"ママ卒業の代償" 第2話
「……どうした。元気ないな」
ひなはまたさくをげただけだった。
夕には、以ひなが好きだと言っていた鶏の照り焼きを作った。
「これ、好きだったでしょう?」
箸はく。
でも無言だった。
「おかわりいる?」
首を横に振る。
「お噌汁は?」
頷く。
何を聞いても、返事は声ではなく首だけだった。
ありがとうも、ごちそうさまも言わない。
最初は、ひどく嫌を損ねているのかとった。
でも違った。
を張ってを閉じている子の顔ではなかった。
声をすことそのものを怖がっている。
私はそんなふうにじた。
その夜、ひなが眠った、夫と台所で話した。
「学でよっぽど嫌なことがあったのかしら」
「いじめか?」
「美奈子さんはトラブルって言うだけで何も教えてくれなかったの」
夫は腕を組み、いこと考えていた。
「無理に聞くのはやめよう」
「そうね」
「ここにいるくらい、させてやろう」
私は頷いた。
ただ、そのはまだ分かっていなかった。
ひなが怖がっていたのは学ではなかった。
もっとくにいる、誰よりできるはずのだったのだ。
ひなが来てからの最初の1週は、まるでい氷のを歩いているような毎だった。
私はできるだけ普通に接した。
朝になれば、
「おはよう。卵焼きと目玉焼き、どっちがいい?」
と聞く。
返事がなくても、
「今は目玉焼きにしましょうか」
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と勝に決めた。
庭のが咲けば見せ、スーパーへくには、
「緒にく?」
と声をかけた。
きたくなさそうなら無理には連れさなかった。
夫も同じだった。
仕事から帰ると、ひなの隣でテレビを見た。面い面があればでげさに笑い、ひながしでも元を緩めると、それ以は何も言わなかった。
私たちは、ひなから言葉を引きそうとするのをやめた。
ただ、このにいても叱られない。
何かを失敗しても嫌われない。
そうじてもらえればいいとった。
そんなある夜だった。
夕、私は台所で洗い物をしていた。
夫は呂に入っている。
のが静かになった、廊の奥からさな声が聞こえた。
「……ごめんなさい」
私はを止めた。
の音を消す。
「ごめんなさい……」
ひなの部だった。
胸騒ぎがして、急いで戸をしけた。
ひなは布団のにいた。
目を閉じたまま、額に汗を浮かべている。
「ママ……ごめんなさい」
私は息をんだ。
「ごめんなさい。ママ……」
寝言だった。
それでも声にははっきりと恐怖が滲んでいた。
7歳の子供が眠りながら、何度も母親に謝っている。
私は戸に座り込みそうになった。
ひなを起こさないよう、そっと布団をかけ直した。
夫が呂からがると、私はすぐに話した。
「あなた」
「何だ?」
「ひなが寝言でね……ずっと『ママ、ごめんなさい』って言ってたの」
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夫の表が変わった。
「何か悪いでも見たんじゃないのか」
「普通の悪いとはえないのよ」
私は声を落とした。
「何度も謝ってた。あの子、何があったのか分からないけど、あれは子供の寝言じゃないわ」
夫はしばらく何も言わなかった。
やがて蔵庫から麦茶をし、んだ。
「とも子」
「何?」
「俺たち、ひなをし甘やかしてやった方がいいな」
わず夫の顔を見た。
「甘やかす?」
「ああ。悪いことしたら叱る。それは必だ。でも今のあの子には、『何してもすぐられるわけじゃない』ってことを分からせてやった方がいい」
私はさく笑った。
「あなたからそんな言葉がるなんてね」
「何だよ」
「健太郎のは『男は甘やかすな』ってうるさかったでしょう」
「昔の話だ」
夫はし照れたように目を逸らした。
「孫は別だ」
「結局、孫バカじゃない」
「おもだろ」
その通りだった。
次のから、私たちの孫バカ作戦が始まった。
ひなの好きだったハンバーグを作る。
緒に買い物へけば、ひながしく見ていた文具を買ってやる。
寝るには絵本を読む。
夫は仕事帰りにさなぬいぐるみを買ってきた。
「会社のくでかったんだ」
と言っていたが、どう見てもわざわざ選んだものだった。
ひなは最初、受け取るのをためらった。
「もらっていいんだぞ」
夫が言うと、ひなはさく頷いた。
そして、ごくさな声で、
「……ありがとう」
と言った。
私と夫は同に顔を見わせた。
久しぶりに聞いたひなの声だった。
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