"水底に沈めた嘘" 第2話
面だけではなくむらや周囲の農まで歩き、潜士も投入された。
それでも、俊助本だけが見つからなかった。
ただ1つ。
の、3本目の柳ののに、釣り竿が1本残されていた。
糸はへ伸び、浮きだけが静かな面に揺れていた。
釣りの姿はどこにもなかった。
失踪当の気象記録によれば、その朝の曇野の最気温は氷点3度くまでがっていた。夜からたい空気がへり、夜けには根や田畑をいが覆っていた。
はほとんどなかった。寒さを除けば、釣りをするには悪くない朝だった。
俊助が自宅をた刻は、午420分と考えられた。
根拠の1つは文の証言だった。寝ぼけながらトラックのエンジン音を聞き、枕元の計を見ると午4をし過ぎていたという。
もう1つは、自宅くの雑貨主・林達夫の目撃報だった。
林はその朝、納品のを待つためくからのにっていた。午430分頃、見慣れたトラックがを通り過ぎていったという。
「も種も、さんのトラックと同じでした」
その所は、俊助の自宅から貯池へ向かう筋にあった。
さらに貯池くでは、別の釣りがトラックを見ていた。
斎藤という男性だった。
斎藤は午5に貯池へ到着した。その、駐スペースにはすでに1台のトラックが止まっていた。
広告
エンジンは切られていたが、内までは確認しなかった。
斎藤が釣り座を決めたのは午510分頃だった。その、側の柳ののには、すでに釣り竿が1本てられていた。
しかしはなかった。
朝が濃かったため、斎藤は持ち主がくを歩いているか、用をしにったのだとったという。
午7。
柳ののには戻っていなかった。
2も釣りをれているのはし奇妙だったが、斎藤はそれ以気にしなかった。ので休む釣りもいれば、周辺を散歩するもいたからだ。
午9を過ぎても、状況は変わらなかった。
斎藤が帰るため駐スペースへ戻ると、トラックも同じ所に残されていた。
俊助の取りを裏付ける証言は、そこで途切れた。
午9以、その貯池周辺で俊助を見たという物は1もいなかった。
の管理記録にも、くを通った農作業の運転の記憶にも、彼の姿は残っていなかった。
警察は当初、転落事故を疑った。
夜けの暗い辺を歩いていてを滑らせ、そのままへ落ちた能性である。
だが潜捜索をしても何も見つからなかった。
そのため、町では別の噂が広がり始めた。
借があったのではないか。
会社の経営状態が悪化し、将来を観して姿を消したのではないか。
広告
しかし田健は、その説を信じなかった。
「俊助さんは、そんなじゃない。借で困ってたなら、俺にくらい何か言ったとうんです」
方、警察の聞き込みでは、気になる証言もていた。
そのの、俊助がの昼休みに1で公衆話を使っているところを見た同僚がいた。
俊助は話ボックスのガラスに背を預け、い声でく話していた。
話を終えててきた、普段とは顔つきが違っていたという。
「どんなふうに違っていたんですか」
捜査官にそう尋ねられ、同僚はしばらく考えた。
「怯えているように見えました」
だが、その証言は当の捜査記録のに埋もれた。
特別な追跡調査はわれなかった。
夫婦関係についても調べられたが、所の証言はほぼ同じだった。
きな喧嘩をしている声は聞いたことがない。
しかし、特別に仲が良さそうでもない。
「ただ緒に活している夫婦に見えました」
鈴幸子はそう説した。
俊助の兄・賢介は、別の記憶を警察へ話した。
失踪の約2かに弟と事をした、俊助が途で箸を置いたことがあった。
何か言いたそうにこちらを見た、
「いや、何でもない」
そう言って笑ったという。
賢介はそれ以聞かなかった。
その判断を、に何度も悔することになる。
失踪、文は夫名義の通帳をすぐ確認していた。
失踪から2には残を調べ、そのも活費以にきなのきがないことを確かめていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員
「一人で静かに帰りたいので、大丈夫です」 昭和51年、25歳のみち子は飲み会のあと、一人でタクシーへ乗った。 運転手は、彼女を自宅からわずか50メートルの場所で降ろした。 「夜遅くにありがとうございました」 それが、みち子を見た最後の証言だった。 布団は朝まで誰にも使われず、通帳も着替えも部屋に残っていた。 上司と同僚には不自然な空白時間があったが、何も見つからなかった。 そして9年後。 亡くなった上司の娘が、遺品のアルバムを開いた。 失踪当夜の宴会写真の次に、見知らぬ和室を写した一枚が貼られていた。 机の上には、黒い女性用のハンドバッグ。 写真の裏には、みち子が消えた数日後の日付が押されていた。昭和|ミステリー|真相1.7万字5 3248 -
完結第10話
昭和63年、消えたいちご農園主――3年後の古い倉庫
「分かった。じゃあ、2時頃に行く」 昭和63年4月5日、いちご農園主の夫は、一本の電話を受けて家を出た。 「夕飯までには戻る」 それが、家族が聞いた最後の言葉になった。 通帳も印鑑も着替えも、すべて家に残されていた。 夫の手帳には、乱れた字で二行だけ書かれていた。 《佐藤さんの件、今日で決める》 《2時 古い倉庫》 しかし名前の挙がった男は、電話も面会も否定した。 倉庫の持ち主も、最初は「会っていない」と証言した。 夫の行方が分からないまま、3年が過ぎた。 そして倉庫の取り壊し当日、周囲と色の違う床へ重機の刃が入った。昭和|ミステリー|真相1.5万字5 47 -
完結第12話
合格発表の日、父が消えた
「お父さん、合格したよ」 2010年3月6日、18歳の栞が大学合格を知った日、父は帰ってこなかった。 勤務先の金庫からは480万円が消え、父のロッカーには仙台行きの新幹線切符が残されていた。 《もう父親でいる資格がない。二人で暮らしてくれ》 さらに大学には、栞が試験問題を買ったという匿名の告発まで届いた。 栞は合格を辞退し、父は金を持ち逃げした男として消息を絶った。 それから14年後。 閉鎖された予備校の隠し書庫から、栞の名前が書かれた答案用紙が見つかる。 封筒には、不可解な一文が添えられていた。 《本人は受験せず》 答案の文字は栞の筆跡ではなかった。 そして母は、14年間隠していた白い目覚まし時計を差し出した。 その修理票には、父が乗ったはずの新幹線が出た「32分後」の受付時刻が記されていた。ミステリー|真相1.8万字5 2313 -
完結第11話
13歳の娘だけ、保険証にいなかった
「お母ちゃん、どうして私の名前だけないの?」 昭和36年、藤井家に届いた新しい国民健康保険証。 父、母、10歳の弟、7歳の弟――家族全員の名前が並んでいた。 けれど13歳の美津子だけが、どこにも載っていなかった。 母は保険証を取り上げ、「役場の間違いだから」と隠した。 父も黙ったまま、一度も娘の顔を見なかった。 不安になった美津子は、翌朝一人で役場へ向かった。 職員は台帳をめくると、急に表情を曇らせた。 「お母さんと一緒に来た方がいい」 「私、藤井美津子ですよね?」 返事はなかった。 そして最後に、職員は重い口調で告げた。 「あなたは、修一さんと和子さんの戸籍には入っていないんだよ」 その夜、美津子が「私は誰の子なの」と問い詰めると、母は13年間隠してきた女性の名前を口にした。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 609 -
完結第11話
最終列車で消えた18歳
昭和63年、廃線前夜の最終列車に乗った18歳の娘が、途中で姿を消した。 終点に着いた車内には、旅行鞄と赤いマフラーだけが残されていた。 鞄の上には、駅長の父へ宛てた短い手紙。 《お父さんの決めた人生には戻りません》 娘は名古屋の短期大学へ進学する予定だったが、父は直前になって猛反対していた。 それから35年、娘の行方は分からないまま父は亡くなった。 翌年、解体中の旧駅で、伝言板の裏から薄い鉄箱が見つかる。 中には娘の受験票、12通の手紙、診断書、通帳、そして古い録音テープ。 受験票の裏には、失踪8日後の日付でこう記されていた。 《本人来校。入学辞退の意思なし》 ところが、その2日後には父の署名入りの辞退届が提出されていた。 さらに鉄箱から出てきた最終列車の切符には、改札鋏の痕が一つもなかった――。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 465 -
完結第11話
卒業3か月前に消えた娘
1995年11月、卒業まであと3か月だった富山大学4年生・大山蓮子が、突然消息を絶った。 家には財布も読みかけの本も残されていた。ところが、半年以上かけて集めた卒業論文の取材資料だけが、すべて消えていた。 蓮子は都市開発で土地を手放した住民たちを訪ね、補償金の記録を調べていた。失踪前、友人には「土地のお金を調べていたら、生きている人たちの話が出てきた」と漏らしている。 下宿に残された地図には、土地買収が行われた3つの地域を示す赤い丸。そして古い行政資料から浮かんだ担当者の名前は、失踪前夜に蓮子と口論していた叔父・達夫だった。 達夫には完璧なアリバイがあり、捜査はやがて縮小される。しかし6年後、赤い丸がつけられた土地の工事現場から、二重の袋で守られた2枚の書類が見つかった。 余白には蓮子の筆跡で、こう記されていた。 《単価に不自然な変更あり》 そして最後に――《担当者 大山達夫》。ミステリー|真相|行方不明1.6万字5 1134 -
完結第11話
合格発表の日、父は消えた
2003年3月8日、19歳の佐伯千春は第一志望の大学に合格した。ところが、その夜に祝うはずだった父・正雄は、勤務中のタクシーと黄色いチューリップだけを残して姿を消す。 車内には千春の合格通知書があり、料金メーターに残された最後の走行距離は43キロ。しかし、なぜか運賃は「0円」だった。さらに父のロッカーからは、《千春には大学を諦めてもらうしかない》と書かれたメモまで見つかる。 多額の借金を知った千春は進学を断念し、父に捨てられたという思いを抱えたまま20年を生きてきた。 2023年、廃業したタクシー会社の倉庫から、父が最後に運転した27号車が発見される。壊れた料金メーターを解析すると、正雄が失踪前の18か月間、毎月同じ施設から同じ乗客を乗せ、東京まで運んでいた記録が残されていた。 そして後部座席から見つかったのは、《佐伯千春》と印刷された一枚の生徒証。しかし、そこに写っていた少女は千春ではなかった。父はなぜ、見知らぬ少女へ娘と同じ名前を与え、合格発表の日に彼女を乗せたのか――。ミステリー|真実|真相1.6万字5 1547 -
完結第12話
消印は失踪の3日後
1996年、岐阜県北部の山あいの町で、配達中の女性郵便局員・小沢真紀が突然姿を消した。 郵便バイクは旧バス停のそばで見つかり、翌朝には河原で制服帽も発見された。警察は川への転落を疑ったが、真紀の姿はどこにもなかった。 それから25年後、閉鎖された旧郵便局の壁の中から、真紀の職員番号が書かれた郵便袋が見つかる。中には、亡くなったはずの人々に関する記録と、真紀が失踪3日後に投函した一通の手紙が残されていた。 そこに書かれていたのは、息子・拓海へ向けた不可解な指示。 「年賀状を全部調べて」 母は本当に川で消えたのか。なぜ死者の名前で年賀状が届き続けていたのか。そして父は、25年間何を隠していたのか。 届かなかった手紙が、長い沈黙の奥に封じられた真実を少しずつ暴いていく――。ミステリー|行方不明1.8万字5 310