"51%の警備員" 第4話
「分かりました。その代わり、ひとつだけ約束してください」
「何だ?」
「いつか、そのの話を僕に聞かせてください」
それから斎藤は、松蔵をでは川さんと呼び、2きりのには「ご老」と呼ぶようになった。
彼はまだらなかった。
自分が、成グループ全体を揺るがす物語の証になることを。
計を40へ戻す。
1986の。
当29歳だった松蔵は、神田にある古びたで、精密械の技術者として働いていた。
誰かが図面を広げて3悩むような故障でも、松蔵は械の音を聞いただけで原因を言い当てた。
周囲の職たちは、彼のとを「神業」と呼んだ。
その松蔵の隣には、いつもひとりの男がいた。
森夫、32歳。
持ち物といえば、着古した背広1着と、倒産した会社の名刺だけ。髪交じりの髪を振り乱しながら、それでも誰よりもきなを語る営業マンだった。
「松蔵、俺たち2で会社を作ろう」
ある夜、夫はいラーメンをすすりながら言った。
「俺のと、おのがあれば、この世に売れないものなんかない」
「会社なんて、俺には無理だ。俺は鉄くずをってきる男だぞ」
「だから社は俺がやる。おは副社だ。技術は全部おに任せる」
夫は割り箸をテーブルへ置き、松蔵の目をまっすぐ見た。
「持ち分は半分ずつだ。どうだ?」
こうして、資本500万円のさな会社がまれた。
広告
会社の名は、成精。
「いつかきく成る会社にしよう」
夫が、そう願ってつけた名だった。
最初の3は獄だった。
2はい袋麺でいつなぎ、には械の横へ布団を敷いて眠った。気代を節約するため、作業のを止め、油の染みた毛布を1枚ずつかぶった。
初めて企業から注文を受けたのことを、松蔵は涯忘れなかった。
納期は10。
必な精密部品は3000個。
当の設備と数では、常識に能な量だった。
「松蔵、狂ってると言われてもいい」
夫は契約を握りしめた。
「これを逃したら、俺たちは暮らしだ。10、へ帰らずにやろう」
2は械の横に布団を敷いた。
朝も夜もなく働き、眠気に耐えられなくなると、たいで顔を洗った。最終のけ方には、松蔵ののひらは鉄とぶくれで、無事なところが残っていなかった。
それでも、納品した3000個のうち、良品はわずか2個だった。
良率は0.1%にも満たなかった。
検査担当者は、何度も聞き返したという。
「本当に、あので作ったのか?」
その夜、松蔵と夫は神田の定で、い焼酎の杯をわせた。
「松蔵」
夫は酔った顔で、何度も松蔵のを握った。
「俺は涯、おのを裏切らない」
「俺も、このをおからさない」
その約束どおり、会社はきくなった。
10で社員は300を超え、仙台にを建て、への輸も始まった。
広告
夫は癖のように言った。
「この会社の半分は、松蔵、おのものだ」
「半分どころじゃない。技術は全部おのものだ。俺がんでも、この恩だけは忘れない」
だが、松蔵にとって持ち分よりも切なものがあった。
養子として迎えた息子の正雄。
そして毎朝、の扉をけたにへ届く、鉄と油の匂いだった。
1997の。
バブル崩壊の余波が、本の企業をのみ込んでいた。
取引先が1に1社ずつ消え、戻ってきた渡り形は総額34億円。は融資の回収を通告し、社員300の料が迫っていた。
会社の庫に残っていた現は、わずか2000万円だった。
みぞれがる12の夜、松蔵は類の入った封筒を持ち、夫の事務所へ入った。
「夫。俺のを担保に入れた」
夫は子からちがった。
「何だと?」
「おのも入れた。それで、何とかしろ」
「この馬鹿野郎!」
夫は机を叩いた。
「おのまでなくなったら、正雄と奥さんはどうするんだ!」
「会社がきれば、うちの族もきる」
松蔵は夫のに類を置いた。
「社員が300いる。そのろにいる族まで数えれば、1000を超える。そのたちをに迷わせるつもりか?」
夫はそのに座り込み、子供のように泣いた。
松蔵のと持ち分を担保にした資で、会社は危を乗り越えた。
しかし、その代償はきかった。
担保に入れた持ち分はへ渡り、は競売にかけられた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 1436 -
完結第20話
五歳で売られた天才少女、悪意を嗅ぎ分け父を救う
母を亡くした五歳の少女・ゆえんは、祖母に五百元で売られそうになり、父・陸長風を探すため村を脱出する。悪意を異臭として感じ取り、難解な数式や医学の知識まで理解する不思議な力を持つ少女は、旅の途中で国防研究所の主任を救い、省都の名門・陸家へたどり着く。しかし、父は極秘任務のあと消息を絶っており、母が遺した銀の首飾りには国家機密に関わる秘密が隠されていた。迫りくる敵の魔の手、そして謎に包まれた父の行方。小さな天才少女が、その知恵と勇気で運命を切り開いていく。因果応報|人生逆転|祖父母と孫2.2万字5 643 -
完結第20話
車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの
交通事故で車椅子生活となった42歳の千紗。献身的だった夫・啓介は、4,800万円の賠償金が決まると態度を一変させ、通帳を渡すよう迫り始める。さらに千紗の知らないところで施設入居の手続きまで進めていた。そんなある日、夫は「旅行に行こう」と千紗を離島へ連れ出す。ところが帰りの船の予約は、夫一人分だけだった。携帯も財布も奪われ、島に取り残された千紗。しかし夫は、彼女が密かに続けていたリハビリと、車椅子の下に隠された小さな備えを知らなかった。夫の裏切りから始まる、人生を取り戻す逆転の物語。人生逆転|裡切られた|夫婦2.9万字5 811 -
完結第18話
時給1111円で高齢者5人を雇った結果
父から受け継いだラーメン店が、大手チェーンに客を奪われ閉店寸前。店主の赤坂明のもとへ、職を失った高齢者五人が「働かせてくれないか」と訪ねてきた。明は時給1111円で全員を採用する。すると、元工場勤務、教師、タクシー運転手など、五人が長年培ってきた経験が思いがけない力を発揮し、店は少しずつ活気を取り戻していく。しかし、その変化を面白く思わない競合店の店長が、次々と妨害を仕掛け始める。感動|職場逆転|人生逆転|金銭問題2.1万字5 1031 -
完結第20話
5000万円の新居に義両親が無断で引っ越し――夫の嘘
実家の両親から五千万円の援助を受け、念願の新居を購入した。夫の健太とは親との同居をしないと約束し、二人だけの新生活を始めるはずだった。ところが引っ越し当日、義両親のベッドやタンスを積んだトラックが突然到着する。「今日から俺の親も住む。親孝行は当然だろ」と言い放つ夫。彩佳の同意もなく進められていた同居計画には、夫が隠してきた嘘があった。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題|修羅場2.3万字5 900 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 737 -
完結第14話
「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知
高校三年生の高瀬優馬は、恋人・彩佳の受験勉強を支えるため、自分の研究や試験対策を後回しにしてきた。「どちらかが落ちても一緒に浪人しよう」――その約束を信じていた優馬だったが、合格発表の日、受かった彩佳は彼をあっさり突き放す。しかし優馬には、彼女に隠していた特別奨学生の選考通知があった。自分の未来を取り戻す決意をした優馬は、名門工科大学で研究の才能を開花させていく。やがて大学のコンテストで再会した二人を待っていたのは、残酷なほど鮮やかな立場の逆転だった。因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 815 -
完結第13話
三千円の温泉旅行
町内会の会計を務める68歳の森川静子は、秋の日帰り旅行を一人三千円の温泉宿に決めた。ところが、副会長の妻・矢野夫人は「貧乏くさい」と不満を漏らし、勝手に高級旅館へ行き先を変更。会長の了承を得たと嘘をつき、参加者まで誘い出してしまう。 旅行当日、矢野夫人から突然「積立金三十万円を出しなさい」と電話が。拒否した静子は、今度は会費の使い込みを疑われ、町内中に帳簿の写真を広められる。 しかし、その写真と案内状には、矢野夫人が見落とした決定的な事実が残されていた――。人生逆転|第二の人生|ATM扱い|金銭問題1.5万字5 1427