"白タク墓参り" 第5話
自分でも驚くほど落ち着いた声がた。
窓の向こうには茶畑が瞬だけ見え、また々のに消えていった。
藤波の態度から、最初の頃の余裕がしずつ消えていた。
「は急げと申しますでしょう、奥様」
ハンドルを握りながら、男がを乗りす。
「こうしましょう。今からご自宅へお回りします。権利と実印をお持ちになって、そので川先へお預けになる。それが番全です」
へ戻る。
誰もいない自宅へ、この男と2きりで入る。
私は背筋をたいものがるのをじた。
今度はるですらない。
目もないの。
そこで拒めば、何をされるか分からない。
断れば怪しまれる。
頷けば終わる。
隆志の言葉をいす。
慌てるな。
急かすほど疑え。
藤波もまた、話の向こうの男から期限を迫られている。
それなら、こちらから焦らせればいい。
私は帯へを添え、打ちけ話をするように声を落とした。
「仕方ないわね。本当のことを言いますけれど」
藤波の目がミラー越しにいた。
「権利と実印は、にはないのよ」
「何ですって?」
男の声が変わった。
「物騒なご世でしょう。隆志さんの形見と緒に、菩提寺の職さんへ預けてあるの」
もちろん嘘だった。
権利も実印も、寺にはない。
けれど藤波はるはずがない。
私は何でもないことのように続けた。
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「さっきの、あのお寺よ」
男の眉がわずかにく。
「それなら、なおさらく先へ――」
「それがね、職さん、今は午から法でおかけなの」
私はさくため息をついた。
「支度が済んだら、預かり物も全部、蔵の庫にしまってしまうって言っていたわ」
藤波が黙る。
私は畳みかけた。
「あなた、急いだ方がいいとおっしゃったでしょう。今戻らないと、今はもうしていただけないわよ」
藤波はミラー越しに私を見た。
窓のののさを確認する。
指先が苛たしげにハンドルを叩く。
期限。
話の男も、が落ちるまでに片をつけろと言っていた。
やがて藤波は舌打ちを噛み殺すような顔で言った。
「分かりました」
の速度が落ちる。
「寺へ戻ります」
次の広い所で、はきく切り返した。
来たを戻り始める。
私は窓のを見ながら、胸ので静かに息を吐いた。
にって。
美。
柚。
どうか、気づいていて。
そして警察がいてくれていて。
けれど、期待しすぎてはいけない。
まずは自分で、目のある所まで戻る。
私は帯越しに懐計へ触れた。
隆志さん。
見ていてちょうだいね。
やがて々の向こうに、菩提寺の根が見え始めた。
夕方のがを照らしている。
ここからが、本当の勝負だった。
寺のには、まだ何かのがあった。
寺男らしい男性や墓参りに来た老夫婦が歩き、本堂の脇では職が法の支度をしている。
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私はそれを確認し、胸の奥でしだけ堵した。
藤波も周囲へ素く線をらせた。
美と柚が見当たらないことを確かめているようだった。
が止まると、藤波はすぐにへた。
「いやあ、に迷いましてね。この辺りはまだ覚えたばかりなもので」
くにいた寺男へ、よく笑いながら子を取る。
私はゆっくりからりた。
帯のから懐計へ触れる。
「あら、おかしなことをおっしゃるのね」
藤波の笑顔が止まった。
「何がです?」
「このは覚えたばかりだというのに、ご所がち退いた順番も、うちの再発の話も、随分お詳しかったじゃない」
男は何も答えなかった。
「職さんはまだお支度みたいね。預け物の話はにしましょう」
私は先に段へを向けた。
「せっかくだから、もう度主へをわせていきます。あなたもいらっしゃいな」
藤波はし迷ったものの、私を1にするわけにはいかないとったのか、からついてきた。
墓には、先ほど焚いた線の残りがわずかに漂っていた。
美が入れ替えたは、てのでまだ澄んでいる。
私は隆志の墓のへった。
「1つ、教えてちょうだいな」
背から藤波の気配がづく。
「何でしょう」
私は墓を見たまま尋ねた。
「私はあなたのので、美の名も柚の名も1度もにしていないのよ」
返事はなかった。
ゆっくり振り返る。
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