"300億を捨てた相場師" 第5話
奥に、古びた毛布に包まれたものが置かれていた。
取りしてみると、さな箱だった。
には帯のついた現。
巨額ではない。
しかし、1がしばらく慎ましく暮らすには分な額だった。
そのに、い封筒があった。
表には、
「遺」
とかれていた。
矢島は封をいた。
――この箱を見つけた方へ。
――私は梶常と申します。
――全てを捨て、この部へ帰ってまいりました。
続く文章を読み、矢島の表が変わった。
常はい臓病を患っていた。
医師から、もうくはないと告げられていた。
だが、そのことを族にはらせなかった。
――派な葬式も墓もいりません。
――私はただ最の々を、この部で恵さんのそばにいながら静かに過ごしたいのです。
――そしてもし私がここで息を引き取ったには、恵さんのお墓のすぐ隣に葬っていただけないでしょうか。
――それが私のたった1つの願いです。
桜井の目に涙が滲んだ。
「自分の期をっていたんですね」
「ああ」
誘拐でもなかった。
銭トラブルでもなかった。
常は自分ので、300億円のを捨てた。
最に戻りたい所へ戻るために。
しかし、まだ1つだけ謎があった。
この部に常はいない。
現も遺も残っている。
ならば彼は、ここからさらにどこへったのか。
矢島は遺を封筒へ戻した。
「まだ終わっていない」
広告
窓のでは、桜のびらが静かにっていた。
矢島と桜井は、もう度団のたちに聞き込みを始めた。
そして、ようやく6の記憶を持つ老にき当たった。
「203号ですか」
老は目を細めた。
「そういえば、恵さんがくなった、しばらく男のがんでいたことがありましたね」
「いつ頃です?」
「ちょうど6くらいのでしたよ」
特徴を聞く。
50代半。
品のある装。
あまりにはず、会えばさくをげて通り過ぎる。
常と致した。
やはり彼は失踪、この部で暮らしていたのだ。
台の敷から姿を消し、世からも族からも距を置き、かつて自分が貧しかった頃の部にを寄せていた。
「そのは、いつまでここに?」
桜井が尋ねた。
老はしばらく考えた。
「の初め頃かな。ある朝から、ぱったり見なくなったんです」
「引っ越したんでしょうか?」
「そうっていました。でも、荷物を運ぶところは誰も見ていません」
い臓病。
余命宣告。
のある朝、突然いなくなった。
矢島のに、嫌な予がまれた。
団の周辺を調べる。
すると、すぐくにさな寺があった。
恵が眠っている墓も、その寺にあった。
矢島と桜井は職を訪ねた。
老いた職は、6のの記憶をゆっくりといした。
「そういえば、ありましたね」
「何がです?」
「あのの、寺の裏で元の分からない男性がくなっていたんです」
広告
2は同に息を止めた。
「いつ頃です?」
期は、常が団から姿を消した直だった。
「財布も分証も持っていませんでした。元を調べても分からず、最終には無縁仏としてこちらでお預かりしました」
「くなった原因は?」
「病気だったと聞いています。顔は穏やかでしたよ。苦しんだ様子もなく、まるで眠るようだったと」
矢島はすぐに警察へ戻った。
当の記録を探しす。
寺の裏で発見された元男性。
推定齢。
。
体格。
全て常と矛盾しない。
そして、決定だったのが歯科記録だった。
常が通っていた歯科医院に残されていた治療記録と、元者の記録を照する。
結果は致した。
6、寺の裏でくなり、元のまま葬られた男。
それこそが梶常だった。
止まっていた事件の計が、ようやくき終えた。
常は台のをた。
県営団の203号へ戻った。
恵がきていた頃の空気が残る所で、しばらく静かに暮らした。
そして自分の最期がいことを悟ったの朝、部をた。
目指したのは、恵が眠る寺だったのだろう。
彼は最の力で裏まで歩き、そこで静かに息を引き取った。
財布も分証も持たずに。
巨額の財産を持つ「桑原の相師」ではなく、ただの梶常として。
いや、もしかすると最には名すらいらなかったのかもしれない。
「恵さんのそばまできたかったんでしょうね」
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 197 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 688 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 335 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 285 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 253 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 241 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1188 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 424 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 379