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"泥まみれの客と黒塗り5台" 第3話

まで乗せてもらえれば、もちろん運賃は払う」

黒田は顔をしかめた。

「運賃の話じゃなくてさ。クリーニング代まで払えるの?」

は言葉に詰まった。

「それは……」

「こっちも商売なんだよ」

黒田はで笑った。

「こんな稼ぎに、わざわざを汚される客を乗せてる暇ないんだわ」

げた。

「そうか。すまなかった」

その姿を見ても、黒田の表は変わらなかった。

窓を閉める直、さらに言った。

当たってよ」

次の瞬、黒田のが勢いよく発した。

タイヤが脇のきな溜まりを踏む。

ばしゃっ。

が老んだ。

顔。

胸元。

ズボン。

ただでさえだらけだった作業着が、さらに濡れた。

美咲はわず息をんだ。

黒田は窓をけ、

「ああ、悪い悪い」

と笑いながらっていった。

「どうせだらけだから同じだろ」

その声が、音のに消えていく。

は何も言わなかった。

顔についたの甲で拭い、また静かにへ向かってげた。

美咲の胸が締め付けられた。

その方で、には別の声もあった。

今は稼がなければならない。

末までにノルマを達成できなければ、自分は首になる。

あの老を乗せれば、内の掃除にがかかる。

シートを本格にクリーニングすることになれば費用も発する。

き先がければ、ほとんど売にもならない。

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美咲はアクセルからした。

ほんの数秒。

それでも、自分が迷ったことが嫌だった。

「何考えてるの、私」

さく呟く。

脇につ老は、自分が通り過ぎても何も言わないだろう。

誰にも責められない。

会社から見れば、むしろ正しい判断なのかもしれない。

それでも。

美咲はハンドルを切った。

「そんなの、嫌だ」

タクシーは老で静かに止まった。

はすぐにはかなかった。

目のに止まったタクシーを、議そうに見つめている。

美咲が自ドアをけても、まだ乗ろうとはしなかった。

窓をげる。

「お客様、どうぞ」

が目を丸くした。

「わしに言っているのかね?」

「はい」

「だが……」

だらけの自分のを見ろした。

「娘さん、わしはこの通りだ。乗ればを汚してしまう」

美咲は老元を見た。

靴からが滴っている。

確かに、そのまま乗ればシートだけでなくも汚れるだろう。

けれど、そんなことより気になったのは老の肩だった。

寒さのせいか、さく震えている。

「ちょっと待ってください」

美咲はハザードをつけると、傘をた。

横殴りの瞬で制の袖を濡らす。

のそばまでり、傘を差しかけた。

「何をしているんだ。娘さんまで濡れてしまう」

「私はすぐに戻れますから」

「だがシートが……」

美咲は笑った。

「シートなんて洗えばいいんです」

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が黙った。

「それより、こんなところにっていたら邪をひいてしまいます。く乗ってください」

「本当にいいのか?」

「もちろんです」

美咲は部座席へ置いてあったい防カバーを急いで広げた。完璧にを防げるものではなかったが、何もしないよりはいい。

「これで丈夫です」

はしばらく美咲を見ていた。

に濡れながら、それでも笑っている女性運転

自分のが汚れることより、見ずらずの老が濡れていることを気にしている。

の表し変わった。

「……ありがとう」

「いえ」

「本当にありがとう」

は何度もげ、ゆっくり部座席へ乗った。

美咲も運転席へ戻る。

の肩はすっかり濡れていた。

「寒くありませんか?」

「娘さんの方が濡れているじゃないか」

「私は丈夫です」

美咲はの温度をげた。

き先をお願いします」

が告げた所は、れだった。

像していたより距がある。

なくとも極端なではない。

だが美咲は、距を聞いてした自分がし恥ずかしくなった。

「かしこまりました」

シフトを入れようとした側からクラクションが鳴った。

見ると、黒田のタクシーが信号待ちで隣に並んでいた。

黒田は部座席の老を見るなり、窓をけた。

「うわ、本当に乗せたの?」

美咲はを向いた。

「佐藤、おすごいな」

黒田は笑っている。

「そんなだらけのじいさん乗せて、今の営業終わりじゃん」

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