みかん小説
本棚

"吹雪の一杯" 第5話

トーマスは、それがとても嬉しいことのように笑った。

夜がくなるにつれ、富美子もしずつ自分のことを話した。夫がくなったこと。客が減ったこと。1500万円の借があり、返済期限までしかないこと。発会社から旅館を売るよう迫られていること。

そんな話を見らぬにするつもりはなかった。

けれど、吹から連れ帰ったばかりの男には、なぜか言えてしまった。

「売る?」

トーマスが尋ねる。

「みんなには、そうしろって言われてます」

「あなたは?」

富美子は囲炉裏のを見た。

「分かりません」

守りたい。

でも、守れるかどうかは別だ。

それを認めるのが怖かった。

「それでも」

トーマスが言った。

「あなた、今をつけてた」

「寒いからですよ」

「お客さん、いなかった?」

「あなたが来るまでは」

トーマスは囲炉裏を見つめた。

「僕が来るの、らなかったでしょう?」

「当たりです」

「でもがあった」

炭がぱちりと鳴った。

が崩れ、その奥から赤いが覗く。

「僕には、それがすごいです」

富美子は何も言えなかった。

しばらくして、トーマスは毛布にくるまったまま眠った。

救急隊が到着したのは午11を過ぎてからだった。診察の結果、い凍傷や識障害はなく、搬送が絶対に必な状態ではないという。トーマス本も宿に残ることを希望したため、その夜は客ではなく、かい囲炉裏のくで休ませることになった。

広告

片付けが終わった頃、真帆がさな黒い械を持ってきた。

「これ、トーマスさんのポケットから落ちたみたいです」

型のアクションカメラだった。

源、まだ入ってました」

「壊れてない?」

「たぶん丈夫です。勝を見るのはよくないので、返しましょう」

そう言って源を切ろうとした、画面に静止した映像が瞬映った。

真帆のが止まった。

「……女将さん」

「何?」

「これ」

画面には、が映っていた。

その奥。

入禁止になっている旧林から、台のい作業てきている。

側面に青いをかたどったロゴ。

富美子は息を呑んだ。

辰リゾート発。

刻は、トーマスが倒れているのを見つける20分ほどだった。

翌朝、トーマスに事を説し、でカメラの映像を確認した。

817分。

映像ののトーマスは、を歩いている。いが、この点ではまだ方が見えていた。

旧林のゲート。

本来なら季閉鎖されているだ。

そこから、い作業がゆっくりてくる。

体側面には、確かに辰リゾート発のロゴがあった。

ナンバープレートまではで読み取れない。運転席の物も、フロントガラスへの反射で顔は見えなかった。

「このは今、事してるんですか?」

トーマスが尋ねた。

「してません」

富美子は答えた。

辰リゾートの計画は、まだ取得の初期段階だとから説されている。

広告

測量も質調査も、正式には始まっていない。

それなのに。

夜8を過ぎ。

会社のが閉鎖林へ入っていた。

映像はさらに続いた。

作業がトーマスの横を通り過ぎる瞬、助席側の窓がいた。

誰かがこちらを見ている。

ほんの秒。

そのあとは止まらずった。

「追いかけられたりしました?」

真帆が尋ねる。

トーマスは首を振った。

「No。はそのままきました」

そこから20分ほど候が急変した。

トーマスはスマートフォンの図を確認しながら宿を探していたが、吹で方向を失い、杉林のけなくなったらしい。

「じゃあ、と遭難は直接関係ないですね」

富美子は言った。

何でも事件に結びつけて考えたくはなかった。

真帆も頷いた。

「ただ、あの会社が閉鎖林に入っていた事実は残ります」

トーマスは映像データを真帆へ渡した。

そのあと朝を終えると、昼頃には通する見込みとなった。

「帰るに、し撮ってもいいですか?」

トーマスがさなカメラを見せた。

「何を?」

「ここを」

「顔はあんまり映さないでくださいね」

「約束します」

は驚くほど静かだった。

囲炉裏に炭を入れる富美子の

噌を溶くところ。

を払う箒。

使われて黒りした廊

玄関脇に積まれた薪。

そして、最つだけ尋ねた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: