"嘘を握った右手" 第4話
美紀は泣けなかった。
数秒、をけたまま息を吸おうとしていた。
やがて押し殺していた呼吸が気に漏れた。
「どうして……」
誰も答えない。
「どうして兄が、あんな所にいるんですか」
同じの午。
司法解剖が始まった。
法医学者の田は、傷の状態から単純な喧嘩や偶発事故ではないと判断した。
部と顔には複数回の打撃。
骨や頬骨にも損傷がある。
両の指にも複数の骨折があり、防御の際についたとわれる傷が残っていた。
さらに胸腹部には刃物による複数の傷。
首には紐状のものによるい圧迫痕。
「最初の攻撃でくなったわけではありません」
解剖の。
田は記録を見ながら鈴へ説した。
「やへの攻撃のも、かなりの、きていた能性があります」
「最は?」
「頸部圧迫がきい。ただし、それだけでもない」
肺からは、と微細な植物片が確認された。
「呼吸している状態で、埃や植物片のい所にいた能性があります」
「遺体発見現で?」
田は首を横に振った。
「集積だけでは説しにくい量です」
つまり、殺害所は別にある。
遺体はから運ばれた。
鑑識結果も同じ結論へ向かっていた。
健のには、集積の黒いとは違うるい茶の。
腰部分から微細な鉄。
襟元から青緑の古い塗料片。
宿舎には同じ塗料がない。
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鈴はすぐ指示をした。
「周辺の倉庫を全部確認しろ」
最優先は、本老が話した廃墟の乾燥倉庫だった。
午410分。
捜査員たちは沢の流にある建物へ到着した。
コンクリート基礎。
材とい鉄板。
錆びた壁。
板で塞がれた窓。
正面扉には京錠がかかっていた。
しかし京錠だけが妙にしい。
周囲は赤錆だらけなのに、錠はで、染みもほとんどない。
「最替えられていますね」
渡辺が言った。
所名義を確認する。
佐藤えり子の夫。
昔はわさびや薬の乾燥施設として使っていたが、4ほどから放置されていることになっていた。
捜索令状を取り、錠を切断した。
扉をける。
湿った。
古い薬。
そして洗剤のような匂い。
には埃が積もっている。
ところが央だけ、方形にが違った。
板が濡れ、部はい洗剤で何度も擦ったようにく変している。
壁際。
古い鉄製の子が倒れていた。
脚2本が側へ曲がっている。
肘掛けには、黒い紐をく巻いたような跡。
にはい引っかき傷。
誰かが座った状態の子を、何度もかしたように見えた。
鑑識員が薬剤を噴し、照を落とした。
に青い反応が現れた。
最初は点だった。
次第に広がる。
子の周囲。
壁の。
入。
誰かがと洗剤で消したもの。
完全には消えていなかった。
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「……ここだな」
渡辺がさく言った。
鈴は返事をしなかった。
倉庫の奥の焼却炉からは、燃え残ったロープと黒い布。
鉄製の子の塗料は、健のに付着していた青緑の破片と致した。
からは、の爪とわれるさな組織片も見つかった。
健が襲われた所。
それはほぼ確定した。
しかし奇妙なことが残っていた。
宿舎で見つかった割れたコップ。
卓の傷。
あれは、この倉庫での暴とは関係がない。
つまり、健が姿を消した。
誰かが宿舎へ戻った能性がある。
その夜。
鈴はもう度、健の部を調べた。
カレンダー。
引きし。
帳。
タンス。
タンスをずらした、壁との隙からさな擦れる音がした。
ライトを向ける。
背面板の1枚だけがしい。
釘を抜く。
にさな空洞があった。
透なビニール袋。
古い2つ折り携帯話。
バッテリーのにはSIMカード。
さらに折り畳まれた。
2つの番号。
その番。
くきつけられた文字。
『えり子が、また嘘をついた』
鈴はい、その文を見つめた。
事件のにいたのは、健を憎む物ではないのかもしれない。
隠された話。
夜の約束。
そして「また」という言葉。
これは、く続いていた関係の終わりに起きた事件だった。
1015午840分。
嶺警察署の捜査係には、めたコーヒーとに濡れたの匂いが残っていた。
鈴の机には、健の秘密の携帯話が置かれている。
族さえらなかった番号。
農業用でも仕事用でもない。
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