"霧葬の山岳会" 第3話
やがては、急峻な岩稜帯へ取りついた。井は形を確認し、会員たちをザイルでつないだ。
先の第1パーティーは井、沢田、藤本だった。第2パーティーは酒井、久保、真美、井の順で続き、狭い岩を慎にむ形となった。
その頃から、底にたまっていたいガスが急速にがり始めていた。ほんの数分まで見えていた周囲の並みは消え、を歩く仲の背さえ、ぼんやりとしたに変わった。
「隔を詰めろ。声をかけってむぞ」
井の声がのからんだ。沢田と藤本がく返事をし、方でも酒井と久保が互いの位置を確かめた。
界は急速に悪化していた。岩の濡れた表面に靴底が滑り、が吹くたび、ザイルが岩肌を擦ってい音をてた。
その直、井は編成の変更を決めた。狭い本の稜線を7が続けば、ので全員がけなくなる危険があると判断したためだった。
第1パーティーの井、沢田、藤本はそのまま稜線をむ。酒井と久保はし側の巻きへ回り、井と真美は比較全に見えた側のいルートを通ることになった。
「井君、真美さんを頼む。無理はするな」
井が肩越しに声をかけると、井はい表で頷いた。
「分かりました」
真美は瞬だけ井たちの背を見たが、すぐに井のろへ続いた。
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2は1本のザイルで結ばれ、いのへゆっくりと入っていった。
最初の数分、真美と井は無言で歩いた。界は5mほどしかなく、方に見えるのは井のザックと、ザイルの部だけだった。
元には定ながなり、そのにはいがをけていた。真美は片で岩をつかみ、もう片方のでザイルの触を確かめながらんだ。
しばらくすると、先を歩いていた井がきな岩のでを止めた。真美も引かれたザイルにわせてち止まり、荒い息をえた。
「どうしたんですか」
声をかけると、井はすぐには振り返らなかった。ピッケルを握ったが、わずかに震えていた。
やがて井はゆっくり振り返り、の向こうにいる真美を見つめた。顔からは血の気が引き、何かを決したように唇を結んでいた。
「真美さん。しだけ、話を聞いてください」
真美は周囲の岩を見回した。がくなり、くち止まるには危険な所だった。
「ここでですか。先に皆さんと流した方が――」
「今でなければ駄目なんです」
井は真美の言葉を遮った。普段ほとんどを表さない彼の声には、真美がこれまで聞いたことのない切迫した響きがあった。
真美は戸惑いながらも、そのできを止めた。ザイルは2ので緩く垂れ、の流れに揺れていた。
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「私、真美さんのことが好きでした」
井は目を伏せたまま、息に言った。
「ずっとからです。真美さんも、しは私のことを分かってくれているとっていました」
真美は驚き、言葉を失った。だがすぐに表をえると、井を刺激しないよう静かに答えた。
「井さん、お気持ちはありがたいです。でも、私には結婚を約束したがいます」
「分かっています」
「来の4には結婚します。だから、ごめんなさい」
真美ははっきりと告げたが、声は穏やかだった。相を傷つけまいとする、彼女らしい言い方だった。
しかし井は引きがらなかった。の悪い岩ので歩へると、真美との距を縮めた。
「度だけでいいんです。私の方を見て考えてください」
「やめてください。危ないです」
真美は驚いて両を伸ばし、づいてきた井の胸を押し返そうとした。その瞬、井がに持っていたピッケルがきく揺れた。
属部分が、真美の側部へく当たった。鈍い音がのに響き、真美の体がそので崩れた。
井は目を見き、反射に彼女を支えようとした。だが慌てて振ったピッケルが、再び真美の部に触れた。
真美は声をげなかった。膝から力が抜け、そのまま岩のへ横たわった。
「真美さん」
井はピッケルを放し、彼女の肩をつかんだ。
「真美さん、しっかりしてください」
何度呼んでも返事はなかった。袋をして首元へ指を当てたが、井には脈をじることができなかった。
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