"300億を捨てた相場師" 第6話
桜井が言った。
矢島はさく頷いた。
「ああ。300億円を持っていた男が最に欲しかったのは、墓の隣のわずかな所だったんだ」
事件の真相は判した。
だが、調査の過程でさらにもう1つ、常が誰にもかさずめていたことが分かった。
失踪する以から、彼は巨額の資産を理していた。
株。
。
預。
それらをしずつ現化し、ある所へ移していた。
しかし、妻や娘の座ではなかった。
くは匿名の寄付として使われていた。
寄りのない子供たちを支援する施設。
頼れる族を持たない齢者の福祉施設。
活に困窮する々への支援団体。
何億円というが、何度にも分けて寄付されていた。
全て匿名だった。
施設関係者さえ、それが誰からのなのからなかった。
矢島は寄付先の覧を見ながら、い何も言えなかった。
若い頃の常には寄りがなかった。
べるものすら分になかった。
そんな自分に、恵は温かい事を分けてくれた。
彼は、そのに直接恩を返すことができなかった。
だから最に、見らぬ誰かへ返そうとしたのだ。
かつての自分のような子供たちへ。
恵のように、1で老いていくたちへ。
受け取った恩を別の誰かに渡すように。
常は300億円という財産を、最には自分のためにほとんど使わなかった。
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「遅すぎた恩返し、ですかね」
桜井が言った。
矢島は首を振った。
「恵さんにはにわなかった。でも、恩そのものは消えなかったんだろう」
では返せないものがある。
だからこそ、常はでできることを最まで考えた。
それが彼なりの償いだったのかもしれない。
全てが分かった初。
矢島は千鶴へ報告するため、民病院へ向かった。
しかし病はもう空いていた。
千鶴は数に息を引き取っていた。
団を調べているのことだった。
矢島はしばらく、誰もいない病のにっていた。
最まで常のことを気にかけていた老女。
6守り続けた秘密を、自分のをにようやく警察へ託した。
彼女が話してくれなければ、常は永に「300億円を残して謎の失踪を遂げた男」のままだったかもしれない。
矢島は静かにをげた。
「千鶴さん。分かりましたよ」
ので語りかける。
「梶さんはたいじゃなかった。あなたが言った通りでした」
その、みつ子と直子にも真相が伝えられた。
妻と娘はい言葉を失った。
常がい病気だったこと。
若い頃に恵という女性に助けられていたこと。
その恩を返せないままなせてしまったことを、涯悔いていたこと。
族にも何も告げず、1で姿を消した理由。
全てをった直子は、唇を震わせた。
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「お父さん……ずっと苦しんでいたんですね」
みつ子は俯いたまま、静かに涙を流した。
えば夫婦でありながら、常のの奥へ入り込めたことは度もなかった。
財産の話はした。
活の話もした。
しかし、常が本当は何を恐れ、何を悔いてきてきたのかを、族はらなかった。
直子は言った。
「父を、恵さんの隣へ移してあげてください」
それは常が遺に残した、たった1つの願いでもあった。
続きがめられた。
元者として埋葬されていた遺骨は、正式に梶常のものとして族の元へ戻された。
そして初のよくれた。
団くのさな寺で、しい納骨がわれた。
墓の片隅。
恵の墓のすぐ隣に、常の墓が作られた。
きくも、豪華でもない。
2つのさな墓が、静かに寄り添うように並んでいた。
直子は墓のにしゃがみ込んだ。
「お父さん」
その声は震えていた。
「やっと帰ってこられたね」
みつ子も隣でをわせた。
矢島と桜井はしれたところから、その様子を見守っていた。
が墓を抜けていった。
台を見れば、りんご畑には青々とした葉が茂っている。
あと数かもすれば、また赤い実をつける。
6と同じように。
矢島は2つの墓を見つめた。
「あんたは、ようやく帰る所に着いたんだな」
300億円の財産を築いた男。
誰よりもをかすことにけた男。
その男がではどうしてもに入れられなかったもの。
それは、貧しかった自分に差しされた杯の温かな事への恩返しだった。
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