みかん小説
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"泥まみれの客と黒塗り5台" 第7話

誰も助けてくれなかった。

挨拶をしていた同僚たちも、目を逸らしている。

自分の仕事を守りたいのだろう。

田所に逆らいたくないのだろう。

美咲はそれを責める気力すらなかった。

もう終わりだ。

そうった。

仕事がない。

料も減る。

娘の術費もりない。

何からて直せばいいのか分からない。

そのだった。

営業所のから、いエンジン音が聞こえた。

最初は誰も気にしなかった。

営業所には毎台もの入りする。

だが、続けて聞こえてくるエンジン音がいつものタクシーとはらかに違っていた。

受付の女性が窓のを見て声をげる。

「え……?」

社員たちが斉に振り返った。

営業所のに、黒塗りのまっている。

1台。

続いて2台目。

3台目。

さらにろから4台目、5台目。

がりの曇った空の、磨きげられた5台の黒いが営業所の直線に並んだ。

「何だあれ」

「誰か来るのか?」

黒田も窓際へ寄った。

両のドアがく。

まずスーツ姿の男性がりた。

続いて部座席のドアがく。

1の老がゆっくりと姿を現した。

濃紺の級スーツ。

磨かれた革靴。

背筋はまっすぐ伸びている。

だらけの作業着姿からは像できない姿だった。

美咲は息を止めた。

装は全く違う。

髪もえられている。

だが分かる。

「あ……」

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あの目。

あの穏やかな表

違えるはずがなかった。

「昨の……お客様」

美咲の呟きと同に、田所の顔が変わった。

「嘘だろ……」

田は子を蹴るようにがった。

その勢いのまま所し、営業所の入る。

黒田も訳が分からないままを追った。

美咲はそのに取り残された。

受付の女性が震える声で言う。

「佐藤さん……」

「はい」

「あの方、ってるんですか?」

「昨、お乗せしたお客様です」

「そうじゃなくて……」

女性は老を指した。

「うちのグループの……」

言葉を失った。

では田が老々とげていた。

「会!」

その声が営業所全体へ響いた。

美咲の体が固まった。

「会?」

周囲の社員もざわめく。

「会って……」

「まさか創業者?」

「引退したって聞いてたぞ」

は、美咲が働くタクシー会社を傘に持つ巨交通グループの創業者だった。

、数台のから事業を始め、複数の交通会社を抱えるグループへ成させた物。

は第線から退いているものの、社内でその名らない者はいなかった。

田は腰を90度くまで折っている。

「本は、どのようなご用件で……。事にご連絡いただければ、私どもがお迎えにがりましたのに」

田を瞥した。

「迎えか」

「はい」

「昨も迎えてほしかったものだな」

田の顔が引きつった。

「昨……でございますか?」

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は答えず、営業所内へ歩き始めた。

ろから数のスーツ姿の男性が続く。

社員たちはを空けた。

美咲はまだ所くにっていた。

泣いた跡が残っている。

はその姿を見つけると、を止めた。

「娘さん」

と同じ声だった。

美咲は慌ててげた。

「昨はご乗いただき、ありがとうございました」

し笑った。

「礼を言うのはこちらだよ」

田がそうにを挟む。

「会、佐藤とおいなのですか?」

の表から笑みが消えた。

「昨った」

「昨……」

「台でな」

黒田の顔が気に張る。

はそれを見逃さなかった。

「昨の夜、わしはこのくにある関連施設の現を見ていた」

営業所は静まり返った。

「急な台で迎えのと連絡がうまく取れなくなり、作業着のままた。元で転んで、だらけになってしまってな」

美咲は初めて事った。

は続ける。

「タクシーを拾えばいいとった」

を置く。

「だが、何台来ても止まらなかった」

誰も声をせない。

「わしがげても、皆わしの姿を見るとった」

線が黒田へ向いた。

には窓をけて、わしを笑った運転もいた」

黒田の喉がく。

「あの……会

「さらに、わざと溜まりをってを浴びせた」

「違うんです!」

黒田が慌てて声をげた。

「私は会だとはらなくて……」

の眉がいた。

「わしが会だとっていれば止まったのか?」

「それは、もちろん……」

言った瞬、黒田自が失言に気づいた。

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