"51%の警備員" 第13話
会は震える声で言った。
「しかし、51%のことはりませんでした」
「夫が隠したんだ」
「私を信用していなかったのでしょうか」
松蔵はすぐには答えなかった。
「信用していなかったのではない。迷ったに戻れるを残したんだとう」
会は膝のでを握りしめた。
「私は息子を止められませんでした」
「止められなかったのか、見ないふりをしたのか。それは自分で考えることだ」
厳しい言葉だった。
しかし会はらなかった。
くをげた。
「川さん。申し訳ありませんでした」
松蔵はその姿を見つめた。
昨までなら、相が会であっても、自分が先に腰を折っていただろう。
だが、そのはをげなかった。
「謝る相は、俺だけじゃない」
「はい」
「解雇通を受け取ったたち。仙台でな夜を過ごしたたち。貴彦の顔を見ながら働いてきた社員たち。その全員に、自分の言葉で話せ」
「分かりました」
会は、全社員をにして謝罪した。
息子の正だけに責任を押しつけず、自分が継者教育を誤り、社内の異論を排除する空気を作ったことを認めた。
そして、経営の第線から退くことを発表した。
松蔵は、しい代表取締役として斎藤を推薦した。
「私がですか?」
斎藤は驚き、何度も首を振った。
「私は万課です。役員経験もありません」
広告
「だからいい」
「が分かりません」
「分からないことを分からないと言えるが、につべきだ」
松蔵は、あの気の夜をいしていた。
「警備員の言葉でも、必だとえば報告にした。ごみ箱へ捨てられても、異常が起きたには現から逃げなかった」
「それだけです」
「会社を守るのに、それ以何が必だ」
斎藤はすぐには引き受けなかった。
現の社員、取引先、の責任者たちと何度も話しい、自分にできることとできないことを確認した。
その姿を見て、松蔵はますます確信した。
半、斎藤は成グループの代表取締役に就任した。
は経理部から内部監査部へ異し、誰でも匿名で正を報告できる制度を作った。
かつて匿名のを貴彦へ渡した監査は、役職をりたうえで調査に協力し、そのは方の管理部でからやり直した。
誰もが無傷で済んだわけではない。
それでも、失敗を認めて責任を果たそうとした者には、やり直すが残された。
自分の罪を最までへ押しつけた貴彦にだけ、そのは残らなかった。
すべてが落ち着いたの朝。
松蔵は、いつもと同じ午430分に目を覚ました。
インスタントコーヒーを入れ、弁当を2つ作った。
「おじいちゃん、今も会社へくの?」
になった恵美が、制姿で台所へ入ってきた。
広告
「ああ。今が最だ」
「本当に辞めるんだ」
「もう分働いたからな」
松蔵は成グループの会職も、取締役の席も受けなかった。
株式の議決権は、従業員、社識者、創業から成る公益信託委員会へ段階に移すことを決めていた。
誰かひとりが、再び会社を私物化できない仕組みにするためだった。
松蔵が望んだのは、最にもう1だけ、警備員として正へつことだった。
午620分。
成グループ本社へ着くと、正のには誰もいなかった。
松蔵はしした。
げさな送別会も、束もいらなかった。
警備で制へ着替え、恵美が縫い直してくれた名札を胸につける。
そして、いつもの位置へった。
午7を過ぎると、社員たちがしずつ勤してきた。
「おはようございます」
松蔵は、これまでと同じようにをげた。
だが、そのだけは様子が違った。
社員たちは正を通り過ぎず、松蔵のでち止まった。
経理部のが、くをげた。
「川さん。母のことまで気にかけてくださって、ありがとうございました」
産管理部の若社員が続いた。
「最初の料に事代を貸していただいたこと、忘れていません」
清掃員の女性が、涙を拭った。
「解雇通を撤回してくださったから、孫の学費を払い続けられます」
1、また1と、社員たちが松蔵へ言葉をかけた。
松蔵は困ったように笑いながら、何度もをげた。
「俺は何もしていないよ」
午8。
いつもなら勤の波が最もきくなるだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 53 -
完結第15話
残り物少年の奇跡
「残り物をください。そしたら、あなたに歩き方を教えます」 高級レストランでそう言ったのは、破れた靴を履いた8歳のホームレス少年・翔太だった。 相手は、事故で歩く力も家族も希望も失った大富豪・佐藤孝志。世界中の医師から「もう歩けない」と告げられ、人生を諦めかけていた男だった。 ただ食べ物を求めて現れたはずの少年は、なぜか孝志の心の奥に隠された絶望を見抜いていた。 毎晩8時の夕食。少年の小さな手が、動かない足に触れるたび、孝志の中で何かが少しずつ変わり始める。 これは奇跡なのか、それとも少年が見つけた“生きる理由”なのか。 残された一皿のサーモンから、壊れた家族と失われた人生が静かに動き出す――。人生逆転|金銭問題2.3萬字5 7 -
完結第13話
霧葬の山岳会
1998年10月、長野県の山岳会で、ただ1人の女性会員・高木真美が白い霧の中から姿を消した。 翌年に結婚を控えていた28歳の真美。仲間たちと向かった秋の黒岩岳で、彼女は突然行方不明となり、事故による滑落として処理された。赤いキャップとちぎれたザックの一部だけを残して、遺体は見つからなかった。 残された母は、娘の死を受け入れられないまま、毎年10月12日になると警察へ手紙を書き続けた。 「あの日、娘に何があったのか。どうか、もう一度調べてください」 そして16年後。 黒岩岳の岩の隙間から、古い登山靴と人骨が発見される。そこは、滑落した人間が偶然たどり着くにはあまりにも不自然な場所だった。 さらに遺骨には、事故では説明できない傷が残されていた。 16年前、霧の中で本当は何が起きていたのか。 そして、山岳会の仲間たちはなぜ同じ証言を繰り返したのか。 母の手紙が止めなかった時間が、ついに閉ざされた山の沈黙を破り始める。因果応報|行方不明|孤獨2.0萬字5 12 -
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 946 -
完結第10話
車椅子妻の断罪
建築事務所の代表として成功し、銀座に複数の商業ビルを所有していた鈴木加奈。 しかし3か月前、現場での転落事故により下半身不随と診断されてから、彼女の人生は一変する。献身的な夫を演じる健二は、病室で薬に朦朧とする加奈の指を使い、財産と経営権を奪う書類に指印を押させていた。 さらに、加奈の回復の可能性を隠し、リハビリまで中止させていたことが判明する。 何も知らない患者のふりをしながら、加奈は密かに証拠を集め、夜ごと誰にも知られず足を動かす訓練を続けていた。 そして真夏のある日、健二は加奈を山奥へ連れ出す。 車椅子のブレーキを外れかけにしたまま、夫は妻を置き去りにした。 だが、夫の車が完全に見えなくなった瞬間、加奈は静かに顔を上げる。 彼女はもう、何もできない妻ではなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 399 -
完結第15話
9,000億円の離婚届
父を見送る火葬場で、ゆみは夫・浩司から離婚届を突きつけられた。 「お前の役目は、もう終わったんだよ」 父の遺骨すら拾っていないその場で、夫と義母は冷たく言い放つ。3年間の介護も、夜の清掃パートも、家を支えてきた28年の結婚生活も、彼らにとってはただの重荷でしかなかった。 しかも浩司には、すでに新しい女性がいた。 父の遺産を奪い、妻を捨て、愛人と新しい人生を始める――。浩司はそう信じて疑わなかった。 だが、亡き父はすべてを見抜いていた。 ゆみに託された黒いカード。古い木箱に隠された証拠。そして、東京駅前にそびえる“あるビル”の存在。 数日後、浩司は初めて知ることになる。 自分が捨てた妻こそ、9,000億円の資産を受け継ぐただ一人の相続人だったことを――。因果応報|人生逆転|夫婦2.3萬字5 441 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 941