"冷えた雑煮の逆転正月" 第2話
いや――使わせてもらえないのだ。
以、母が言っていた。
「だからっていちいちお湯を使ったらガス代がもったいないでしょう」
その言葉を、俺は冗談半分に聞き流していた。
弓のは赤く腫れ、指の関節には細かな亀裂が見えた。
俺はスマホのカメラを起した。
たい台所で洗い物をする弓。
引き戸の隙から見える、かな居と豪華な卓。
笑う母と直。
1枚の写真のに、すべてが収まった。
これでいい。
これが最の証拠になる。
俺は音をてないよう玄関へ戻った。
スーツケースを持ちげるに、もう度だけ台所を振り返った。
弓は俺がそこにいることをらず、俯いたまま皿を洗っていた。
「弓、ごめんな」
声にはさなかった。
「もう終わらせるから」
実をると、たいが頬に落ちた。
しれたコインパーキングにめていたへ乗り込み、俺はすぐに話をかけた。
相は数かから相談している弁護士だった。
「先、正々申し訳ありません。佐藤です」
『健さん? 帰国はの予定では?』
「1まりました」
俺は実で見たことを簡潔に伝えた。
話の向こうが静かになる。
「先。例の続き、の朝番でかしてください」
『決断されたのですね』
「はい」
数かから、俺は父が残した預のきに違を覚えていた。
父は5にくなった。
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、
「これは健と弓さんの将来のために残しておく」
そう言っていた3000万円を超える定期預がある。
ところが最、その座から自然な引きしが続いていた。
庫に通帳と印鑑を置き、暗証番号をっているのは母だった。
張、弓も度だけ俺へ言ったことがある。
「お義母さん、最よくにかれているみたい。それに直さん、しいを現で買ったって……」
俺は軽く流してしまった。
父の遺産なのだから、ある程度は母が使ってもいい。
そんな甘い考えだった。
だが実際には、もっときなことが起きている。
「母と直に対する法措置、それから絶縁まで、全部めます」
『分かりました』
「もう加減しません。妻のを取り戻したい」
通話を終えた俺は、助席に置いた鞄を見つめた。
には弁護士と理した財産資料がある。
そしてもうつ。
会社から正式に発された赴任の承認。
シンガポール張は、ただの張ではなかった。
俺は会社へ希望をし、翌からシンガポール支社への赴任を決めていた。
母にも直にもらせていない。
俺の料と父の財産に寄りかかってきてきた2を完全に切りし、弓と2だけでやり直すためだった。
俺は弓へいメッセージを送った。
〈10、駅のいつもの喫茶に来てほしい。切な話がある〉
送信した直、母から着信が入った。
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画面に「母さん」の文字が浮かぶ。
俺は数秒見つめた、その話を切った。
母たちはまだらない。
今夜笑いながら囲んでいる豪華な卓が、あので過ごす最の正になるかもしれないことを。
翌朝10。
駅の古い喫茶は、正らしい静けさに包まれていた。
窓際で待っていると、入のベルが鳴った。
弓だった。
昨と同じ擦り切れたカーディガンを着て、首には昔俺が買ったマフラーを巻いている。顔は青く、目のには濃い隈があった。
俺を見つけた瞬、弓のが止まった。
「健さん……どうして?」
「予定よりく仕事が終わった」
「昨……帰ってたの?」
その問いにはまだ答えず、向かいの席を勧めた。
弓は子を引く音さえてないように座った。
い、実でそうしてきたのだろう。
員が温かいおしぼりとコーヒーを運んでくる。
弓がおしぼりを両で包んだ。
そのを見て、俺は息をんだ。
指先に何枚もの絆創膏。
皮膚は赤く腫れ、いひび割れがっている。
「弓、その……」
「ああ、これ?」
弓は慌ててテーブルのへ隠した。
「は乾燥するから。丈夫よ。お義母さんも々ハンドクリームを……」
「もう嘘をつかなくていい」
弓の言葉が止まった。
俺はテーブルのへを伸ばし、そのたい指を握った。
「昨の夜、実に帰った」
弓の肩がきく揺れた。
「台所で1で雑煮をべているところも見た」
弓は俯いた。
唇が震える。
「ごめんなさい」
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