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"霧葬の山岳会" 第10話

妻がたい麦茶を運び、2へ置いた。

事件のことを尋ねると、井は16とほとんど同じ言葉で答えた。

「ガスが急に濃くなりまして、界は10mもなかったといます。すぐに先から声をかけ、全員を止めて引き返しました」

井は笠原の目をまっすぐ見た。

「ですが、真美さんからの返事は度もありませんでした。私の判断が遅かったことを、今でも悔やんでおります」

言葉に淀みはなかった。涙を見せることもなく、あまりにもっていた。

帰り際、笠原は玄関先でを止めた。

井さん。あの、ガスが濃くなった、パーティーの編成を変更しませんでしたか」

井の表瞬止まった。1秒にも満たないだったが、笠原は見逃さなかった。

「いいえ。最初から最まで、調かれている編成のままでした」

「そうですか。失礼しました」

笠原はげ、にした。

京にいる沢田を訪ねた。沢田は都の会社で総務部の役職に就き、細のスーツを着て面会へ現れた。

「当のことは、もうほとんど覚えていません」

沢田は腕計へ目をやり、淡々と言った。

界10mほどのガスので、真美さんを見失った。それだけです」

質問をねようとすると、沢田は子から腰を浮かせた。

「申し訳ありません。これから会議がありまして」

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帰りの幹線で、笠原は窓のを流れる景を見ながら帳をいた。

「あの男も、何かを抱えている」

へ戻ると、酒井と藤本の遺族を訪ねた。酒井は事件のことを聞かれた途端、何度も線を落としたが、にした内容は井や沢田と同じだった。

界は10mくらいでした。隊列を止めて、すぐ引き返しました」

笠原がさらに聞こうとすると、酒井は唇をかみ、仕事があるからとがった。

藤本のでは、未が仏壇のへ笠原を通した。

「主は、あの事件のことを私にはほとんど話しませんでした」

は膝のね、遺を見つめた。

「ただくなるに、『あの娘さんには本当に申し訳ないことをした』と、度だけ申しました」

笠原はその言葉を帳へき留めた。

7末、笠原は井を訪ねた。蝉の響く暑い午で、井先に座り、古い建具をかんなで削っていた。

笠原の姿を認めると、井が止まった。かんなの刃が材の途で止まり、い削りくずが垂れたまま揺れた。

「井さん。しおをいただけますか」

の顔から、見るに血の気が引いた。返事をせずにがると、笠原を2階の居へ案内した。

向かいって座っても、井はほとんど顔をげなかった。節くれだった両の指を、机ので何度も組んではほどいた。

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「当のことを、もう度お聞きしたいのです」

笠原が静かに切りすと、井はすぐに首を振った。

「同じです。16に話したことと同じです」

声が震えていた。

界が10mくらいで、ガスが濃くて、真美さんをつないでいたザイルが――」

「井さん」

笠原は言葉を遮らず、ただ名を呼んだ。

「あなたには、まだ警察へ話していないことがあるのではありませんか」

はその瞬、両で顔を覆った。しばらく何も答えられず、肩だけがさく震えた。

やがてろすと、消え入りそうな声をした。

「笠原さん。しだけ、をください」

笠原はそれ以追及しなかった。げ、た。

へ戻ると、ハンドルへ両を置いたままを見つめた。井は崩れかかっていると、笠原は確信していた。

8半ば、笠原は関へ向かった。郊の私学で准教授になっていた久保健太郎を訪ねるためだった。

質学研究の扉を叩くと、を着た40歳の久保が振り返った。16の礼儀正しい青は、痩せた研究者になっていた。

「笠原さんですね」

久保は静かにげた。

話をいただいたから、覚悟していました」

研究の奥にあるさな応接スペースへ案内し、自分でコーヒーを2つ用した。向かいって座ったも、久保はカップに触れなかった。

やがて息を吸い、震える声でいた。

「笠原さん。あの、私たちは本当は3組に分かれていたんです」

笠原の背筋が伸びた。

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