"消えた背番号1" 第6話
息子のの真相をらないまま、5待ち続けたという。
「武志は、きっとどこかで見ている」
母親はくなる直まで、そう話していた。
その言葉を聞いた夜、藤原はホテルの部で泣いた。
何度も警察へこうとした。
しかし翌になれば、怖くなった。
今さら本当のことを話せば、すべてを失う。
族も、選活も、築きげてきた名声も失う。
藤原は沈黙を選び続けた。
1が過ぎた。
5が過ぎた。
10が過ぎた。
嘘をねるほど、告することは難しくなった。
やがて藤原の肩は、うようにがらなくなった。
最の登板の、藤原はマウンドのを踏みしめた。
捕がサインをした。
藤原はボールを握ったが、投げることができなかった。
ので、18の声が聞こえた。
健、やめろ。
藤原はマウンドをりた。
そして引退を決めた。
もう、自分だけが何事もなかったようにき続けることはできなかった。
引退会見の、球団が用した原稿には、肩の故障と若への世代交代が理由としてかれていた。
しかし藤原は、その原稿を読まなかった。
18守ってきたものを、すべて捨てる覚悟を決めていた。
「僕が武志を殺しました」
告の直、会にいた警察関係者が藤原へづいた。
「藤原さん。詳しく話を聞かせてください」
藤原は涙を拭わず、うなずいた。
「はい。
広告
全部話します」
そのの夕方、本に速報が流れた。
元プロ野球投、18の事件を自。
藤原は警察署へ連れてかれ、夜遅くまで取り調べを受けた。
「で殴ったのは違いありませんか」
「違いありません」
「なぜ18黙っていたのですか」
藤原はいうつむいていた。
「怖かったからです」
やがて、かすれた声で答えた。
「武志を殺したことより、自分のを失うことを恐れていました」
翌、藤原健は殺容疑で逮捕された。
36歳だった。
藤原の告をった武志の妹は、取材陣ので涙を流した。
「18、事故だとっていました」
兄がくなった、学だった妹は34歳になっていた。
「兄は殺されていたんですね。それも、友達だとっていたに」
弟もまた、兄の、族を支えるために働き続けていた。
「藤原さんを許すことはできません」
そう言った、弟はい沈黙を置いた。
「でも、自しなければ、僕たちは何もらなかった。それだけは……話してくれてよかったといます」
武志の墓には、くのが訪れた。
かつての野球部員、学関係者、当の試を覚えている野球ファン。
誰もがを供え、静かにをわせた。
裁判が始まると、藤原は起訴内容を認めた。
「違いありません。僕が宮崎武志を殺しました」
検察側は、嫉妬という勝なで友を殺害し、18も真実を隠し続けた点を厳しく追及した。
広告
弁護側は、計画な犯ではなく、論の末の衝な為だったと主張した。
また、藤原が自ら記者会見で告し、捜査に全面に協力したことも考慮するよう求めた。
証として、当の監督が法廷にった。
すでに髪が増え、背もし曲がっていた。
「2とも、いい選でした」
は証言台で唇を震わせた。
「武志は才でした。藤原は努力の選でした。藤原がいつも2番で苦しんでいたことに、私は気づいていたはずです」
の目から涙がこぼれた。
「それでも、何もしてやれませんでした。武志の庭の苦しみにも、藤原ののにも、私は気づけなかった。監督だった私にも責任があります」
続いて、武志の妹が証言台にった。
「兄は優しいでした」
声を震わせながら、藤原を見つめた。
「族のために聞を配り、で働いていました。野球が好きだったのに、私たちのために諦めようとしていたんです」
妹は涙を拭った。
「藤原さん。あなたは兄の何をっていたんですか」
藤原は顔をげることができなかった。
「兄がどれほど苦しんでいたかっていて、それでも殺したんですか」
「……はい」
「母は、兄のから5にくなりました。最まで事故だとっていました。兄が帰ってくるような気がすると、何度も言っていました」
法廷は静まり返った。
「母が真実をらずにくなったことだけが、せめてもの救いだったのかもしれません」
広告
おすすめ作品
-
完結第9話
8年目の遺失物
1997年8月、東名高速道路の富士川サービスエリアで、28歳の岡田裕子が突然姿を消した。 夫と車で帰宅する途中、トイレへ行くと言って車を降りたまま戻らなかった裕子。夫はその場で通報せず、1人で車を出し、失踪届が出されたのは3日後だった。 財布も身分証も、幼い息子と写った家族写真も見つからないまま、事件は未解決のまま時だけが過ぎていく。 そして8年後。 遺失物センターの棚の奥から、古びたベージュ色のバッグが発見される。中には裕子の身分証、家族写真、そして震える文字で書かれた手紙が残されていた。 「私は今、1人では家に帰ることができません」 あの夜、裕子は本当に消えたのか。 夫はなぜ、妻を残して走り去ったのか。 そして、バッグを届けた“別の女性”は何を知っていたのか。 8年間止まっていた家族の時間が、古いバッグの中の手紙によって、静かに動き始める。ミステリー|行方不明1.3萬字5 23 -
完結第13話
霧葬の山岳会
1998年10月、長野県の山岳会で、ただ1人の女性会員・高木真美が白い霧の中から姿を消した。 翌年に結婚を控えていた28歳の真美。仲間たちと向かった秋の黒岩岳で、彼女は突然行方不明となり、事故による滑落として処理された。赤いキャップとちぎれたザックの一部だけを残して、遺体は見つからなかった。 残された母は、娘の死を受け入れられないまま、毎年10月12日になると警察へ手紙を書き続けた。 「あの日、娘に何があったのか。どうか、もう一度調べてください」 そして16年後。 黒岩岳の岩の隙間から、古い登山靴と人骨が発見される。そこは、滑落した人間が偶然たどり着くにはあまりにも不自然な場所だった。 さらに遺骨には、事故では説明できない傷が残されていた。 16年前、霧の中で本当は何が起きていたのか。 そして、山岳会の仲間たちはなぜ同じ証言を繰り返したのか。 母の手紙が止めなかった時間が、ついに閉ざされた山の沈黙を破り始める。因果応報|行方不明|孤獨2.0萬字5 14 -
完結第8話
10年目の地下室
2004年12月、忘年会の夜。 会社員の田村孝介は、2次会で訪れたカラオケ店から妻へ電話をかけた。 「もうすぐ出る。少し地下に降りるだけだから」 それが、家族が聞いた最後の声だった。 翌朝になっても田村は帰らず、携帯電話の電源は切れたまま。財布も口座も動かず、どこかへ逃げた形跡もない。妻は何度も「夫は地下に降りると言った」と訴えたが、警察は事件性を認めず、行方不明として処理した。 その後、カラオケ店は突然廃業し、店長は海外へ出国する。 誰も調べなかった地下。 不自然に塗り固められたコンクリートの壁。 そして、田村の名前の横に残された謎の星印。 10年後、老朽化したビルの解体工事中、閉ざされていた地下から人骨が見つかる。 田村はなぜ地下へ向かったのか。 あの夜、彼は誰と何を話したのか。 そして、真実をコンクリートの奥へ封じ込めたのは誰だったのか。 忘れ去られたはずの忘年会の夜が、10年の時を越えて再び動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 110 -
完結第8話
床下に消えた29年
2023年、岐阜県の山中にある古民家で深夜に火災が発生した。 焼け跡から見つかったのは、この家で1人暮らしをしていた高齢男性の遺体。古い木造家屋の痛ましい火事として処理されるはずだった。 しかし、消防士が焼け落ちた床を踏み抜いた時、事件はまったく別の顔を見せる。 床下に広がっていたのは、誰も存在を知らなかった暗い空間。そこには、木の板に縛りつけられたまま長い年月を過ごした、女性の乾燥遺体が横たわっていた。 遺体のそばに残されていた古い医療カード、切り裂かれた写真、そして日記に記された不気味な一文。 「もう彼女は逃げることができない」 29年前、自ら姿を消したと思われていた女性は、本当に新しい人生を選んだのか。 それとも、誰にも知られない山中の家で、ずっと助けを待ち続けていたのか。 すべてを灰に変えた火が、長年閉ざされていた床下の秘密を暴き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 142 -
完結第8話
天井裏の元彼
2012年、福岡市の古いワンルームで一人暮らしを始めた小林里奈。 束縛の激しかった元恋人・山田誠と別れ、ようやく自由な生活を取り戻したはずだった。ところがその直後、誠は突然行方不明になる。 数か月後、里奈の部屋で奇妙な出来事が起こり始めた。 冷蔵庫の食べ物が少しずつ消え、置いたはずの物が別の場所へ移動する。夜になると、誰もいないはずの天井から、何かが這うような音が聞こえてくる。 警察も管理会社も、友人も、誰も里奈の言葉を信じなかった。 「疲れているだけ」 「気にしすぎだ」 そう言われ続けた里奈は、自分の記憶さえ疑い始める。 やがて彼女は、その部屋を逃げるように去った。 しかし2年後、寝室の天井裏から発見されたものが、里奈の恐怖が妄想ではなかったことを証明する。 あの夜、彼女が見上げていた天井の向こうには、確かに“誰か”がいた――。ミステリー|真相|行方不明1.1萬字5 231 -
完結第11話
消えた父子の23枚
2017年3月、奥多摩の山中で、元消防士の伊藤大輝と生後8か月の赤ん坊が跡形もなく姿を消した。 父子は遭難したのか。それとも、誰かから逃げていたのか。遺体も手がかりも見つからないまま、事件は6年の時を経て忘れられようとしていた。 しかし2023年、地質調査に訪れた大学生2人が、岩の隙間から古いデジタルカメラを発見する。そこに残されていたのは、赤ん坊を抱く父親の写真と、背後から近づく不審な人影だった。 さらに調査を進めるうち、2人は「伊藤ハルト」という名前を消され、「鈴木湊」として生きる青年にたどり着く。 彼は本当に、6年前に消えた赤ん坊なのか。 そして大輝が命をかけて守ろうとした“真実”とは何だったのか。 1台のカメラが、封じられた過去と、血よりも深い父の愛を静かに暴き出していく。ミステリー|真相1.6萬字5 930