"真っ暗な部屋の退学届" 第6話
茶く古びた封筒。
そこには。
織の字で。
こうかれていた。
〈美緒が18歳になったら渡してください〉
俺は息を止めた。
「これ……どこにあった?」
美緒は涙の残る顔で封筒を見た。
「お母さんの荷物の」
「読んだのか?」
首を横に振った。
「怖くて、読めなかった」
差は。
姉だった。
そして宛名は。
美緒だけではなかった。
そのにさく。
もうの名がいてあった。
〈孝太郎へ〉
封筒はすぐにはけなかった。
美緒が落ち着くまで、俺たちはリビングへ移した。買ってきたケーキの箱は玄関に置きっぱなしで、チョコレートの飾りがし崩れていた。
「お茶、むか」
「うん」
俺が淹れたのは、織がよくんでいたいほうじ茶だった。
テーブルのに封筒を置く。
美緒は何度も見た。
「ける?」
俺が聞くと。
しばらく考えてから頷いた。
には通のが入っていた。
通は美緒へ。
もう通は俺へ。
まず。
美緒が自分宛ての封筒をいた。
便箋2枚。
織の丸い字だった。
読み始めてすぐ、美緒の目からまた涙が落ちた。
俺は横から覗かなかった。
数分。
美緒が便箋を俺へ差しした。
「読んでいいのか?」
「うん」
そこには。
織らしい文章が並んでいた。
〈美緒へ。
このを読んでいるってことは、たぶん私は面と向かって言えなかったんだといます。18歳の誕に渡す予定なので、別にぬ予定はありません。
広告
げさに考えないでください。
まずつ。
あなたは私に何も返さなくていいです。
育ててもらった恩とか、苦労させたとか、絶対に考えないこと。
親が子供を育てるのは、借を作るためじゃありません。
私は好きであなたのお母さんをやっています。
変だったはあるけど、あなたがいなければ楽だったとったはもありません。〉
俺はそこで読むのを止めた。
美緒は両で顔を覆っていた。
しを置き。
続きを読む。
〈学へきたいならってください。
旅したいならしてください。
恋も失敗もしてください。
私に慮して、をさくしないこと。
もし私が病気になったり、おに困ったりしても、それはである私の問題です。美緒が責任を持つことではありません。
それでも何か困ったら。
で何とかしようとしないこと。〉
最。
〈助けてと言えるになってください。
それが私からのお願いです。〉
美緒は完全に泣いていた。
だが。
さっきの泣き方とは違った。
何かを吐きすようではなく。
い胸に刺さっていたものが、しずつ抜けていくような涙だった。
「お母さん……ずるい」
「何が?」
「全部分かってたみたい」
俺もそうった。
織は。
自分の娘が自分に似ていることを。
誰よりっていたのだろう。
次に。
俺宛ての封筒をいた。
最初の。
広告
〈孝太郎へ。
これをおが読んでいるなら、たぶん私の予定は何か狂っています。〉
わず笑った。
本当に姉らしい。
〈最初に言っておくけど、美緒の面倒を見ろというではありません。
おはおのをきてください。
ただ。
もし美緒が困っていて。
おに余裕があるなら。
たまに話を聞いてやってください。
あの子は私に似て、平気な顔をするのがです。〉
俺は息を吐いた。
それから。
次の文で。
言葉を失った。
〈それと。
おは昔から、誰かを助けるに「自分が何とかしなきゃ」といすぎます。
美緒を助けようとするなら。
何でもしてやるんじゃなくて。
あの子が自分で選べる所を残してやってください。〉
葬儀で。
俺は美緒へを差しした。
「俺のに来るか」
あの。
たまたまだとっていた。
だが。
織なら。
そう言う俺を像していたのかもしれない。
最の。
〈あと料理は美緒の方がなので、素直に教えてもらいなさい。〉
「最それかよ」
俺が呟くと、美緒が涙のまま笑った。
「お母さんらしい」
「本当に余計なことばっかり」
で笑った。
泣きながら。
笑った。
その夜。
退学届は破らなかった。
俺が勝に破るのは違うとったからだ。
「どうするかは美緒が決めればいい」
織のにかれていた。
選べる所を残せ。
だから。
「学へってもいい。
働いてもいい。今の学辞めてもいい。でも、罪悪で決めるのだけはやめよう」
美緒はい考えた。
そして。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 284 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 941 -
完結第16話
妊娠8か月の私に28人分のおせちを作らせた義母
妊娠8か月の優奈は、義母から「家族6人分」と聞かされていたおせち作りを引き受ける。だが台所に用意されていたのは、販売用の28人分。さらに義妹の店名が入った重箱には、優奈の名前が製造責任者として無断で使われていた。 体調を崩して病院へ向かった優奈は、録音や注文表を証拠として残す。予定より早く帰宅した夫・康平は、母から合鍵を取り上げ、親戚を帰らせるが、やがて妻の署名や免許証、退職金まで利用した500万円の融資計画が発覚する。 康平は家族へ怒るだけでなく、母の越境を長年黙認してきた自分の責任とも向き合う。一方の優奈も、誰かに救われるのを待たず、自分の名前、仕事、暮らしを自ら守り始める。 28人分のおせちから始まった騒動を通して、「家族のため」という言葉に奪われていた選択権を取り戻す夫婦の再生と、境界線の大切さを描いた物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4万字5 1547 -
完結第15話
車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日
教師の仕事を辞め、右半身に麻痺が残った姑・芳子を365日介護してきた田中綾。芳子の70歳の誕生日会で、36人の親族を前に「家も預金も長男へ。嫁には1円も渡さない」と宣言される。熱い汁で右手を火傷しても、夫が心配したのは200万円の着物だけだった。綾は介護引継書を置き、「遺産はいりません」と家を出る。ところが無償の嫁が消えた翌朝、家族の前には月43万8000円、年525万6000円の介護見積書が突きつけられた。3人の実子は誰が母を支えるのか。そして綾は、失った教師の人生を取り戻せるのか――。嫁姑|親子関係2.0万字5 3076 -
完結第12話
継母が私に遺した「価値ゼロ」の古民家
継母・良子の死後、養女の明日香に遺されたのは、山奥に建つ資産価値ゼロの古びた一軒家だけだった。一方、実子である高志と絵美子は、都内の高級住宅6軒を相続し、介護を続けてきた明日香を「他人」と嘲笑う。 母に愛されていなかったのか――。傷つきながらも家を片づけに向かった明日香は、不自然に敷き直された畳と、その床下に封印された巨大な金庫を発見する。母が最期に託した銀色のペンダントは、その扉を開くための鍵だった。 金庫の中に残されていたのは、莫大な財産と「愛する娘へ」と記された一通の手紙。そこには、明日香を強欲な実子たちから守るため、良子が密かに進めていた計画が明かされていた。 高級住宅を手に入れ、裕福な暮らしに浮かれる兄姉。しかし、彼らが「財産」だと信じた6軒には、決して逃れられない秘密が隠されていた――。 血のつながりを盾にする家族と、行動によって愛を遺した母。傷ついた養女が母の本心を知り、自分の人生を取り戻していく、遺産と家族をめぐる逆転の物語。人生逆転|真相|親子関係|金銭問題1.8万字5 941 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 750 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 2195 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 1035 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 4812 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 682