"10年目のボイラー室" 第4話
佐藤夫婦は約1耐えた。
しかし、経営を続けることが難しくなり、1994の、ついに旅館を放した。
夫婦は曽の町へ移り、さなスーパーを経営するようになった。
旅館代のに会うことも避けた。
誰かが青龍旅館の話をすと、佐藤は骨に表を曇らせた。
「あのは本当にひどかった。私たちだって被害者なんだ」
それ以、事件について話そうとはしなかった。
妻の様子も変わっていった。
事件から眠れない夜が増え、病院で精神定剤を処方されるようになったという。周囲には、旅館をれたも悪に悩まされているという話が広がった。
しかし、その理由をる者はいなかった。
方、従業員だった田も事件から数か、曽をれた。
1993の初め頃だった。
名古へったというもいれば、京へったと聞いたもいた。数には、阪の事現で田らしい男を見たという噂までた。
どれも確認された話ではなかった。
田については別の噂もあった。
酒に酔うと、々同じことを繰り返すという。
「俺は何もしていない」
「何もらない」
そして、夜になると悪を見るらしいとも言われた。
だが、それも元のが面半分に広げた話なのか、本当に田がにしたのか分からなかった。
1997頃になると、々は々の活に追われ、10の旅客失踪事件を話題にすることもなくなった。
広告
曽川沿いにもしいホテルやペンションが建ち、観客の流れも変わっていった。
旧青龍旅館はその、別の所者へ渡った。
は改装して営業を再する計画もあったが、資の問題から事はまなかった。古い建物だけが川沿いに残され、にさらされ続けた。
は傷み、壁には染みが広がった。
がまなくなった建物は、毎しずつ古びていった。
そして2002。
田が消えてから、ちょうど10が経とうとしていた。
その、偶然にも田が曽へ戻ってきた。
旅館から3kmほどれたで、1台のトラックが滑って側溝へ落ちる事故が起きた。幸いきな怪はいなかったが、運転していた物の元を確認した警察官が過の記録に気づいた。
田だった。
10、青龍旅館で働いていたあの従業員だった。
田は現、トラック運転として働いていた。
警察は事故の事を確認するついでに、田の失踪についていくつか尋ねた。
「10のことを覚えていますか」
田の表がわずかにくなった。
「覚えています。でも、俺は何もりません」
「当のことは?」
「古すぎて、もうよく覚えていません」
警察も、それ以は追及しなかった。
事件はすでに10の未解決案件だったからだ。
しかしでは、田が戻ったという話が瞬くに広がった。
広告
「なぜ今さら戻ってきたんだ」
「何か理由があるんじゃないか」
田本は、仕事の都で来ただけだと説した。
同じ頃、佐藤夫婦は60代半ばになっていた。
佐藤は糖尿病を抱え、妻も薬をみながら活していた。2とも青龍旅館の話になると、相変わらずを閉ざした。
「あの頃には戻りたくない」
夫婦が言うのは、それだけだった。
誰も真実をらないまま、10というが過ぎていた。
あるいは――。
真実をっていた誰かが、10黙り続けていた。
2002。
放置されていた旧青龍旅館は、ついに取り壊されることになった。
しい所者がを利用し、規模なペンションを建てる計画をてたのだ。入れされていない建物は老朽化がみ、再利用できる状態ではなかった。
10旬、解体作業員たちが旅館へ入った。
古い具をへ運びし、傷んだ壁や井を取りしていく。10放置された内には埃が積もり、畳や板の部は腐っていた。
現を任されていたのは鈴という50代半ばの監督だった。
、古い宅や旅館の解体に携わってきたベテランで、複雑な建物を見ても驚くことはほとんどなかった。
しかし、青龍旅館の1階奥にあるボイラーはし違った。
建物の裏側にあり、狭い階段をりたところに作られた半のような空だった。
井はく、太い配管が何本も入り組んでいる。
作業員たちは古いボイラーの配管を切断し、本体を運びす準備を始めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 4 -
完結第10話
熱海失踪、2時12分のポケベル
1993年秋、就職活動に疲れた26歳の佐藤美緒は、姉夫婦に誘われて熱海温泉へ向かった。 久しぶりに笑顔を見せた美緒。温泉に浸かり、居酒屋で姉と笑い合ったその夜までは、ただの家族旅行に見えていた。 しかし翌朝、美緒の部屋は空だった。財布も身分証も荷物も残されたまま、開け放たれた窓と、消えたスリッパだけが残されていた。 警察は当初、就職活動に悩んだ末の失踪と見なした。姉の由香は必死に妹を探し続け、夫の健二もまた、誰よりも献身的に支える“理想の義兄”として周囲から信頼されていく。 だが6年後、眠っていた捜査ファイルが再び開かれる。 偽名で泊まっていた男、深夜2時12分のポケベル、そして健二が語らなかった20分間の空白。 完璧に見えた義兄の優しさは、本当に家族への愛だったのか。 熱海の夜に隠された嘘が、6年越しの再捜査で静かに崩れ始める――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 2 -
完結第8話
鳴らなかったホイッスル
1988年、紅葉シーズンの箱根峠で、23歳の女性バスガイド・高橋美咲が突然姿を消した。 乗客確認のために濃い霧の中へ降りた彼女は、そのまま戻らなかった。警察は生活苦による失踪と判断したが、高校生だった弟・健二だけは、姉が自分を置いて消えるはずがないと信じ続けていた。 それから15年後。 台風で崩れかけた休憩所の擁壁から、髪の毛が絡みついた「ちぎれたホイッスルの紐」が見つかる。それは、美咲が仕事中に首から下げていたものと酷似していた。 姉は本当に自ら姿を消したのか。 霧の夜に響いた鈍い音、消された運行記録、事件直後に退職した運転手。 15年間封じ込められていた峠の秘密が、冷たい擁壁の隙間から静かに姿を現し始める。ミステリー|行方不明1.1萬字5 148 -
完結第7話
水槽裏の金歯
2002年、ワールドカップで街が沸いていた夜。築地の海鮮居酒屋で開かれた積立会の宴会中、400万円を受け取った魚屋の妻・鈴木恵子が突然姿を消した。 最後に見られたのは、黒いバッグを抱えてトイレへ向かう後ろ姿。財布も携帯も残らず、彼女はそのまま築地の夜から消えた。 夫の健一は「妻は逃げるような女じゃない」と訴え続けたが、ギャンブル癖と夫婦喧嘩の噂から疑いの目を向けられる。さらに、店長の証言と積立会の代表・高橋義子の涙ながらの話によって、事件は“夫から逃げた家出”として処理されてしまう。 それから8年後。 閉店した海鮮居酒屋の改修工事中、水槽裏の排水管から、泥にまみれた小さな金歯が見つかる。 それは、失踪した恵子の前歯にあったものだった。 なぜ金歯は、彼女が出て行ったはずの店の排水管に残されていたのか。 誰が嘘をつき、誰が真実を隠したのか。 400万円の積立金、秘密の帳簿、そして市場で「姉御」と呼ばれた女。 8年間沈黙していた築地の闇が、一本の排水管から静かに暴かれていく。ミステリー|行方不明1.1萬字5 82 -
完結第13話
梅の下に眠る不動産王
1995年、東京に50棟のビルを持つ不動産王・宇井源一郎が、ある夜突然姿を消した。 会長室には、読みかけの新聞、置き忘れた老眼鏡、そして冷え切った一杯のお茶だけが残されていた。専属運転手を帰し、「今日は歩いて帰る」と告げたのを最後に、彼の行方は分からなくなる。 誘拐、逃亡、裏社会との関係――。世間はさまざまな噂を立てたが、身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま事件は迷宮入りしていく。 それから8年後。 山形の小さな町で亡くなった元駐在巡査の遺品から、1冊の古い手帳が見つかる。そこには、失踪当日の朝、宇井源一郎がある古い墓の前に立っていたという、たった1行の記録が残されていた。 なぜ東京の不動産王は、誰も知らない山あいの墓地にいたのか。 そして、その墓に刻まれていた名前は、彼の人生そのものを揺るがすものだった。 8年間、会長室に残された冷えたお茶の謎を忘れられなかった刑事が、封じられた過去へとたどり着く。ミステリー|行方不明1.9萬字5 124