"吹雪の一杯" 第7話
囲炉裏。
富美子の。
噌汁。
トーマスの声が流れる。
『私は世界で、名な料理をべてきた』
『でも、凍えた夜にらない女性から渡された杯の噌汁ほど、忘れられないものはない』
画面には。
富美子の顔より。
噌を溶く。
薪を入れる。
古い廊。
そういうものばかり映っていた。
『この宿には、しいものがほとんどない』
富美子はしむっとした。
ところが。
そのあと。
『だからこそ、私が自分ので失くしかけていたものが、まだ残っていた』
映像の最。
囲炉裏の。
『彼女は、誰も来ないにもをつける』
『理由を聞くと、「誰かが来た、寒くない方がいいから」と答えた』
『私は世界を旅してきたが、これほどい言葉で“hospitality”を説されたことはなかった』
富美子は画面を閉じた。
「げさねえ」
そう言った。
だが。
再回数を見た真帆が。
「もう510万回です」
と答えた。
「ごひゃく……?」
「まだ公してですよ」
富美子には、数字がきすぎて実がなかった。
ただ。
話は鳴り止まない。
英語。
国語。
フランス語。
スペイン語らしい言葉。
トーマスは、200万を超える登録者を持つ旅と文化の映像作だった。
「どうして言わなかったのよ」
から話で責めると、トーマスは笑った。
「言ったら、僕に普通の噌汁した?」
富美子はし考えた。
「……し具を増やしたかも」
で笑った。
突然の反響は。
広告
富美子にとって、単純に嬉しいだけのものではなかった。
で100件を超える問いわせ。
全部受け入れることなどできない。
真帆は予約を理し。
「何組なら無理なくできます?」
と聞いた。
「組」
「8あるのに?」
「組」
富美子は変えなかった。
「急に全部埋めたら、料理を減らすか、誰かに全部任せるしかなくなる。それじゃ、画にてた宿じゃなくなるでしょう」
真帆はし笑った。
「じゃあ組にしましょう」
週。
最初の客が来た。
台湾からの50代夫婦。
夕で噌汁をんだ妻が、突然涙を流した。
翻訳アプリには。
《は違うけれど、くなった祖母のスープをいしました》
と表示された。
富美子は。
しばらく何も言えなかった。
やがて。
「おかわり、ありますよ」
とだけ答えた。
その夜。
帳に戻ると。
パソコンに評価のコミが件増えていた。
《》
《女将が国を差別した》
《料理で体調を崩した》
どれも。
宿泊記録のないだった。
悪いコミは、そのも増えた。
で17件。
議なことに、文章の癖がどれもよく似ていた。作られたばかりのアカウントもく、実際に宿泊したの投稿とはえない。
さらに。
夜10過ぎ。
非通の話が入った。
「もしもし」
しばらく無言。
やがて。
い男の声。
「今なら、まだ売れますよ」
「どなた?」
「売れなくなってから悔しても遅い」
広告
それだけ言って切れた。
富美子は受話器を持ったまま、しばらくけなかった。
ようやく客が戻り始めた。
その期と。
嫌がらせが始まった期が。
あまりにもなっている。
翌朝。
真帆と緒に、隆の古い類を調べ始めた。
目はつ。
の付の同に使われた印の所。
そして。
辰リゾートが何を欲しがっているのか。
押し入れからてきたのは、固定資産税の通、古い事請求、保険契約、源泉組の議事録。ほど経った頃、真帆が借入の類をに取った。
「女将さん。1500万円の事って、具体にどれです?」
「根と、温泉配管と、ボイラー。あとは厨もし」
請求を並べる。
真帆が卓を叩いた。
「全部しても、918万円です」
「残りは運転資じゃない?」
「そのはずなんですが」
通帳を見る。
借入が入ったヶ。
600万円。
別座へ振り込まれている。
《ノ内共同源泉管理会》
富美子には、まったく記憶がなかった。
「何これ……」
共同源泉管理会は、域の旅館や民が持つ温泉利用権を管理する古い組織だった。灯里館も会員ではあるが、600万円もの支払いをした覚えはない。
元の元旅館主へ話した。
返ってきた答えは。
富美子が度も聞いたことのない話だった。
「隆さん、持分を買い戻したんだよ」
「何の?」
「共同源泉の利用権だ。昔、部がへたんだ」
30ほど。
域が景気だった頃。
いくつかのが。
温泉利用権の持分を部企業へ売った。
その、会社は何度か変わり。
数。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
15年無給で働いた若女将を追い出した老舗旅館の末路
老舗温泉旅館「鶴の湯」に嫁いで15年。若女将の美里は一度も給料を受け取らず、料理から接客まで休む間もなく働いてきた。ところがある日、義母と夫はSNSで人気を集める若い女性を新しい若女将に迎え、美里を「時代遅れ」と追い出してしまう。長年守ってきた味も、常連客との約束も、彼らには何の価値もなかった。しかし、美里が去った翌朝から、旅館では思わぬ問題が次々と起こり始める。15年間、あの宿を本当に支えていたのは誰だったのか。職場逆転|人生逆転|嫁姑|第二の人生2.2万字5 336 -
完結第15話
正月、娘を家政婦扱いした義実家――私が下した決断
43歳のゆり子は、13歳の娘・美咲を連れて再婚した。しかし、結婚前は優しかった夫の賢二は、家事を押しつけ、娘の食事まで平気で奪うようになる。 迎えた初めての正月。夫の実家へ帰省した母娘を待っていたのは、休む間もない家事と姑からの冷たい仕打ちだった。さらに元旦、親戚の子どもたちがお年玉をもらう中、美咲だけが「他人だから」と仲間外れにされてしまう。人生逆転|嫁姑|夫婦|第二の人生|絶縁|親子関係1.9万字5 676 -
完結第15話
義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫
医療機器メーカーで働く結衣は、結婚以来、夫の翔太と義母の幸子に頼まれるまま、家電の買い替えや旅行代を負担してきた。月7万円の仕送りも、半分出すと約束した夫は一円も払わない。それでも家庭を壊したくない一心で我慢していたが、義母はついに結衣の勤務先へ送金を催促する電話をかけてくる。さらに夫は、義母が希望する高級老人ホームの入居金120万円まで、結衣に無断で支払う約束をしていた。夫のスマホに届いた一通のLINEをきっかけに、結衣は自分の人生を取り戻す決意をする。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|介護|金銭問題2.7万字5 1567 -
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1523 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 328 -
完結第15話
二十通の辞表
祖父の跡を継ぎ、老舗料亭「綾瀬楼」の若女将となった28歳の蒼井。しかし総料理長の黒岩は、彼女を「高卒の小娘」と見下し、仕入れや経営への口出しを一切認めなかった。さらに創業100周年の記念宴会を翌日に控え、板前20人を引き連れて退職届を突きつけてくる。150人の客を迎える大切な宴席を前に、料理人が一斉に去るという絶体絶命の危機。ところが、土下座を迫られた蒼井は慌てるどころか、静かに微笑んだ。祖父が彼女を後継者に選んだ、本当の理由とは。職場逆転|因果応報|人生逆転|金銭問題2.2万字5 2880 -
完結第15話
高齢女性を後回しにした受付――絵を替える女性の正体
町の内科クリニックに長年通う68歳の静子は、知人の山田さんが何度も診察の順番を飛ばされていることに気づく。受付の沼田は、特定の患者ばかりを優先し、理由を尋ねる山田さんには冷たい態度を取っていた。やがて山田さんは、受診することさえ怖くなってしまう。心配した静子が付き添った日、山田さんの顔色が急に悪くなるが、受付は取り合おうとしない。そんなとき、待合室で絵を掛け替えていた一人の女性が口を開く。その何気ない一言から、長年見過ごされてきた受付の問題が明らかになり始める。人生逆転|介護|金銭問題1.4万字5 300 -
完結第15話
看護師を捨てた元彼、10年後に妹の名刺を踏みつけた
看護師のヒナは、起業を夢見る恋人・大志を支えるため、夜勤を増やして生活費を払い、家事も一人で引き受けていた。ところが大志は事業に成功すると、社長令嬢との婚約を決め、ヒナを一方的に捨ててしまう。それから10年。偶然再会した大志は、独身のヒナを見下し、看護師の仕事まで大声で馬鹿にし始めた。そこへ現れた妹の桃が、冷静に言い返す。しかし大志は、桃が差し出した名刺を床に落とし、靴で踏みつけてしまう。その名刺が何を意味するのか、知りもしないまま……。因果応報|兄弟姉妹|夫婦|絶縁|金銭問題|不倫1.6万字5 481