"北アルプスの0.5秒" 第1話
202410、京都区の古いアパートで、特殊清掃業者の作業員たちが黙々と荷物を運びしていた。
数、この部で60代の男性が1でくなっているのが発見された。発見までかなりの数が経っていたため、内には苦しい臭いが残り、窓をけてもなかなか空気が入れ替わらなかった。
現責任者の慎太は、とをマスクで覆いながら、古い具を1つずつ確認していた。
「このクローゼットのもお願いします」
作業員の声に、は奥へを伸ばした。
何もかされていなかったらしい段ボール箱のろに、埃をかぶった登用のリュックが押し込まれていた。はすっかり褪せ、具の部には錆まで浮いている。
はへろし、ジッパーをけた。
からてきたのは古い登図、数枚の類、そして何にもビニール袋で包まれた械だった。
「これ……ビデオカメラですね」
2000代半に使われていた型のハンディカムだった。
本体の横には古い充器も入っている。
単なるいの映像かもしれない。処分するに確認しておいた方がいいだろうと考え、は作業が段落してから源をつないだ。
数分、さな液晶画面が淡くった。
最初に映ったのはだった。
赤や黄にづいた々。
青い空。
くに続く険しい稜線。
広告
映像の付表示は、
20091024。
は特に気にせず再を続けた。
登らしい所が映り、誰かの音が聞こえる。
ところが、途から映像が妙に定になった。
カメラが面に置かれているらしく、画面には斜めになった々と空だけが映っている。
しばらくして、若い女性の声がした。
誰かと話で話している。
は何気なく音量をげた。
次の瞬。
女性の声が突然途切れた。
「あなた……来たのね」
嬉しそうな声。
その直だった。
画面が激しく揺れた。
い衝撃音。
そして、をつんざくような女性の鳴。
カメラそのものが何かに弾かれたように回転し、界いっぱいに青空が広がった。
次の瞬には崖の岩肌。
枝。
。
再び空。
何度もを入れ替えながら、カメラはへ落ちていった。
は息を止めた。
最に瞬だけ、崖のにが映ったように見えた。
そして映像は暗転した。
のからビデオカメラが滑り落ちそうになった。
「……これ、まずいな」
すぐに警察へ連絡した。
その映像が、15止まっていた1つの事件を再びかすことになるとは、こののはまだらなかった。
事件は20091024に起きた。
所はアルプス。
葉が最も美しい期で、週末のはくの登客で賑わっていた。
午9頃。
駐へ型観バスが1台到着した。
りてきたのは、元の登会に所属する男女数だった。
広告
その集団のには、ひときわ目を引く男がいた。
坂本竜、58歳。
元で建設会社を経営する資産であり、登会の会でもある。
会員たちは彼を「社」と呼び、どこか必以に気を遣っていた。
坂本の隣には、30代半の女がいた。
伊藤桜。
坂本より20歳く若く、登会のでは彼のとしてられていた。
2の関係を好に見る者はなかったが、坂本に正面から見する者もいなかった。
「今は本当にいい気ですね」
桜が空を見げた。
坂本は嫌で彼女のを握った。
「おがれ女なんじゃないのか」
桜は笑った。
周囲には何組もの登客がいたが、坂本はの線を気にする様子もない。
それどころか、自分が桜を連れて歩いていることを誇示しているようにも見えた。
登会の幹事を務めていた鈴次郎は、しれた所から2を見ていた。
以から坂本の桜に対する執着がすぎるとじていた。
話にない。
返事が遅い。
らない男と話す。
それだけで坂本は骨に嫌になる。
だがそのの朝、2はなくとも表面は仲の良い恋に見えた。
まさか数。
くのの目ので、すべてが崩れ始めるとは誰もっていなかった。
登り始めて約130分。
は腹にある広い休憩所へ到着した。
製のベンチがいくつも置かれ、くにはを挟んで葉した肌が見える。
参加者たちは筒を取りし、持参した菓子や握り飯をべ始めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
午前0時30分の空白
1991年9月、24歳の会社員・清田け子は、深夜の藤沢駅で同僚と別れたあと、公衆電話を使った。 それが、彼女の確かな足取りとして残る最後の場面だった。 誰に電話をかけたのか。 その後、誰と会ったのか。 なぜ彼女は、自宅へ帰らなかったのか。 12日後、平塚市の歩行者用地下道で、煙を上げるドラム缶が発見される。 人通りのある場所。朝になれば誰かが通る地下道。 それなのに、犯人はなぜそこを選んだのか。 周到に準備されたように見える一方で、最後の行動だけがあまりにも不可解だった。 藤沢駅の公衆電話から、平塚の地下道まで。 消えた12日間に、いったい何が起きていたのか――。ミステリー|遺體発見1.5萬字5 55 -
完結第9話
12年目の虫かご
1990年代後半の真夏の朝、山間の小さな村で、虫かごを持った5人の子供たちが山へ向かった。 雑貨店の前でラムネを飲み、「夕方までには帰る」と笑って手を振った5人。しかし、その日を境に、彼らは二度と家へ戻らなかった。 山で迷ったのか、川へ流されたのか、それとも誰かに連れ去られたのか。村中が必死に捜索する中、誰よりも熱心に動いていたのは、消えた少年の叔父だった。 だが、1人の刑事だけは小さな違和感を捨てられずにいた。 山へ向かっていない足跡。新しく打たれたコンクリート。そこに残された、腕時計の一部らしき小さな金属片。 それでも証拠は足りず、事件は長い年月の中へ沈んでいく。 そして11年後。古い床下から見つかった5つの虫かごと、止まったままの子供用腕時計。 あの夏、子供たちは本当はどこへ向かっていたのか。 村が信じ続けた“優しい叔父”の姿が崩れた時、12年間閉ざされていた真実がようやく姿を現す。ミステリー|行方不明1.3萬字5 695 -
完結第7話
300億を捨てた相場師
1999年秋、長野県桑原市。 300億円の資産を築いた株長者・梶常明が、自宅から忽然と姿を消した。財布も通帳も印鑑も、車も携帯電話もすべて家に残されたまま。争った跡も、身代金の要求もなく、彼はまるで何も持たず夜の中へ歩いていったかのようだった。 警察は誘拐、自殺、失踪の可能性を探るが、決定的な手がかりは見つからない。ただ一つ、刑事・矢島の心に引っかかったのは、失踪直前に常明が昔暮らしていた古い県営団地を訪れていたという証言だった。 それから6年後。 定年を控えた矢島のもとに、常明の義母・千鶴から一本の電話が入る。余命を宣告された彼女は、死ぬ前にどうしても伝えたいことがあると言った。 常明には、家族にも明かさなかった過去があった。 300億円を手にした男が、なぜ何も持たずに消えたのか。 彼が最後に戻ろうとした場所はどこだったのか。 古い団地の一室に残された手紙が、6年間眠っていた失踪の理由を静かに明かしていく。ミステリー|行方不明9.8千字5 495 -
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 388 -
完結第10話
熱海失踪、2時12分のポケベル
1993年秋、就職活動に疲れた26歳の佐藤美緒は、姉夫婦に誘われて熱海温泉へ向かった。 久しぶりに笑顔を見せた美緒。温泉に浸かり、居酒屋で姉と笑い合ったその夜までは、ただの家族旅行に見えていた。 しかし翌朝、美緒の部屋は空だった。財布も身分証も荷物も残されたまま、開け放たれた窓と、消えたスリッパだけが残されていた。 警察は当初、就職活動に悩んだ末の失踪と見なした。姉の由香は必死に妹を探し続け、夫の健二もまた、誰よりも献身的に支える“理想の義兄”として周囲から信頼されていく。 だが6年後、眠っていた捜査ファイルが再び開かれる。 偽名で泊まっていた男、深夜2時12分のポケベル、そして健二が語らなかった20分間の空白。 完璧に見えた義兄の優しさは、本当に家族への愛だったのか。 熱海の夜に隠された嘘が、6年越しの再捜査で静かに崩れ始める――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 2466 -
完結第8話
10年目のボイラー室
1992年秋、長野県木曽川沿いの古い旅館に、名古屋から1人の旅行客・山田誠が訪れた。 紅葉を見て、川沿いを歩き、週明けには会社へ戻るはずだった、ごく普通の一人旅。だが翌日、山田は荷物を部屋に残したまま姿を消してしまう。 川にも山にも痕跡はなく、旅館の関係者たちの証言もどこか食い違っていた。従業員の曖昧な目撃談、正午頃に聞こえた男2人の声、そして午後4時にかかってきた正体不明の電話。 真相が分からないまま、事件は10年の沈黙に包まれる。 そして2002年、廃業した旅館の解体工事中、1階奥のボイラー室で不自然に塗り直された床が見つかる。 そこには、誰かが長い年月封じ込めてきたものが眠っていた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 397