の親族会議でお話しします」
浩司が慌てて私の腕をつかもうとした。私はそのをたく払いのけた。
「ゆみ、3,000万円の件は違うんだ。俺はただ、独を考えていただけで――」
「浩司さん」
私はい声で遮った。
「あなたは、もう私の夫ではありません。あなたが置いていった婚届には、すでに判を押しました」
浩司はを半きにし、そのへ崩れるように座った。
周囲の社員たちが、何事かとこちらを見ていた。美穂は震えるで顔を覆っている。
私はさんに目配せし、1度も振り返らずに会社をた。
自ドアを抜けると、たいが照った頬によかった。私を縛っていた鎖が、また1つ切れたようにじられた。
広告
その夜、実でほうじ茶をんでいると、スマートフォンが何度も鳴った。
画面には、浩司からの着信履歴が何件も並んでいた。続いていメッセージが届いた。
最初は謝罪だった。
『ゆみ、頼むから話を聞いてくれ。俺が悪かった。昨は気がっていたんだ』
私が返信せずにいると、内容は次第に変わった。
『親族会議なんかいたら、臓のい母さんが倒れるぞ。おは殺しになる気か』
さらに続いた。
『おみたいにを取った取り柄のない女、俺が捨てたらどうやってきていくんだ。謝こそすれ、逆らうなんてがおかしい』
最には、脅しへ変わっていた。
『の朝、アパートへく。逃げたらただじゃおかないからな』
私は無表のまま、着信拒否のボタンを押した。浩司との連絡段を全て断つと、部は静寂に包まれた。
自分のい通りにならないと分かった途端、謝罪から脅しへ切り替える。それが、28連れ添った夫の本当の姿だった。
胸に残っていたわずかな迷いも、完全に消えた。
翌朝、私は弁護士とともに、京駅にあるの本を訪れた。
な造りの建物、い井、磨きげられた。私がパート帰りに利用していた所の支とは、空気そのものが違っていた。
受付でさんが名を告げると、般の客が入れない奥の特別へ案内された。
広告
柔らかな革張りのソファへ座り、された級そうな緑茶を見つめる。バッグのでは、父の黒いカードをく握っていた。
やがて扉がき、仕ての良いスーツを着た初老の男性が入ってきた。
「お待ちしておりました。支の川と申します」
川支は私を見るなり、々とをげた。
「お父様には、私が入員だった頃から変お世話になりました。よりお悔やみ申しげます」
私は戸惑いを隠せなかった。
「あの、私の父は築40のアパートの管理でしたが……」
川支とさんは顔を見わせ、穏やかに微笑んだ。
「ゆみさん。お父様は世の目を避けるため、あのアパートの管理として静かに暮らしておられたのです」
さんが説を始めた。
父はかつて、都内の産発を掛ける資産だった。しかしに群がる々や、遺産を巡って争う親戚に疲れ果て、10以に事業の第線から退いたという。
ただ1つ、若い頃からいい入れを持っていた京駅の型商業ビルだけは放さず、信託と管理会社を通じて所を続けていた。
川支が分い革張りのファイルをいた。
「こちらが、お父様の所されていたビルの資料と、特別座の細です。全てをゆみ様1へ相続させる公正証遺言が残されています」
類には、目眩がするような数字が並んでいた。
評価額、約9,000億円。
毎振り込まれる莫な賃料収入。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 64 -
完結第10話
車椅子妻の断罪
建築事務所の代表として成功し、銀座に複数の商業ビルを所有していた鈴木加奈。 しかし3か月前、現場での転落事故により下半身不随と診断されてから、彼女の人生は一変する。献身的な夫を演じる健二は、病室で薬に朦朧とする加奈の指を使い、財産と経営権を奪う書類に指印を押させていた。 さらに、加奈の回復の可能性を隠し、リハビリまで中止させていたことが判明する。 何も知らない患者のふりをしながら、加奈は密かに証拠を集め、夜ごと誰にも知られず足を動かす訓練を続けていた。 そして真夏のある日、健二は加奈を山奥へ連れ出す。 車椅子のブレーキを外れかけにしたまま、夫は妻を置き去りにした。 だが、夫の車が完全に見えなくなった瞬間、加奈は静かに顔を上げる。 彼女はもう、何もできない妻ではなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 30 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 819 -
完結第8話
藤蔵は二度生きた
1815年、武蔵国多摩郡中野村に生まれた8歳の少年・小谷田勝五郎は、ある日、兄と姉に不思議な問いを投げかけた。 「生まれる前に、どこにいたか覚えている?」 勝五郎は、自分が以前は山の向こうの程久保村で暮らす「藤蔵」という少年だったと語り始める。前の両親の名前、家の場所、亡くなった時の記憶、そして死後に見たという白い髭の老人――。 最初は家族だけの秘密だったその話は、やがて実際の村や家族の記録と重なり始める。 初めて訪れたはずの程久保村で、勝五郎は迷わず“前世の家”へ向かった。さらに、家族しか知らない出来事や、土の中に隠された小刀の場所まで言い当てていく。 これは本当に生まれ変わりなのか。 それとも、江戸時代の村に残された不思議な偶然なのか。 8歳の少年が語った記憶は、学者や文人たちの手によって記録され、やがて日本で最も有名な生まれ変わりの物語として語り継がれていく。人生逆転|真実1.2萬字5 270 -
完結第8話
愛人旅行の代償
定年の日、美和は36年間支えてきた夫・秀治のために、好物の夕食を用意して待っていた。 しかし帰宅した秀治が連れてきたのは、見知らぬ若い女性だった。 「退職金で香織と海外旅行へ行く。帰ってきたら離婚届に判を押せ」 夫はそう言い放ち、さらに美和に家を出て行くよう命じる。長年守ってきた家庭も、妻としての時間も、すべてなかったもののように扱われた美和。 だが、彼女は泣かなかった。 旅行へ向かう夫と愛人を静かに見送り、ただ一つだけ確認する。 「この家のことは、私が決めていいのね」 数日後、海外旅行から戻った秀治を待っていたのは、見慣れた玄関ではなく、ロープで囲まれた更地と「売却済み」の看板だった。 夫が知らなかった、この家の本当の持ち主。 そして美和が36年の結婚生活の最後に下した、静かな決断とは。夫婦|金銭問題1.2萬字5 6482 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 970