"泥まみれの客と黒塗り5台" 第9話
「何か当たりがあるか?」
「ありません」
声が震えている。
老はそれ以追及しなかった。
「なら、で正式に確認すればいい」
そして田へ向き直った。
「それより先に聞きたい」
「はい」
「困っている客を助けた従業員を罰するのが、この営業所の方針なのか?」
田は何も言えない。
「答えろ」
「……違います」
「なら、なぜこうなった?」
田の顔から血の気が引いていった。
営業所には、逃げのないような沈黙が広がっていた。
田所は何度もをげた。
「私の判断が違っておりました」
「判断だけか?」
老は厳しい声で尋ねた。
「営業成績ばかりを見て、従業員に過度な競争をさせた結果が昨のことではないのか」
田は返事ができない。
「客を奪いい、になる客だけを選ぶ。それで売が伸びれば優秀だと褒める」
老の目が黒田へ向く。
「そういう職を作った責任は、管理する者にもある」
田はく俯いた。
黒田は壁際でさくなっている。
老はしばらく2を見つめた、静かに言った。
「田」
「はい」
「おにこの営業所を任せ続けることはできん」
田の顔ががる。
「会……」
「本付で所職を解く」
「お待ちください!」
田が慌ててへた。
「必ず改善いたします。もう度だけ会を……」
その言葉を聞いた美咲の胸が痛んだ。
ほんの数分、自分も全く同じように懇願した。
だが田は、
広告
「庭事など会社には関係ない」
と切り捨てた。
老もそのことをっていたのだろう。
「会か」
田が必に頷く。
「はい」
「先ほど佐藤さんが同じことを頼んだ、おはどう答えた?」
田のが閉じた。
「わしは復讐をしたいわけではない」
老は続けた。
「だが、自分がに向けた言葉のさはるべきだ」
田は力なく項垂れた。
次に老は黒田を見る。
「黒田君」
名を呼ばれただけで、黒田の肩がねた。
「昨の件だけではない。普段から客を見た目や距で選んでいたという報告がある」
「それは売をげるためで……」
「売がければ何をしてもいいのか?」
「いえ」
「同僚を嘲笑し、庭事まで持ちして侮辱することも仕事か?」
黒田は何も言えなかった。
「なくとも、今のままを乗せる仕事を続けさせるわけにはいかん」
老は言った。
「処分については正式な調査をう。その、乗務かられてもらう」
黒田の膝から力が抜けた。
そのにへたり込みそうになる。
「会、お願いします」
今度は黒田が懇願した。
「私は……まさか会だとはわなかったんです」
老の表が変わった。
「まだ分からんのか」
黒田が黙る。
「問題は、わしが会だったことではない」
老は歩づいた。
「昨、わしが本当に寄りのない老だったとしても、おのは同じように違っていた」
広告
黒田の顔が歪む。
「の肩をってから態度を変える。それでは何も学んでいない」
老は静かに続けた。
「今というを、自分がどんなだったのか考える会にしなさい」
黒田は俯いたままかなかった。
連の話を聞いていた社員たちも、それぞれ気まずそうな顔をしていた。
老は彼らにも目を向けた。
「君たちにも言っておきたい」
何かが背筋を伸ばす。
「昨、佐藤さんがこので侮辱されていた、誰も止めなかったそうだな」
社員たちの顔が曇る。
「責めるつもりはない。もある。怖かった者もいるだろう」
老はし声をらげた。
「だが次に同じことが起きた、今をいしてほしい」
美咲はその言葉を聞きながら涙を拭った。
自分はただ、老を乗せただけだった。
寒そうだったからコーヒーを渡した。
それだけのことが、こんなきな話になるとはってもいなかった。
老が美咲へ歩み寄る。
「佐藤さん」
「はい」
「君の解雇は当然撤回だ」
美咲は驚いた。
「でも、私はノルマも……」
「それについても見直す」
老ははっきり言った。
「売は必だ。しかし、売以の仕事まで無価値にしてはいけない」
美咲はくをげた。
「ありがとうございます」
だが次の瞬、老が言った。
「それだけではない」
美咲が顔をげる。
「昨、ので話してくれたな」
嫌な予ではなかった。
けれど、美咲の胸がきく鳴った。
「娘さんのことだ」
老に結のことを言われた瞬、美咲の目から再び涙が溢れた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 3 -
完結第13話
16回の拒否
62歳の黒田正は、退職後に始めた一眼レフを手に、地域のハイキングサークルへ参加していた。 「嫌がる人ほど、綺麗に撮ってあげたいんですよ」 そう笑う黒田は、自分の写真が人を喜ばせるものだと信じていた。けれど参加者の高橋みさ子は、何度もはっきり伝えていた。 「SNSには載せないでください」 名前を出さなければいい。綺麗に撮れていれば問題ない。サークル内だけなら大丈夫――黒田はそう考え、みさ子の拒否を自分に都合よく解釈し続ける。 やがて、本人の知らないうちに撮られた写真はSNSへ投稿され、サークルの外にまで広がっていく。 削除しても、もう消えなかったもの。 そして次の集合場所で、みさ子は静かに告げた。 「私は、同じことを16回言いました」 写真の出来ではない。善意かどうかでもない。 「やめてください」という一言を、本当に聞けなかった男が失ったものとは――。人生逆転|修羅場2.0萬字5 61 -
完結第14話
元嫁の15枚返し
離婚から3日後の午前5時。佐藤恵子の携帯に、元姑から突然電話がかかってきた。 「今すぐ来て、法事の料理を用意しなさい」 12年間、家事も介護も金銭の穴埋めもすべて背負ってきた恵子。だが夫は秘書と関係を持ち、姑と義妹は彼女を使用人のように扱い、最後には荷物同然に家から追い出した。 それでも彼女たちは、恵子がいなくなって初めて、自分たちの生活が何によって支えられていたのかを知ることになる。 恵子名義の15枚のカード。 義父が病室で密かに残した遺言。 そして、10億円のペントハウスの本当の所有者。 元嫁を見下していた家族が、最も頼り切っていたものを一つずつ失っていく中、恵子は静かに告げる。 「あなた方は、もう私とは何の関係もない人たちです」 これは、“良い嫁”でいることをやめた女性が、自分の名前で人生を取り戻すまでの物語。因果応報|嫁姑|絶縁2.0萬字5 12411 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 737 -
完結第8話
白タク墓参り
夫の命日、私は嫁と孫を連れて墓参りへ向かった。 帰り道、見知らぬ白いタクシーの運転手は、嫁と孫を墓地に残したまま、私だけを乗せて急発進する。 「お客さん、気づいてないの?」 そう言った運転手は、嫁が私の命を狙っていると告げた。けれど、話を聞くうちに私は小さな違和感を覚える。 なぜこの男は、孫の名前を知っているのか。 なぜ嫁の悪口を言いながら、何度も家の名義や権利書の話へ戻るのか。 逃げ場のない車内で、私は亡き夫の言葉を思い出す。 「困った時ほど慌てるな」 鞄の底に入れた携帯電話、孫が書き写した車の番号、そして嫁だけが気づいた不自然な話し方。 離れ離れになった家族が残した小さな手がかりが、やがて1本につながっていく――。因果応報|夫婦|修羅場1.2萬字5 965 -
完結第13話
消えた御曹司と500万の罠
高卒で、施設育ちで、ただの運転手。 橋本悠人は、恋人からそう見下され、父親になる資格さえ否定された。自分の過去も家族も分からない彼に残っていたのは、ただ真面目に働くことだけだった。 そんなある日、財閥会長・田中健造の専属運転手を任された悠人は、車内でかかってきた海外からの緊急電話に、とっさにスペイン語で応対してしまう。 習った覚えのない言葉。 なぜか知っていた金庫の暗証番号。 初対面のはずなのに、彼を見て泣き崩れた会長夫人。 20年前に失われた会長の息子と、記憶を失った運転手。 偶然にしては重なりすぎる謎の先で、悠人は自分が本当は誰なのかを知っていく。 しかし、その真実を誰よりも恐れる人物が、彼を静かに消そうとしていた――。人生逆転|第二の人生1.9萬字5 289 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 2313 -
完結第9話
喪服の離婚届
父の三回忌法要へ行きたい。 ただそれだけの願いを、姑は「嫁なら婚家を優先しなさい」と切り捨て、夫・誠治は離婚届を投げつけて脅した。 「一歩でも外に出てみろ。その時は終わりだ」 10年間、夫と姑の顔色をうかがい、実家とのつながりさえ遠ざけられてきた由佳。けれど、亡き父を侮辱されたその瞬間、彼女の中で何かが静かに切れた。 由佳は黙って離婚届にサインし、そのまま家を出る。 夫はまだ知らなかった。 自分が見下してきた妻の実家が、実は彼の勤める会社と深く関わっていたことを。そして、隠してきた不正の証拠が、すでに集められていたことを。 翌朝、誠治がいつものように会社のゲートへ社員証をかざした時、扉は開かなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 968 -
完結第9話
喪服の隠し子
病弱だった妹・ユキが、結婚からわずか2年で突然この世を去った。 最愛の妹を見送る葬儀の最中、姉のサチは偶然、妹の夫・タクが誰かに電話している声を聞いてしまう。 「子供は大丈夫だ。バレてない」 ユキとタクの間に子供はいない。けれど亡くなる直前、ユキは確かにサチへ何かを伝えようとしていた。 「実家……子供がいる……」 妹が最後に残した謎の言葉。葬儀中に聞いた夫の不審な電話。そして、誰もいないはずの義実家にいた若い女性と幼い子供。 全てがつながった時、サチは初めて知る。 妹はただ病に倒れたのではない。夫とその家族に、何年も残酷な秘密を隠され続けていたのだ。 妹が最後まで伝えようとした真実を暴くため、サチは静かに動き出す。因果応報|人生逆転1.3萬字5 3515