"8年目の遺失物" 第1話
2005の、静岡県内にある速の遺失物センターでは、期引き取りの現れなかった荷物の理がわれていた。倉庫の棚には傘や袋、旅鞄などが隙なく積まれ、持ち主の名すら分からない品々がい埃をかぶっていた。
職員の伊藤が棚の奥へを伸ばすと、古びたベージュのバッグが引っかかった。記録を確認すると、富士川サービスエリアで預けられてから、すでに8くが過ぎていた。
バッグの表面には細かな傷がつき、具もくすんでいた。伊藤は作業台のへ置き、固くなったジッパーを両で慎に引いた。
からてきたのは、ピンクの財布と分証、幼い男の子を囲んで撮された族写真だった。さらに底の部分には、い封筒が折れないようにきちんと納められていた。
封筒の表には、くなったボールペンの文字が残されていた。
「このバッグを発見された方へ」
伊藤は周囲の職員を呼び、ち会いのもとで封筒をいた。には3枚の便箋があり、最の部分は震えるような文字でこう結ばれていた。
「私は今、1ではに帰ることができません。どうかお願いいたします」
分証に記されていた名は、岡田裕子。19978、名速の富士川サービスエリアで方が分からなくなった、当28歳の女性だった。
広告
裕子は夫とともにサービスエリアへち寄り、トイレへ向かったまま戻らなかった。夫は妻を残してをし、失踪届が提されたのは、それから3のことだった。
その、裕子の姿は度も確認されていなかった。事件は解決の掛かりを失ったまま、8といういだけが流れていた。
伊藤は便箋を作業台へ戻し、もう度族写真を見つめた。写真ので裕子は、まだ2歳ほどの息子を抱き、隣につ夫とともに穏やかな表を見せていた。
この族に、19978の夜、何が起きたのか。
その答えは、古いバッグのに残されたをきっかけに、ようやくき始めようとしていた。
19978、本の町には先きの見えない空気が漂っていた。廃業するがしずつ増え、企業の倒産を伝えるニュースが繰り返されていたが、それでもお盆になれば族が集まるという習慣は変わらなかった。
連休の最終、名速のり線は、故郷から都へ戻るで埋め尽くされていた。岡田裕子は、県にある夫の実で数を過ごし、京の自宅へ戻る途だった。
夫の誠は32歳で、の貿易会社に勤める営業職だった。結婚して3目になる2には、2歳の息子・翔太がいた。
翔太はその、県の祖母のに残されていた。祖母の子が、あと数は面倒を見てあげると言ったため、夫婦だけで京へ戻ることになったのである。
広告
へ乗り込んだから、裕子は助席の窓へ顔を向けたまま、ほとんどをかなかった。誠も積極に話しかけようとはせず、ラジオから流れるお盆の特別番組だけが、い内を埋めていた。
静岡を過ぎ、がり方向へんだ頃、誠が方を見たままをいた。
「富士川で休んでいくか」
裕子は夫の横顔を見ず、く頷いた。誠はそれ以何も言わず、混雑する列からサービスエリアへ続く入に入った。
刻は午8頃だった。
連休最終の富士川サービスエリアは、休憩する々で混雑していた。フードコートの周辺には串焼きや揚げ物の匂いが漂い、産物売りのでは子どもたちの声が途切れることなく響いていた。
誠は空いた所を探し、ようやくを駐枠へ入れた。エンジンを切ると、胸ポケットから煙を取りしながら裕子へ線を向けた。
「俺はここで1本吸っていく」
裕子はバッグを膝から持ちげ、ドアノブへを伸ばした。
「私、トイレにってくる」
それが、誠が警察へ語った夫婦の最の会話だった。
裕子はベージュのバッグを持ってをり、の流れに紛れるように歩いていった。誠はのそばで煙にをつけ、そのろ姿が建物のへ消えるまで見送ったという。
誠の供述によれば、煙を吸い終えたも内で10分ほど待ったが、裕子は戻らなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
5人目だけが若かった
1999年夏、岐阜県の山あいにある青川村で、豪雨による土砂崩れが起きた。 崩れた山肌から現れたのは、黒い縄でつながれた5体の遺骨。村人たちは、それを6年前に行われた古い合葬の名残だと説明する。 しかし鑑定の結果、5体のうち1体だけが明らかに若すぎることが判明した。 老人5人が眠っているはずの棺に、なぜ24歳前後の若い女性が紛れ込んでいたのか。そして、本来そこにいるはずだった5人目の老人はどこへ消えたのか。 口元に押し込まれていた黄色い布、祠の裏道に残された車の痕跡、6年前の夜に聞こえた女の声。 迷信と沈黙に守られてきた山村の秘密が、雨によって少しずつ地上へ押し出されていく――。ミステリー|真実|真相1.9万字5 554 -
完結第11話
卒業3か月前に消えた娘
1995年11月、卒業まであと3か月だった富山大学4年生・大山蓮子が、突然消息を絶った。 家には財布も読みかけの本も残されていた。ところが、半年以上かけて集めた卒業論文の取材資料だけが、すべて消えていた。 蓮子は都市開発で土地を手放した住民たちを訪ね、補償金の記録を調べていた。失踪前、友人には「土地のお金を調べていたら、生きている人たちの話が出てきた」と漏らしている。 下宿に残された地図には、土地買収が行われた3つの地域を示す赤い丸。そして古い行政資料から浮かんだ担当者の名前は、失踪前夜に蓮子と口論していた叔父・達夫だった。 達夫には完璧なアリバイがあり、捜査はやがて縮小される。しかし6年後、赤い丸がつけられた土地の工事現場から、二重の袋で守られた2枚の書類が見つかった。 余白には蓮子の筆跡で、こう記されていた。 《単価に不自然な変更あり》 そして最後に――《担当者 大山達夫》。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 857 -
完結第11話
合格発表の日、父は消えた
2003年3月8日、19歳の佐伯千春は第一志望の大学に合格した。ところが、その夜に祝うはずだった父・正雄は、勤務中のタクシーと黄色いチューリップだけを残して姿を消す。 車内には千春の合格通知書があり、料金メーターに残された最後の走行距離は43キロ。しかし、なぜか運賃は「0円」だった。さらに父のロッカーからは、《千春には大学を諦めてもらうしかない》と書かれたメモまで見つかる。 多額の借金を知った千春は進学を断念し、父に捨てられたという思いを抱えたまま20年を生きてきた。 2023年、廃業したタクシー会社の倉庫から、父が最後に運転した27号車が発見される。壊れた料金メーターを解析すると、正雄が失踪前の18か月間、毎月同じ施設から同じ乗客を乗せ、東京まで運んでいた記録が残されていた。 そして後部座席から見つかったのは、《佐伯千春》と印刷された一枚の生徒証。しかし、そこに写っていた少女は千春ではなかった。父はなぜ、見知らぬ少女へ娘と同じ名前を与え、合格発表の日に彼女を乗せたのか――。ミステリー|真実|真相1.6万字5 1252 -
完結第12話
消印は失踪の3日後
1996年、岐阜県北部の山あいの町で、配達中の女性郵便局員・小沢真紀が突然姿を消した。 郵便バイクは旧バス停のそばで見つかり、翌朝には河原で制服帽も発見された。警察は川への転落を疑ったが、真紀の姿はどこにもなかった。 それから25年後、閉鎖された旧郵便局の壁の中から、真紀の職員番号が書かれた郵便袋が見つかる。中には、亡くなったはずの人々に関する記録と、真紀が失踪3日後に投函した一通の手紙が残されていた。 そこに書かれていたのは、息子・拓海へ向けた不可解な指示。 「年賀状を全部調べて」 母は本当に川で消えたのか。なぜ死者の名前で年賀状が届き続けていたのか。そして父は、25年間何を隠していたのか。 届かなかった手紙が、長い沈黙の奥に封じられた真実を少しずつ暴いていく――。ミステリー|行方不明1.8万字5 250 -
完結第10話
27年後、娘は父の葬儀に帰ってきた
1995年、学校帰りの10歳の少女・美穂は、灰色の服を着た女に連れられ、そのまま姿を消した。 母・佐和子は27年間、娘の帰りを待ち続けた。だが夫の正人は、地域では「娘を捜し続ける父」として知られる一方で、どこか不自然な沈黙を守っていた。 そして27年後、正人の葬儀の日。 遺族席の佐和子の前に、見知らぬ大人の女性が現れる。彼女が差し出したのは、美穂が幼い頃になくしたはずの花形の髪留めだった。 「お母さん、迎えに来たよ」 再会のはずの言葉は、なぜか冷たかった。 娘はなぜ母を恨んでいたのか。失踪当日、母を学校から遠ざけた電話は何だったのか。そして、27年間隠され続けた手紙と書類が、家族の嘘を静かに暴き始める――。ミステリー|真相|行方不明1.5万字5 204 -
完結第10話
消えた母と2800万円
1998年12月25日、長野県の信用金庫で働く宮本佳代は、給料日の夜に突然姿を消した。 支店では2800万円が消えたと騒ぎになり、佳代は現金を持ち逃げした女性行員として扱われる。家に残された娘の奈緒は、母が用意していたクリームシチューとケーキを前に、帰らない母を待ち続けた。 3日後、千曲川の河原で見つかった母の靴と赤い囲巾。さらに東京行きの片道切符、夫の証言、不自然な借金整理――すべてが「母は家族を捨てて逃げた」と示しているように見えた。 それから23年後。 閉鎖された商店街の地下から、古い貸金庫が発見される。中に入っていたのは、佳代の印鑑、12冊の通帳、そして奈緒が生まれる前に作られたはずの“存在しない口座”だった。 母は本当に2800万円を盗んだのか。 あの夜、灰色の箱に入っていたものは何だったのか。 娘の奈緒が23年越しにたどり着いたのは、信用金庫、父、そして町全体が隠してきた、あまりにも残酷な真実だった――。ミステリー|真相1.5万字5 310 -
完結第11話
7人の妊娠と密封された患者服
2011年、富山県の山あいにある黒部女子刑務所で、信じがたい事件が発覚した。 男性との接触が厳しく制限された隔離区画で、7人の女性受刑者がほぼ同時期に妊娠していたのだ。 監視カメラはなぜか壁だけを映し、薬の管理記録には説明のつかない空白が残されていた。だが、疑惑の中心にいた医務課長・九条匠は完璧な記録と証言に守られ、事件は証拠不十分のまま闇へ葬られていく。 声を奪われた7人の女性たち。真相を追いながら左遷された刑事。社会的成功を手にし、15年間“勝者”として生き続けた男。 そして2026年、死を目前にした元警備課長が残した一つの鉄箱によって、封じられていた過去が再び動き出す。 永久に開かれないはずだった患者服の中に、15年間眠り続けていた小さな証拠とは――。ミステリー|真実1.6万字5 424