"兄の嘘、妹のリボン" 第2話
伊は証拠品袋へ入れられた贈り物を見つめた。箱のはまだ確認されていなかったが、宛先が兄であることだけは、カードの文字かららかだった。
優しい妹が、兄の誕のために用した贈り物。
その点では、誰もそれを疑いの対象とは考えなかった。むしろ、突然命を奪われた女が最まで放さなかった、族へのの証しだと受け止めていた。
伊にも、幸と同じ頃の娘がいた。あと100mでへ帰れたはずの女をにして、この事件だけは必ず解決しなければならないと、胸の内でく誓った。
しかし、その夜から始まった捜査は、誰も予しなかった方向へ迷い込んでいくことになる。
事件が起きた、幸の兄である拓也は京にいたと話していた。ある名学へ通い、そのは朝から学図館の閲覧で勉していたという。
妹がくなったらせを受けたのは夜が更けてからだった。拓也は始発の幹線で故郷へ戻り、自宅ののまで来ると、所の々が見守るで膝から崩れ落ちた。
「俺がそばにいれば……」
拓也は柱へをつき、声をげて泣いた。幸子も夫も、そんな息子の背へすがることしかできなかった。
拓也は名学に通う優秀な青として、所でもよくられていた。礼儀正しく、族いで、両親にとっても町の々にとっても自のだった。
広告
葬儀を終えたも、拓也は妹のを受け入れられない様子を見せた。自分で報提供を呼びかけるチラシを印刷し、民へ声をかけて捜索隊を組織した。
「どんなさなことでも構いません。妹を見たがいたら、教えてください」
拓也は寒いでをげ、や駅を歩き続けた。その姿を見た々は、妹をう派な兄だと涙を流した。
事件から1週が過ぎると、捜査本部は幸が最に接触した能性のある物を洗い直した。学の友、担任教師、アルバイト先の関係者、族や親戚が順番に確認された。
幸について、悪く話す者はいなかった。
物静かで優しく、争いごとを避ける性格だった。友を傷つけるような言葉をにしたこともなく、誰かからいみを買うような事も見つからなかった。
聞き込みをめるで、捜査員たちの線は度だけ拓也へ向いた。幸が母親へ送った最のメッセージに、兄の学へ遊びにくとかれていたからだった。
伊は拓也へ事件当のを確認した。
拓也は嫌がる様子もなく、学図館の入退記録を提した。学証をカードリーダーへかざした刻と、閲覧の座席割り当て記録が残っていた。
朝に入し、夕方にも記録があった。
京の学と事件現との距を考えると、拓也がそのに故郷へ戻り、犯に及ぶことは困難に見えた。
広告
捜査チームは度、彼を容疑者の候補からした。
ただし、伊には気になる点が残った。
拓也の記録には、朝の入から夕方までの、本のきを直接確認できるものがなかった。閲覧へ度入れば、へない限りカードを使う必がないため、記録の空自体は自然ではなかった。
「閲覧のに、防犯カメラはありますか」
伊が学側へ尋ねると、担当者はすぐには答えられなかった。映像設備は部の施設管理会社が管理しており、学側では保状況さえ正確に把握していなかった。
確認方法を探しているに、別の物が捜査線へ浮かびがった。
事件現にい古いアパートで暮らす田健という男だった。無職で窃盗の科があり、事件当の夜、現付を歩いている姿が商の防犯カメラに映っていた。
取り調べが始まると、田はそののについて何度も説を変えた。最初はにいたと言い、次には酒をんでいて覚えていないと話した。
域のインターネットメディアは、警察の正式発表を待たずに記事をした。科のある男が女子殺害事件の力容疑者として捜査されているという、刺激な内容だった。
記事は瞬くに広まった。
田ののには民や記者が押しかけ、窓へが投げられる騒ぎまで起きた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
最終列車で消えた18歳
昭和63年、廃線前夜の最終列車に乗った18歳の娘が、途中で姿を消した。 終点に着いた車内には、旅行鞄と赤いマフラーだけが残されていた。 鞄の上には、駅長の父へ宛てた短い手紙。 《お父さんの決めた人生には戻りません》 娘は名古屋の短期大学へ進学する予定だったが、父は直前になって猛反対していた。 それから35年、娘の行方は分からないまま父は亡くなった。 翌年、解体中の旧駅で、伝言板の裏から薄い鉄箱が見つかる。 中には娘の受験票、12通の手紙、診断書、通帳、そして古い録音テープ。 受験票の裏には、失踪8日後の日付でこう記されていた。 《本人来校。入学辞退の意思なし》 ところが、その2日後には父の署名入りの辞退届が提出されていた。 さらに鉄箱から出てきた最終列車の切符には、改札鋏の痕が一つもなかった――。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 33 -
完結第11話
卒業3か月前に消えた娘
1995年11月、卒業まであと3か月だった富山大学4年生・大山蓮子が、突然消息を絶った。 家には財布も読みかけの本も残されていた。ところが、半年以上かけて集めた卒業論文の取材資料だけが、すべて消えていた。 蓮子は都市開発で土地を手放した住民たちを訪ね、補償金の記録を調べていた。失踪前、友人には「土地のお金を調べていたら、生きている人たちの話が出てきた」と漏らしている。 下宿に残された地図には、土地買収が行われた3つの地域を示す赤い丸。そして古い行政資料から浮かんだ担当者の名前は、失踪前夜に蓮子と口論していた叔父・達夫だった。 達夫には完璧なアリバイがあり、捜査はやがて縮小される。しかし6年後、赤い丸がつけられた土地の工事現場から、二重の袋で守られた2枚の書類が見つかった。 余白には蓮子の筆跡で、こう記されていた。 《単価に不自然な変更あり》 そして最後に――《担当者 大山達夫》。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 982 -
完結第11話
合格発表の日、父は消えた
2003年3月8日、19歳の佐伯千春は第一志望の大学に合格した。ところが、その夜に祝うはずだった父・正雄は、勤務中のタクシーと黄色いチューリップだけを残して姿を消す。 車内には千春の合格通知書があり、料金メーターに残された最後の走行距離は43キロ。しかし、なぜか運賃は「0円」だった。さらに父のロッカーからは、《千春には大学を諦めてもらうしかない》と書かれたメモまで見つかる。 多額の借金を知った千春は進学を断念し、父に捨てられたという思いを抱えたまま20年を生きてきた。 2023年、廃業したタクシー会社の倉庫から、父が最後に運転した27号車が発見される。壊れた料金メーターを解析すると、正雄が失踪前の18か月間、毎月同じ施設から同じ乗客を乗せ、東京まで運んでいた記録が残されていた。 そして後部座席から見つかったのは、《佐伯千春》と印刷された一枚の生徒証。しかし、そこに写っていた少女は千春ではなかった。父はなぜ、見知らぬ少女へ娘と同じ名前を与え、合格発表の日に彼女を乗せたのか――。ミステリー|真実|真相1.6万字5 1311 -
完結第12話
消印は失踪の3日後
1996年、岐阜県北部の山あいの町で、配達中の女性郵便局員・小沢真紀が突然姿を消した。 郵便バイクは旧バス停のそばで見つかり、翌朝には河原で制服帽も発見された。警察は川への転落を疑ったが、真紀の姿はどこにもなかった。 それから25年後、閉鎖された旧郵便局の壁の中から、真紀の職員番号が書かれた郵便袋が見つかる。中には、亡くなったはずの人々に関する記録と、真紀が失踪3日後に投函した一通の手紙が残されていた。 そこに書かれていたのは、息子・拓海へ向けた不可解な指示。 「年賀状を全部調べて」 母は本当に川で消えたのか。なぜ死者の名前で年賀状が届き続けていたのか。そして父は、25年間何を隠していたのか。 届かなかった手紙が、長い沈黙の奥に封じられた真実を少しずつ暴いていく――。ミステリー|行方不明1.8万字5 270 -
完結第10話
27年後、娘は父の葬儀に帰ってきた
1995年、学校帰りの10歳の少女・美穂は、灰色の服を着た女に連れられ、そのまま姿を消した。 母・佐和子は27年間、娘の帰りを待ち続けた。だが夫の正人は、地域では「娘を捜し続ける父」として知られる一方で、どこか不自然な沈黙を守っていた。 そして27年後、正人の葬儀の日。 遺族席の佐和子の前に、見知らぬ大人の女性が現れる。彼女が差し出したのは、美穂が幼い頃になくしたはずの花形の髪留めだった。 「お母さん、迎えに来たよ」 再会のはずの言葉は、なぜか冷たかった。 娘はなぜ母を恨んでいたのか。失踪当日、母を学校から遠ざけた電話は何だったのか。そして、27年間隠され続けた手紙と書類が、家族の嘘を静かに暴き始める――。ミステリー|真相|行方不明1.5万字5 210 -
完結第10話
消えた母と2800万円
1998年12月25日、長野県の信用金庫で働く宮本佳代は、給料日の夜に突然姿を消した。 支店では2800万円が消えたと騒ぎになり、佳代は現金を持ち逃げした女性行員として扱われる。家に残された娘の奈緒は、母が用意していたクリームシチューとケーキを前に、帰らない母を待ち続けた。 3日後、千曲川の河原で見つかった母の靴と赤い囲巾。さらに東京行きの片道切符、夫の証言、不自然な借金整理――すべてが「母は家族を捨てて逃げた」と示しているように見えた。 それから23年後。 閉鎖された商店街の地下から、古い貸金庫が発見される。中に入っていたのは、佳代の印鑑、12冊の通帳、そして奈緒が生まれる前に作られたはずの“存在しない口座”だった。 母は本当に2800万円を盗んだのか。 あの夜、灰色の箱に入っていたものは何だったのか。 娘の奈緒が23年越しにたどり着いたのは、信用金庫、父、そして町全体が隠してきた、あまりにも残酷な真実だった――。ミステリー|真相1.5万字5 322