"消えた女将と800万の通帳" 第3話
10に1度。
週に1度。
やがてもっと頻繁になった。
武夫はの忙しいを狙うようになった。
客がいれば義子がく止められないことをっていた。
「今はあかん」
義子が声で言ったことがある。
「仕入れの支払いあるねん」
「俺は飯うな言うんか?」
「そんなこと言ってへん」
「夫婦の財産やろ」
武夫の声がきくなる。
「なんでおで握っとんねん」
客が振り返る。
その瞬、義子はそれ以言えなくなった。
の雰囲気が壊れる。
客が居悪くなる。
それだけは避けたかった。
常連のが帰り際に声で言った。
「女将さん、旦さん、ちょっと止めた方がええんちゃう?」
義子は笑った。
「昔からあんなやから」
「でも……」
「丈夫、丈夫」
丈夫ではなかった。
武夫が持っていくはに数万円になり、いには100万円くに達した。
義子が110以ち続けて稼いだだった。
そのが、焼酎、居酒、付きいという名目で消えていく。
義子は対策を始めた。
の売を2つの座へ分ける。
武夫がっている座には活費程度しか入れない。
残りは別の座へ移す。
その通帳はには置かなかった。
もし見つかれば何をされるか分からない。
夫に隠れてを貯めることに、義子は罪悪を覚えた。
だが、それ以に恐ろしかったのは、何も残らなくなることだった。
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「私が働かれへんようになったら、どうするんやろ」
閉。
でレジを締めながら、そんなことを考える夜が増えた。
52歳。
夜までち続ける活を、あと何続けられるか分からない。
夫は働かない。
老の蓄えもない。
自分が倒れれば、すべてが終わる。
そんな義子が本音を話せる相は、だけだった。
3000円酒のすぐ隣のに、24営業の定があった。
を切り盛りしていたのは佐藤美子、54歳。
義子がうどんを始めた頃から12以、隣同士で商売してきた。
美子は夫がおらず、でを守っていた。
義子は夫がいても、でを守っていた。
境遇は違うようで、似ていた。
夜。
3000円酒を閉めた、義子が定へ寄る。
美子は何も聞かず、コーヒーをした。
「また来よった」
義子がカップにを添えながら言った。
「誰が?」
「武夫」
美子はすぐ察した。
「また?」
「今度は30万」
「30万?」
「酒ばっかりんで遊んどるくせに、だけ寄こせ言いよる」
義子は疲れたように笑った。
「腰痛い言うて、なんでみにはけるんやろな。働かれへんのか、働く気ないんか、もう分からへんわ」
美子は黙って聞いた。
「婚は考えへんの?」
義子は首を横に振った。
「希がな……」
娘の川希。
27歳。
阪の保険会社で営業職として働いて3目だった。
「希が結婚するに、父親おらん子みたいにしたくないねん」
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「もう27やで」
「分かってる。でもな……」
義子はし考えて続けた。
「このまま歳取ったら、武夫も落ち着くんちゃうかなって。まだどっかでってるだけ」
美子はそれ以言わなかった。
代わりにしいコーヒーを淹れた。
娘の希もまた、別の所で苦しんでいた。
保険の営業は簡単な仕事ではなかった。
を訪ねる。
会社を回る。
断られる。
また別のへをげる。
若い友に額な総保険を勧めても、そう簡単には契約にならない。
医療保険や自保険のさな契約は取れても、会社から求められる成績には届かなかった。
ある夜。
義子がの仕込みを始める、希から話があった。
「お母さん、今もあかんかった」
「何が?」
「ノルマ」
声に力がなかった。
「もう、この仕事向いてへんのかな」
義子はし考えた。
「ほな、お母さんとお父さん、保険入ろか?」
話の向こうが静かになった。
「え?」
「うちら、まともな保険1つもないし」
「そんな、私の成績のために入らんでええよ」
「成績のためだけちゃうやん。齢考えたら、そろそろ入っといた方がええやろ」
希は何度も断った。
だが義子は押し切った。
。
義子と武夫は揃って総保険へ加入した。
保険はそれぞれ2000万円。
受益者は夫婦で互いを指定した。
武夫がしたは義子。
義子がしたは武夫。
夫婦2件の総保険契約は、希にとってきな成績になった。
契約を終えた帰り。
希はで泣いた。
嬉しかったのか。
申し訳なかったのか。
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