"16回の拒否" 第2話
参加者たちはすでにし疲れたような表をしていた。
そので黒田だけは、歩きながら満そうに液晶画面を眺めていた。
写真ののの表には、倍こだわる男だった。
けれど、目のにいるの表を見ることは、決して得ではなかった。
黒田がカメラを始めたのは、会社を退職してもない頃だった。
続けた仕事を辞めた直は、自由になったという解放があった。朝、目覚まし計に追いてられることもなく、満員に乗る必もない。嫌な司の顔を見ることもなければ、締め切りに追われることもなかった。
ところが、そんな活はく続かなかった。
朝起きても、急いでかける理由がない。
テレビを見ているうちに昼になり、所のスーパーへ買い物にき、夕を済ませれば1が終わる。
最初は気楽だったが、しずつ空に変わっていった。
「このまま何もせずにを取るのも、つまらないな」
そう考えていた、黒田は量販でレフを見つけた。
売りには、きなレンズを付けたカメラが何台も並んでいた。
に取ると、スマートフォンにはないさがあった。
「最のカメラは初者でも綺麗に撮れますよ」
員にそう勧められ、黒田はそののうちに購入した。
決してい買い物ではなかったが、退職に始める趣なのだから、そのくらいの費はあってもいいとった。
広告
最初の頃は、設定のほとんどをカメラ任せにしていた。
公園へき、へレンズを向け、シャッターを押す。
それだけで背景がふんわりとぼけた写真が撮れる。
液晶画面を見た黒田はした。
「やっぱりスマホとは違うな」
やがて、インターネットで写真の撮り方を調べるようになった。
逆。
構図。
絞り。
。
背景ぼけ。
覚えた言葉は、それほどくなかった。
それでも、いくつかの専用語をると、黒田にはの写真の欠点が目につくようになった。
画面が傾いている。
の顔が暗い。
空がくんでいる。
背景に余計なものが入っている。
以なら何ともわなかった写真を見て、「ここを直せばもっと良くなるのに」とじるようになった。
いつのにか黒田は、自分が周囲より写真を分かっているような気になっていた。
そんな黒田の自信を決定にした来事があった。
あるの。
黒田は所の公園で、満の桜を撮した。
青空の、遊歩の両側に桜並が続いている。
偶然、通りが途切れた瞬だった。
淡いびらと青い空。
朝の静かな空気まで写真に閉じ込めたような1枚になった。
黒田自も気に入り、何度も見返していた。
、その写真を域サークルのへ見せる会があった。
「綺麗ですね」
は素直にした。
「この公園、こんなふうに見えるんですね」
広告
ちょうどそのは、域活のの案内に使う写真を探していた。
「黒田さん、この写真、案内に使わせてもらってもいいですか?」
黒田はを疑った。
「僕の写真を?」
「はい。黒田さんさえよければ、ぜひお願いしたいんです」
胸の奥がくなった。
自分が撮った写真を、誰かが使いたいと言っている。
ただ自分の趣で撮っただけの1枚が、に必とされた。
、完成した活案内を受け取ると、黒田は何度もその面を眺めた。
写真の横に自分の名が載っているわけではない。
賞を取ったわけでもない。
それでも黒田には、自分の写真が正式に認められたようにえた。
実際、その案内は評判が良かった。
も、わざわざ礼を言ってきた。
「あの写真のおかげか、問いわせが増えましたよ。ありがとうございました」
黒田は、その言葉を何度もい返した。
最初、に話すは、
「域の活案内に、僕が撮った桜の写真が使われたんですよ」
と言っていた。
しかし何度か話すうちに、表現はしずつ変わった。
「向こうから、僕の写真を使いたいと言ってきたんです」
さらにが経つと、
「僕の写真は、から選ばれる写真ですからね」
それが癖のようになった。
が褒めたのは、たまたま綺麗に撮れた1枚の桜の写真だった。
けれど黒田だけが、自分そのものを評価されたように受け取っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
戸籍の中のもう一人の妻
海外赴任中の夫・健太に頼まれ、横浜の区役所を訪れた結衣。ところが戸籍の配偶者欄には、見知らぬ女性の名前があった。しかも婚姻日は、結衣が入院した母の看病に追われていた去年の夏。七年間信じてきた夫は、イギリスで別の女性と暮らしながら、日本では何食わぬ顔で優しい夫を演じ続けていた。さらに、二人で貯めたお金まで使われていたことが分かる。結衣は夫を問い詰めず、静かに証拠を集め始めた。夫が積み重ねてきた嘘を、彼女はどう暴いていくのか。人生逆転|裏切られた|夫婦|絶縁|不倫1.3万字5 285 -
完結第12話
「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密
町内会の夏祭りで、寄付が千円しかないと笑われた68歳の静子。古い自転車に乗り、夫の勉と慎ましく暮らす彼女は、婦人会長から「ケチな人」と見下され、記念式典の受付役まで外されてしまう。それでも静子は言い返さない。夫婦には、30年間、毎月15日に欠かさず続けてきた秘密の約束があった。やがて婦人会の記念式典に、育英基金の支援で大学を卒業した青年が現れる。青年が大切に持っていた一通の手紙をきっかけに、会場の空気が思いがけない方向へ変わり始める。人生逆転|夫婦|真実|金銭問題1.9万字5 542 -
完結第12話
半額を迫る料亭女将、クビにした社員が電話を切った結果
小さなおしぼり会社「双葉物産」を経営する正は、大口取引先の高級料亭「よし乃」の女将から、突然「半額にしなければ契約を切る」と迫られる。会社を守るため要求をのもうとした瞬間、昨日クビにしたばかりの問題社員・刑事が受話器を奪い、勝手に取引を断ってしまった。倒産の危機に頭を抱える正。ところが数日後、強気だった女将に思わぬ事態が起こる。口が悪く、金の使い込みまでしていた元従業員は、いったい何を考えていたのか。弱小企業と高級料亭の立場が一変する、痛快な逆転劇。職場逆転|因果応報|人生逆転|金銭問題1.1万字5 307 -
完結第12話
同窓会で「席はない」と笑われた私に、若女将が一礼
七十歳になった水野春江は、亡き夫との約束を胸に、地元の老舗旅館で開かれる古希の同窓会に出席する。ところが受付で、幹事の麗子から「会費未納だから席はない」と告げられ、皆の前で仲居扱いされてしまう。確かに春江は、この旅館で掃除も布団運びもしている。だが、その理由を麗子は知らなかった。高校時代から続く嫉妬、勝手に消された名簿、そして欠席するはずだった恩師のために用意された席。五十一年ぶりの再会をきっかけに、春江が長年大切にしてきたものが明らかになっていく。人生逆転|第二の人生|金銭問題1.9万字5 381 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 474 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 274 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 1355 -
完結第12話
結婚23年目、35万円を渡した妻が持ち帰ったもの
結婚23年目、妻の三重が久しぶりに山あいの実家へ帰りたいと言い出した。夫は母親との時間を楽しんでほしくて、35万円を持たせて送り出す。数日後、三重が持ち帰ったのは、古い着物とアルバム、そして母親からの一通の手紙だった。封筒には「今まで言えなかったこと」と書かれていた。手紙を読み進めるうちに、夫は妻が長年胸にしまってきた思いを知る。何不自由なく暮らしていると思っていた23年間。人生逆転|夫婦|相続|第二の人生|親子関係1.2万字5 1771 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 879 -
完結第10話
144枚の給与明細
金型の仕上げ職人として20年以上の経験を持つ宮下明。会社の危機を救うほどの腕前を持ちながら、12年間、月給は19万円のままだった。それでも創業者への恩を忘れず、黙々と働いてきた宮下だったが、ある日、専務から突然の配置転換を命じられる。職人としての誇りを踏みにじられ、退職を決意した翌朝、会長が自宅へ駆けつけてきた。「年収1200万円では足りないのか?」――その一言から、会社の金をめぐる不可解な事実が明らかになり始める。職場逆転|第二の人生|修羅場1.7万字5 994