"恩に沈む猛獣舎" 第4話
が終わろうとしていた。
失踪から3目。
宝塚警察署の角に、簡素な捜査スペースが作られた。
机を数台寄せ、ホワイトボードを置いただけのさな所だった。
ボードには郡の写真が貼られた。
10ほど、物園の周事で撮された集写真から切りしたものだった。
職員が2列に並ぶ、郡は列の端にっている。
背はくない。
痩せている。
い髪にはいものが混じっていた。
そして、カメラを見ていなかった。
しだけ顔を横へ向け、自分が写真に収まることを歓迎していないような表だった。
沖野は、その顔をく見た。
この町で2勤務していた。
パンの主も、団の老も、軽トラックの運転も、抵は顔と名が致する。
だが郡だけは、記憶になかった。
30く丘ので働いてきた男なのに。
そのの午、沖野は刑事の警部補とともに、郡が暮らしていた職員宅へ入った。
古い平だった。
元は倉庫だった建物を改装したらしく、2軒の片方だけが居として使われている。
玄関へ入った瞬、がち止まった。
「……何やこれ」
に靴が2。
サンダルと革靴。
どちらも、きれいに揃えて置かれていた。
沖野の背を、あのと同じたい覚がった。
内は8畳と6畳。
古い畳。
さな茶ぶ台。
湯呑みが1つ。
台所には炊飯器、鍋が2つ。
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蔵庫には卵、噌、半分残った豆腐。
豆腐はまだ傷んでいなかった。
「普通に飯う気やったんやな」
が言った。
6畳の部には14型のブラウン管テレビ。
その横に、さな本棚があった。
物図鑑ばかりだった。
哺乳類。
鳥類。
爬虫類。
獣医学の本もある。
どれもページの端が丸まり、何度も読み返された形跡があった。
沖野はネコ科の図鑑を1冊抜いた。
ページの余に、さな鉛きがある。
「タイガ、この骨の形と同じ」
「8、脚かばうように歩く。観察」
さく、角い字。
几帳面だった。
「通帳あったぞ」
が押入れから菓子缶をした。
には通帳、印鑑、保険証。
残は約20万円。
毎、与が同じに振り込まれ、ほとんどいていない。
数かに1度、数万円を引きすだけ。
「逃げるならろすわな」
「はい」
「通帳も印鑑も置きっぱなしや」
借なし。
族なし。
婚姻歴なし。
交友関係らしいものもない。
部には写真が1枚もなかった。
族写真。
旅写真。
誰かと緒に写った写真。
何もない。
壁には物園名入りのいカレンダー。
その。
鴨居から、細い紐でいの板が吊られていた。
さ20cmほど。
央に、漢字が1文字だけかれている。
「恩」
うまい字ではなかった。
線がし震えている。
それでも、丁寧にこうとしたことだけは分かった。
「何やこれ」
はし見ただけで、台所へ戻った。
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沖野はしばらく、その板から目をせなかった。
聞き込みでも、郡に関する話は似通っていた。
「真面目すぎるくらい真面目ですわ」
ベテラン飼育員の川端は、事務棟の裏で煙を吸いながらそう言った。
「休園も来るんです」
「休みでも?」
「裏から入って、物見て、掃除して帰るんです」
「毎週?」
「毎週。30く」
「誰かに言われて?」
「誰も言うてません。むしろ園が休め言うてたくらいです」
川端は煙を吐いた。
「あの、くとこなかったんですわ」
沖野は顔をげた。
「くとこがない?」
「いや……」
川端は急にを閉じた。
「そんなん、わしが言うこと違いますわ」
そう言ってちった。
椎名にも、改めて話を聞いた。
「あんまり喋ると違います」
事務所の休憩。
椎名は缶コーヒーを両で持ちながら言った。
「110言くらいですかね。餌の量とか、そういう話ばっかりです」
「ることは?」
「1回も見たことないです」
し考えて、椎名は付け加えた。
「でもタイガのことだけは喋るんです」
「虎の?」
「今は嫌悪いとか、このので腰痛いんちゃうかとか。そういうことなら、なんぼでも」
椎名はし笑った。
しそうな笑い方だった。
「僕が入った、1番最初に教えてもらったん、掛けのことです」
沖野のが止まった。
「猛獣舎の?」
「はい。へ入ったら必ず内側から掛けろって」
「理由は?」
「から誰かが違えて閉めるかもしれん。
誰かが違えたら、そののせいになる」
椎名は缶を机へ置いた。
「せやから、誰のせいにもせんように、自分で掛けとけって」
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