"午前0時30分の空白" 第1話
1991913。神奈川県の夜は、昼の蒸し暑さをまだし引きずっていた。
24歳の会社員、清田け子は、その夜、会社の同僚とJR茅ヶ崎駅周辺で事をしていた。特別な事があったわけではない。仕事を終えた会社員が、同僚と事をし、で帰宅する。になって振り返れば、そのつつがなを持つことになるが、その点ではどこにでもある常の面にすぎなかった。
け子は神奈川県内の化学会社に勤務していた。
24歳という齢は、社会としての活にも慣れ始める方で、まだこれから先にいくつもの選択肢が広がっている頃でもある。翌に何をするか、次の休をどう過ごすか、そんな未来が当たりに続いていくはずだった。
事を終えた、け子は同僚とともに移した。
は次第に遅くなり、付が変わろうとしていた。
そして914午030分頃。
け子と同僚はJR藤沢駅にいた。
付のタクシー乗りで、は別れたとされている。同僚はそのままタクシーに乗り、自宅へ帰った。
け子は乗らなかった。
それが、にきなを持つ。
夜の藤沢駅には、終を気にしながら急ぐ、タクシーを待つ、を閉めて帰宅するたちが残っていたはずだった。現の駅のように至るところに防犯カメラがある代ではない。
広告
誰がどの方向へ歩いたのか、そのすべてが映像に残るような環境でもなかった。
け子は駅の公衆話を使った。
この事実は、彼女の最の取りを考えるでな点として残ることになる。
受話器をげ、貨を入れ、番号を押す。
それ自体は1991ならごく普通のだった。携帯話が誰にでも普及している代ではなく、先から誰かへ連絡するには公衆話を使うことが珍しくなかった。
問題は、その話のだった。
け子が誰に話をかけたのか。
どんな会話をしたのか。
話の相から何かを指示されたのか。
迎えを頼んだのか。
あるいは、すでに会う約束をしていた相へ、自分が藤沢駅にいることを伝えたのか。
公されている報だけでは、その先を確定することができない。
分かっているのは、公衆話を使ったこと。
そして、その、け子の確かな取りが途絶えたということだった。
部では、その夜、け子に似た若い女性をタクシーに乗せたという運転の話も伝えられている。
藤沢駅のから、田急ノ島線沿線の駅付へ向かった若い女性。
もしそれがけ子本だったなら、彼女は公衆話を使った、何らかの理由で藤沢駅から別の所へ移したことになる。
しかし、その女性がけ子本だったと断定できる材料は、公報からは確認できない。
広告
になって事件をったは、どうしてもその空へ答えを入れたくなる。
話の相が犯だったのではないか。
が迎えに来たのではないか。
誰かに呼びされたのではないか。
あるいは、偶然りった物についてったのではないか。
けれど、どれも推測にすぎない。
この事件の難しさは、まさにそこから始まっていた。
最に確かに確認されている所は、通りのある藤沢駅周辺だった。
のないでもなければ、気のない跡でもない。
ごく普通の駅である。
そこで公衆話を使った若い女性が、そのどこへ向かったのか。
誰と接触したのか。
自分ので移したのか。
その答えは、最初から記録の側に落ちていた。
翌朝になっても、け子は自宅へ戻らなかった。
が経つにつれ、周囲にが広がっていく。
最初は単なる帰宅の遅れに見えたかもしれない。
何か事があって宅へ泊まった能性も考えられたかもしれない。
しかし、連絡がない。
勤務先にも姿を見せない。
き先も分からない。
族や関係者にとって、914は「帰ってこなかった」になった。
そのも、け子の姿は確認されなかった。
1。
2。
3。
だけが過ぎていく。
藤沢駅の公衆話ので消えた取りは、どこにもつながらないままだった。
そして、その、誰も像していなかった。
12。
藤沢かられた平塚の歩者用で、つのドラム缶が見つかることになる。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 197 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 689 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 335 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 328 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 258 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 248 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1188 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 425 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 379 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 500