"夕焼けの後継者" 第9話
その、胸の奥で父の声が蘇った。
「おの母さんは良いだったよ。おに申し訳ないとっていた」
その言葉の全てが理解できたわけではなかった。
だが、震える夫の腕に抱かれながら、父が語れなかった族のが、初めて現実の温かさを持って伝わってきた。
「ごめんね」
夫の声が、満の元で震えた。
「あまりにも遅すぎたわね。あなたのお父さんを守れなくて、ごめんなさい」
満は最初、両腕をろしたままけなかった。
だが夫の肩の震えが胸へ伝わると、ゆっくりと腕をげた。そして壊れ物へ触れるように、慎にその背を抱き返した。
夫の嗚咽がきくなる。
30、笑うこともできず、息子の帰りを待ち続けてきた女性の涙だった。
総郎がづいてきた。
彼は満のを、両で包み込んだ。
きく、ごつごつしただった。岡グループを築きげ、決してで震えることのなかったが、今だけは子供のように揺れている。
「健は……」
総郎は声を詰まらせた。
「健は、どんな最期だった」
満は夫の腕かられ、胸へ抱いていたノートへ目を落とした。
「3にくなりました」
総郎夫妻の顔が張った。
「力を失ってからも、ずっと修理の仕事を続けていました。俺を学へかせるために、朝から夜まで働いていました」
満はノートの表を撫でた。
広告
「最のも、具を握ったままでした」
夫が元を押さえ、膝から崩れそうになる。総郎が片腕で支えたが、自の顔も涙で濡れていた。
「父は、岡という名を度も話しませんでした。自分の族のことも、どうして目が見えなくなったのかも」
満は総郎を見た。
「ぬに、言い残したことがあると言いました。でも、最まで聞けませんでした」
総郎は目を閉じた。
息子が父をんだままくなったのだとうと、胸が引き裂かれるようだった。自分がもっとく真実を疑い、もっとく捜していれば、健は孤独ので涯を終えずに済んだかもしれない。
「すまなかった」
総郎は、満へくをげた。
「私が、健を信じ切れなかった。あの子の言葉より、偽りの証拠を信じてしまった」
財閥会として、度もへをげたことがないと言われた男だった。
その総郎が、孫ので肩を震わせている。
「あなたが謝る相は、俺ではありません」
満は静かに答えた。
「父だといます」
総郎はをげられなかった。
「でも父は、この照のことをずっと覚えていました」
満は劇の方向へ目を向けた。
「目が見えなくなっても、夕焼けのの話を何度もしていました。あのを嫌ってはいなかったといます」
総郎は唇を噛み締めた。
「父は、ここで過ごしたを全部憎んでいたわけではないといます」
広告
その言葉を聞いた瞬、総郎と夫は声を抑えきれずに泣いた。
血の涙を流すように、30胸へ溜め込んできた悔を吐きしていく。満はただ、そのにって2を見つめていた。
突然現れた祖父母を、すぐに族として受け入れられるわけではなかった。
父を追いしたでもある。
だが同に、騙され、息子を失い、30苦しみ続けたたちでもあった。
満の胸のにも、りと戸惑い、寂しさ、そして言葉にしにくい堵が混ざっていた。
では、くり続いたがまり始めていた。
それから1が過ぎた。
岡グループ本社のロビーには、しい額縁が1つ飾られていた。
黒くえられた枠ので、作業着姿の若い男がれやかに笑っている。写真のには、の文字で名と役職が記されていた。
岡グループ最技術顧問佐々満
満は岡姓を名乗らなかった。
総郎から正式に岡へ迎えたいと言われたが、父が苦労のでも守り抜いた佐々という姓を捨てることはできなかった。
会社の役員へ入ることも望まなかった。価なスーツを着るより、作業着を着て現へつ方が性にっていた。
変わったのは、満のろに10の技術者がついて歩くようになったことだった。
父のノートに残された照技術を基礎に、古い劇の設備を修復する専チームが作られた。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
結婚初夜、義母を助けた私を殴った夫の誤算
結婚初夜、夫の実家で義父が義母の首を絞める現場を目撃した公認会計士の直美。助けようとした彼女を、信じていた夫・翔太は平手打ちし、「見て見ぬふりを覚えろ」と命じた。直美は義母を病院へ運ぶが、夫一家は弁護士と金の力を使い、彼女の口を封じようと動き始める。そんな中、義母が密かに託していた記憶装置が見つかった。嫁姑|絶縁|親子関係|介護2.6万字5 44 -
完結第25話
母との同居後、妻が倒れた――医師が私だけ呼んだ理由
父を亡くした春樹は、一人暮らしの母・節子を心配し、妻の夏美と三人で暮らし始める。家事も母の通院もこなす妻を見て、同居はうまくいっていると思っていた。ところがある朝、夏美が突然倒れ、救急搬送される。医師に一人だけ呼ばれた春樹は、妻の体に起きていた異変を知らされる。変更された婦人科の予約、開かれなかった白い封筒、妻に任せきりだった家の用事。自分は家族を守っているつもりだったのに、何を見落としていたのか。人生逆転|嫁姑|夫婦|親子関係3.1万字5 90 -
完結第16話
75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密
十四年間、洋服直しの仕事を続けてきた石田牧は、自分の店を開くため、不足する75万円を借りに銀行を訪れた。ところが支店長から告げられたのは、自分に約65億円の信託財産があるという信じがたい事実だった。亡き母は大手物流会社の創業家の娘だったという。なぜ母は貧しい暮らしを選び、巨額の財産を隠し続けたのか。戸惑う牧の前に、初対面の叔父が現れ、21億円で株式を買い取ると申し出る。突然手にした財産の裏には、家族が長年隠してきた秘密と思惑があった。真実|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 462 -
完結第15話
50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿
昭和63年、教師になることを夢見ていた19歳の藤崎千春は、父が受け取った50万円の結納金と引き換えに、東北の山村へ嫁がされる。進学を諦め、過酷な農作業に追われる毎日。ところが、段ボールの底に隠していた受験参考書を義母に見つけられた日、千春の運命は思いがけない方向へ動き始める。夫と義父母の支えで夢を取り戻した千春は、6年後、教師となって実家へ帰る。しかし庭先で目にしたのは、かつて自分の進学を許さなかった父の、信じられない姿だった。第二の人生|親子関係|金銭問題2.4万字5 152 -
完結第20話
父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密
五年間、父の介護を一人で担ってきた三十三歳の美咲。ところが父の死後、二人の姉は遺産の独占を企て、美咲に実家から出ていくよう迫った。失意の中、美咲は交際相手の米農家・宮田大輔との結婚を決意する。しかし嫁ぎ先には七千二百万円もの借金があり、姉たちからも貧乏農家の嫁だと嘲笑される。それでも夫と田んぼを守ろうと決めた美咲に、大輔は「明日、俺の仕事場を見てほしい」と告げる。翌朝、連れていかれた巨大な倉庫で、美咲は思いもよらない光景を目にする――。夫婦|相続|絶縁|親子関係2.6万字5 196 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 630 -
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 1581 -
完結第12話
昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録
昭和46年、十五歳の正男は集団就職で東京へ向かった。しかし三日後、傷だらけで村に戻り、母に「家族を捨てるのか」と責められて家を追われる。それから26年。妹の美枝は、駅の記念展示を準備する中で、兄と一緒に旅立った少年三人の就職先が書き換えられた写真を発見する。約束された工場に入っていなかった少年たち、燃やされた契約書、口を閉ざす大人たち。なぜ兄は、次の就職列車を止めようとしたのか。長く「逃げ帰り」と呼ばれた帰郷の理由を、妹が追い始める。時代|歴史|昭和|絶縁|親子関係2.7万字5 223 -
完結第15話
義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句
義母や義妹の身勝手な要求に耐えてきた由美。ある日、亡き父の形見であるベンツの鍵を義母に取り上げられ、義妹の美穂に渡されてしまう。車の位置情報を調べると、向かった先はレストランではなく港の倉庫街。無断で売却しようとしていることを知った由美は、弁護士とともに証拠を集め始める。ところが夫まで関与していたうえ、生命保険の受取人を変更しようとした疑いも浮上。そんな中、ベンツが事故を起こしたという電話が入る。義母が電話口で放った信じられない一言をきっかけに、家族が隠していた本当の思惑が明らかになっていく。兄弟姉妹|嫁姑|修羅場2.1万字5 735 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 1929