"51%の警備員" 第3話
「警備、必な範囲で覚えております」
「警備員の分際で会のを覚えてるなんて、気が悪いんだよ」
周囲の社員は、聞こえないふりをしてを向いた。
正休みの直、経理部のが決裁類を抱えてロビーをり、貴彦とぶつかりそうになったことがあった。
のから類が落ち、面に散らばった。
「おい、お、何目だ?」
「申し訳ございません。3目です」
「3もいるなら、しはを使え。俺が歩いてきたら壁に張り付いてろ」
の顔が真っ赤になった。
病気の母親を病し、3晩ほとんど眠らずに勤していただった。
松蔵は黙ってづき、散らばった類を拾い集めた。そしての代わりにく腰を折った。
「専務、申し訳ございません。私がロビーの案内を分にできておりませんでした。私の落ち度です」
「まったく、寄りが何をやってるんだ。もういい。片づけろ」
貴彦がちると、は泣きそうな顔で松蔵を見た。
「川さん、どうして川さんが謝るんですか。川さんの責任じゃないのに」
「君の責任でもないさ」
松蔵は警備から温かいコーヒーを持ってきた。
「ほら、これをんでからがりなさい。お母さんので倒れたら、余計に配させるぞ」
松蔵は、そうやって1に何度も腰を折った。
「申し訳ございません」
その言葉をにするたび、のでは別の言葉をみ込んでいた。
広告
――夫、おの孫が、こんなにきくなったぞ。
――これを、どうしたものかな。
ある初の夜、午11を過ぎた頃だった。
夜巡回をしていた松蔵は、3階の気のでを止めた。
扉の向こうから、い音が聞こえていた。
普通のが聞けば、械がいているだけの音にえただろう。だが、松蔵は眉にしわを寄せ、扉へをづけた。
「ベアリングじゃない。巻き線が鳴いている」
残業を終えた総務課の斎藤課が、偶然その姿を見つけた。
斎藤は昇試験に何度も落ちていたが、会社の備品ひとつまで切に扱う実直な男だった。
「川さん、何をしているんですか。気は施設班の管轄ですよ」
「斎藤課、ここの変圧器を調べたほうがいい」
「変圧器ですか?」
「却ファンの音じゃない。内側からている。巻き線の絶縁が劣化したの音だ。このままなら、1か以内にぶかもしれない」
斎藤の表が変わった。
「そんなことになれば……」
「ビル全体がする。算のサーバーも無事では済まない」
委託業者は、の定期点検で異常なしと報告していた。それでも松蔵の目には、迷いがなかった。
斎藤は半信半疑のまま、施設担当へ報告を提した。
しかし、その報告は貴彦にい田常務のところで止められた。
「警備員が変圧器の音を聞いて故障が分かる?」
広告
田常務は報告を机に投げた。
「占い師か。ドイツ製の点検装置が、警備の爺さんのに負けるとでもいうのか?」
「ですが、のため再点検だけでも」
「斎藤君。君が万課のままなのには、理由があるな。こんなものを正式な報告としてげるからだ」
報告は、ごみ箱へ捨てられた。
そして、正確に21のけ方。
3階で、鈍い爆発音が響いた。
変圧器の部から煙ががり、ビルの源が定になった。施設の夜勤務者は混乱したが、松蔵は落ち着いて予備源への切り替えを指示した。
異常を予測していた松蔵が、あらかじめ順を伝えていたのだ。
算のサーバーは守られ、成グループはなくとも数億円規模の損害を免れた。
作成された事故報告には、こう記された。
――施設班の迅速な対応により、被害を最限に抑えた。
そこに、松蔵の名はなかった。
ただ1、斎藤だけが真実をっていた。
その夜、斎藤は缶コーヒーを2本持って警備を訪ねた。
「川さん」
「どうした、斎藤課」
「いったい、何者なんですか?」
松蔵は黙って缶コーヒーを受け取った。
「巻き線の絶縁も、予備源の切り替え順も、警備員の仕事からてくる言葉じゃありません」
「若い頃、の飯をしくっただけだよ」
「それだけで分かるはずがありません」
松蔵は缶の蓋をけ、静かに笑った。
「今のことは、君だけの胸にしまっておいてくれ」
斎藤はしばらく松蔵を見つめていたが、やがてくうなずいた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 53 -
完結第15話
残り物少年の奇跡
「残り物をください。そしたら、あなたに歩き方を教えます」 高級レストランでそう言ったのは、破れた靴を履いた8歳のホームレス少年・翔太だった。 相手は、事故で歩く力も家族も希望も失った大富豪・佐藤孝志。世界中の医師から「もう歩けない」と告げられ、人生を諦めかけていた男だった。 ただ食べ物を求めて現れたはずの少年は、なぜか孝志の心の奥に隠された絶望を見抜いていた。 毎晩8時の夕食。少年の小さな手が、動かない足に触れるたび、孝志の中で何かが少しずつ変わり始める。 これは奇跡なのか、それとも少年が見つけた“生きる理由”なのか。 残された一皿のサーモンから、壊れた家族と失われた人生が静かに動き出す――。人生逆転|金銭問題2.3萬字5 7 -
完結第13話
霧葬の山岳会
1998年10月、長野県の山岳会で、ただ1人の女性会員・高木真美が白い霧の中から姿を消した。 翌年に結婚を控えていた28歳の真美。仲間たちと向かった秋の黒岩岳で、彼女は突然行方不明となり、事故による滑落として処理された。赤いキャップとちぎれたザックの一部だけを残して、遺体は見つからなかった。 残された母は、娘の死を受け入れられないまま、毎年10月12日になると警察へ手紙を書き続けた。 「あの日、娘に何があったのか。どうか、もう一度調べてください」 そして16年後。 黒岩岳の岩の隙間から、古い登山靴と人骨が発見される。そこは、滑落した人間が偶然たどり着くにはあまりにも不自然な場所だった。 さらに遺骨には、事故では説明できない傷が残されていた。 16年前、霧の中で本当は何が起きていたのか。 そして、山岳会の仲間たちはなぜ同じ証言を繰り返したのか。 母の手紙が止めなかった時間が、ついに閉ざされた山の沈黙を破り始める。因果応報|行方不明|孤獨2.0萬字5 12 -
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 946 -
完結第10話
車椅子妻の断罪
建築事務所の代表として成功し、銀座に複数の商業ビルを所有していた鈴木加奈。 しかし3か月前、現場での転落事故により下半身不随と診断されてから、彼女の人生は一変する。献身的な夫を演じる健二は、病室で薬に朦朧とする加奈の指を使い、財産と経営権を奪う書類に指印を押させていた。 さらに、加奈の回復の可能性を隠し、リハビリまで中止させていたことが判明する。 何も知らない患者のふりをしながら、加奈は密かに証拠を集め、夜ごと誰にも知られず足を動かす訓練を続けていた。 そして真夏のある日、健二は加奈を山奥へ連れ出す。 車椅子のブレーキを外れかけにしたまま、夫は妻を置き去りにした。 だが、夫の車が完全に見えなくなった瞬間、加奈は静かに顔を上げる。 彼女はもう、何もできない妻ではなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 399 -
完結第15話
9,000億円の離婚届
父を見送る火葬場で、ゆみは夫・浩司から離婚届を突きつけられた。 「お前の役目は、もう終わったんだよ」 父の遺骨すら拾っていないその場で、夫と義母は冷たく言い放つ。3年間の介護も、夜の清掃パートも、家を支えてきた28年の結婚生活も、彼らにとってはただの重荷でしかなかった。 しかも浩司には、すでに新しい女性がいた。 父の遺産を奪い、妻を捨て、愛人と新しい人生を始める――。浩司はそう信じて疑わなかった。 だが、亡き父はすべてを見抜いていた。 ゆみに託された黒いカード。古い木箱に隠された証拠。そして、東京駅前にそびえる“あるビル”の存在。 数日後、浩司は初めて知ることになる。 自分が捨てた妻こそ、9,000億円の資産を受け継ぐただ一人の相続人だったことを――。因果応報|人生逆転|夫婦2.3萬字5 441 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 941