"泥まみれの客と黒塗り5台" 第8話
老の声がくなる。
「では、会でなければを浴びせてもいいのか?」
「いえ……」
「持ちでなければ客ではないのか?」
「そんなつもりでは……」
「では、どういうつもりだった?」
黒田は答えられない。
老は黒田から線をした。
「昨、わしのを何台ものタクシーが通った」
そして営業所にいる全員を見回した。
「だが、止まってくれたのは1台だけだった」
老はゆっくり美咲のまで歩いてきた。
周囲の線が斉に集まる。
美咲は緊張して背筋を伸ばした。
「佐藤美咲さん」
「はい」
次の瞬、老がくをげた。
美咲は驚いて歩がった。
「会、やめてください!」
「昨は本当にありがとう」
「私は何も……」
「君はだらけのわしを見ても、嫌な顔をしなかった」
老は顔をげた。
「を止め、のへてきて、傘を差してくれた」
美咲の目が潤む。
「シートが汚れると言ったら、君は何と言った?」
美咲は答えられなかった。
老が微笑む。
「シートなんて洗えばいいんです、と言った」
営業所にいる何かが俯いた。
「寒さに震えていたわしに、を入れてくれた。自分のために用していた温かいタオルまで渡してくれた」
老は度言葉を切る。
「そして、缶コーヒーをくれた」
美咲は唇を噛んだ。
「したものじゃありません」
「そうだ」
老は頷いた。
「値段だけならしたものではない」
静かな声が営業所に響く。
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「だが、あの1本はでは買えないものだった」
誰もかなかった。
「君がくれたコーヒーは、世界で1番温かかった」
美咲の目から涙がこぼれた。
老は社員たちへ向き直った。
「わしはい、この業界できてきた」
その表には、昨内で見せた穏やかさとは違う厳しさがあった。
「も稼いだ。会社もきくした。位も得た」
ひとりの顔を見る。
「だが、の価値はや肩では決まらん」
黒田は目を伏せている。
田も何も言えない。
「の本当の姿は、目のに困っている者が現れたにる」
老は美咲を示した。
「助けても得にならない。誰も見ていない。むしろ自分が損をするかもしれない」
声がしくなる。
「それでもを差し伸べられるか」
美咲は涙を拭うことも忘れて聞いていた。
「今は何でも数字だ。効率だ。利益だ。数字を追うこと自体が悪いと言うつもりはない」
老は田を見る。
「会社を守るには必だ」
田がさく頷く。
「だが、数字だけを追って、を忘れた会社に未来はない」
老の言葉がく落ちた。
「タクシーは何を運ぶ仕事だ?」
誰も答えない。
「か?」
老が尋ねる。
「売か?」
沈黙。
「違う」
自分で答えた。
「を運ぶ仕事だ」
美咲は目を見いた。
「疲れた。急いでいる。病院へく。へ帰りたい。のでち尽くしている」
老の声がし震えた。
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「そのたちを、全に目へ送り届ける。それが仕事だ」
そして田を見据える。
「わしがこの会社を始めた、最初に運転へ言った言葉をっているか」
田はをけなかった。
「どんな客でも、乗った瞬から切なお客様だ」
老は静かに言った。
「装で選ぶな。距で選ぶな。財布のさで選ぶな」
黒田の顔が青くなる。
「それを忘れたのか」
田がくをげる。
「申し訳ございません」
「わしに謝ってどうする」
老の線が美咲へ向く。
「謝る相が違うだろう」
田はけなかった。
老は眉をひそめる。
「先ほど、この娘さんを首にすると言っていたな」
美咲が驚いて顔をげた。
老は来たばかりなのに、なぜっているのか。
ろにいたスーツ姿の男性がさなファイルを持っていた。
どうやら到着に事を確認したらしい。
田は狼狽した。
「いえ、それは……」
「だらけの客を乗せたからか?」
「それだけではございません。営業成績なども総に……」
「そしてが汚れた」
「はい」
「そのを見せてもらった」
老の言葉に、黒田がびくりとした。
「汚れ方が自然だそうだな」
美咲も息をんだ。
同していた男性が歩へる。
「載記録と営業所の防犯映像を確認しています」
黒田の顔が張った。
こので詳しい結果までは語られなかった。
しかし、昨の帰庫から今朝まで、両の周辺に誰がいたのかを確認できると聞いた瞬、黒田の額には汗が滲んだ。
老は黒田を見つめる。
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