"白タク墓参り" 第3話
柚の赤い着が急速にざかる。
私は慌ててを乗りした。
「止めてちょうだい。2を置いていくなんて聞いてないわ」
そこで藤波はルームミラー越しに私を見た。
「奥様、気づいてないんですか?」
そして、あの言葉をにした。
「あの嫁、あなたを殺そうとしてたんですよ」
内に沈黙が落ちた。
藤波はを見たまま、し声の調子をらげた。
「驚かせて申し訳ありません。でもね、のいないところでお守りしながら話すには、こうするしかなかったんですよ」
まるで私の方だと言わんばかりだった。
けれど、その優しげな声には妙にまとわりつくものがあった。
「何のお話かしら」
私はできるだけ平静に尋ねた。
藤波はきく頷き、何でもっているような調で話し始めた。
「私はこの辺りへ来てまだが浅いんですが、だけはいんです。に挟みましてね。お宅のお嫁さん、ずいぶん気のい方なんでしょう?」
男は顎で方を示した。
「さっきも随分な言われようだったじゃありませんか。そんなにきされたらが持たない、でしたか」
確かに、美はそう言った。
しかしあれは、数から何度も交わしてきた憎まれに過ぎない。
私が黙っていると、藤波はそれを迷いと受け取ったらしい。
「冗談を言うの目じゃありませんでしたよ。
広告
最は保険やの名義なんかまで調べているって話です」
胸の底が、今度は別のでたくなった。
美が私を殺そうとしているからではない。
この男が、なぜそんなことまでっているのかとったからだ。
私は膝ので両をね、ゆっくり息を吐いた。
困ったほど慌てるな。
の奥で隆志の声がした。
慌てるのはよそう。
決めつけるのもよそう。
まず、この男が何を言い、何をっているのかをよく見る。
「ご忠告はありがたいけれど、うちの嫁がそんなことをする子かどうかは、私が決めますよ」
「もちろん、信じたくないお気持ちは分かります」
藤波は何度も頷いた。
けれど話はいつのにか、美の柄からの財産へと移っていった。
「というものはね、命より先に財産へをすものなんです。まして、あれだけ気のいお嫁さんなら」
「うちには今、孫も泊まっているのよ。物騒な話はおよしなさい」
「だからこそです。柚ちゃんのためにも」
その瞬、私は顔にはさず、のだけで息を止めた。
柚ちゃん。
藤波は確かにそう呼んだ。
私はこのに乗ってから、美の名も柚の名も度もにしていない。
墓での会話でも、互いを名で呼んではいなかった。
それどころか、美たちはこののですらない。
命にわせ、方から泊まりに来ているだけだ。
広告
柚が私のへ泊まったのは今回が初めてだった。
それなのに、なぜこの男が孫の名をっているのか。
答えは1つしかなかった。
誰かが、あらかじめ教えている。
藤波は助席へを伸ばし、1枚の名刺を差しした。
「ごなさい。いい先をご紹介します」
に印刷された名刺には、「司法士 川」とかれていた。駅らしい所や話番号まで載っており、見すれば何の自然さもない。
「権利と実印だけでも先へ預けてしまいなさい。あのお嫁さんのの届くところへ置いていては危ない」
そこまで聞いて、胸のの点が線になり始めた。
美を悪者にする。
私をにさせる。
そして最には、必ず、名義、権利、実印の話へ戻ってくる。
藤波が狙っているのは私の命ではない。
隆志と建てた、あのだ。
今朝、墓でを入れ替えていた美のが浮かんだ。
誠を見送った、私ので声をげて泣いた美の姿もいした。
ではいくら憎まれを叩いても、あの子は族だ。
きのために濁ったを捨て、きれいなを張り、墓へをげるが、私を殺そうとしている?
馬鹿馬鹿しい。
嘘をついているのは美ではない。
この男だ。
それでも私は、腹の底から込みげてきたりを顔にはさなかった。
悟られてはいけない。
騙されたふりをする。
今はそれが、私の唯の武器だった。
がカーブへ差しかかり、藤波の線がへ向いた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
戸籍の中のもう一人の妻
海外赴任中の夫・健太に頼まれ、横浜の区役所を訪れた結衣。ところが戸籍の配偶者欄には、見知らぬ女性の名前があった。しかも婚姻日は、結衣が入院した母の看病に追われていた去年の夏。七年間信じてきた夫は、イギリスで別の女性と暮らしながら、日本では何食わぬ顔で優しい夫を演じ続けていた。さらに、二人で貯めたお金まで使われていたことが分かる。結衣は夫を問い詰めず、静かに証拠を集め始めた。夫が積み重ねてきた嘘を、彼女はどう暴いていくのか。人生逆転|裏切られた|夫婦|絶縁|不倫1.3万字5 286 -
完結第12話
義妹の荷物40箱を拒否したら、夫の勝手な約束が発覚
五十六歳のかず子の家に、義妹が経営するネットショップの商品が突然四十箱も届いた。預かると聞いていたのは小さな荷物だけ。受け取りを断ると夫は激怒し、かず子が大切にしている二階の六畳間を倉庫にすればいいと言い放つ。そこは、三十年以上家族を優先してきたかず子が、ようやく手に入れた自分だけの場所だった。さらに翌朝、配送会社から渡された書類には、身に覚えのない集荷予定と自分の名前が。夫と義妹は、かず子に何をさせるつもりだったのか。裏切られた|兄弟姉妹|夫婦1.8万字5 179 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 481 -
完結第10話
離婚して10年、元夫が鍵を替えなかった理由
二十二年間連れ添った夫・正彦の無口さに耐えきれず、四十八歳で離婚したみつ恵。それから十年後、正彦が脳梗塞で倒れたと娘から連絡が入る。入院に必要な荷物を取りに、かつての自宅を訪ねたみつ恵は、返しそびれた合鍵で玄関が開くことに驚く。なぜ十年も鍵を替えなかったのか。部屋には、昔と変わらない食器や、みつ恵が置いていったスリッパが残されていた。やがて見つけた一通の手紙には、二十二年間聞けなかった夫の想いが綴られていた。別れた二人は、もう一度向き合えるのだろうか。夫婦|第二の人生|介護|退職金|熟年離婚1.3万字5 195 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 277 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 1375