"ママ卒業の代償" 第4話
私は首を傾げた。
もちろん、母親にも自分のはある。
子育てだけがすべてではない。
けれど、今は娘が学へけなくなり、祖父母ので暮らしている。
「それで、最ずっとパソコン触ってる」
「仕事?」
「違う。ブログとか、ミクシィとか」
健太郎は苦笑した。
「『育児はと根気』とか、『子育てって尊い』とか、そういう記をいてるらしい」
「え?」
わず聞き返した。
「ひな、今ここにいるのよ?」
「俺もそう言ったんだよ。『お、今子育てしてないじゃん』って」
「そしたら?」
「めちゃくちゃ睨まれた」
健太郎は困ったように笑った。
その話を聞いた、私は初めてはっきりと嫌な予を覚えた。
美奈子さんは何をしているのだろう。
ひなの写真を何度も欲しがること。
育児について記をいていること。
そして、自分では娘に会いに来ないこと。
点と点がしずつ繋がり始めていた。
その、ひなのからもしずつ休みの話がてきた。
直接、
「ママにこんなことをされた」
と説したわけではない。
7歳の子供だから、言葉は断片だった。
夕、突然、
「バーバは『うるさい』って言わないね」
と言う。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
別の。
おもちゃをへ落とし、慌てて拾いながら、
「ごめんなさい。邪魔しないから」
と言った。
「ひな」
私はしゃがんだ。
「そんなことで謝らなくていいのよ」
「でもママ、邪魔って言うから」
広告
胸の奥がえた。
休みの、美奈子さんは何度も、
「うるさい」
「面倒くさい」
「邪魔しないで」
と言っていたらしい。
そして2学期が始まる頃には、
「いい子にしてないとママがもっと変になる」
「学へくと悪いことが起きる」
ひなはそうい込むようになっていた。
美奈子さんが何をどこまで図して言ったのかは、この点では分からなかった。
けれど、なくともひなのでは、
母親をらせないこと。
母親を困らせないこと。
それが何より優先されていた。
7歳の子供が背負うにはきすぎるものだった。
夫に話すと、彼はしばらく黙っていた。
「とも子」
「何?」
「学より先に、して子供でいられるようにしてやろう」
私は頷いた。
勉が遅れてもいい。
学へけないがあってもいい。
まずは、
お腹が空いた。
これが欲しい。
遊びたい。
嫌だ。
そう言える子に戻ってほしかった。
その願いは、ゆっくりではあったけれど、確かに届き始めていた。
12になった。
の商にはクリスマスの飾りが並び、夕方になると駅のイルミネーションがり始めた。
あるの午。
私は台所でクッキーのを作っていた。
すると、ひなが入にった。
「バーバ」
「なあに?」
し迷った、ひなが言った。
「お願いがあるんだけど」
私はに持っていた泡て器を止めた。
ひなが自分から「したい」
広告
と言った。
それだけで嬉しかった。
「何でも言ってみて」
「クリスマスに、いちごのケーキ作ってほしい」
「もちろんよ」
ひなの顔がしるくなった。
私は勢いよく続けた。
「でも、せっかくだから緒に作らない?」
「私も?」
「そう。ひなは飾り付け担当」
その週末、2でスーパーへった。
いちご。
クリーム。
卵。
麦。
砂糖。
ひなは買い物かごを持ちながら、何度もいちごのパックを覗いた。
「バーバ、こっちの方が赤いよ」
「じゃあ、それにしましょう」
「きいの入ってる」
「飾りに良さそうね」
へ戻ると、私は昔、保育園の調理で作った誕ケーキをいしながらスポンジを焼いた。
卵を泡てる、ひなにもボウルを持たせた。
「まだ?」
「もっと」
「腕疲れた」
「パティシエは体力が必なのよ」
「バーバも疲れる?」
「昔はに何分も作ったからね」
焼きがったスポンジをましているに、クリームを泡てる。
「わあ」
ひなが目を丸くした。
「ふわふわ」
指で触ろうとしたので、
「こら」
と言うと、ひなは笑った。
私はわざとしだけクリームをにつけてやった。
「バーバ!」
ひなは笑いした。
その声を聞いて、居にいた夫が顔をした。
「随分楽しそうだな」
「じいちゃんもやる?」
「俺はいい」
そう言いながら、結局いちごを並べる役をやらされた。
ひながく切ったいちごを央へ並べる。
「見て。お」
「本当ね」
私はわず拍した。
「才パティシエだわ」
ひなは照れながらも嬉しそうだった。
あのほど、のに笑い声が響いたはなかったとう。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
形見を捨てた嫁の代償
妻の三回忌の日、68歳の竹内正男は、久しぶりに帰ってくる息子一家のため、亡き妻がよく作っていた煮物と甘い卵焼きを用意していた。 孫に妻の思い出を伝えようと、正男は40年間大切に使われてきた花柄のエプロンを見せる。それは妻が家族のために台所に立ち続けた証であり、正男にとって何より大切な形見だった。 しかし嫁の彩花は、そのエプロンを何のためらいもなくゴミ袋へ放り込む。 「古いものは整理した方がいいですよ」 その一言で、正男の中の何かが静かに崩れた。 ところがその後、彩花は仏壇の横に置かれた一通の封筒を見つける。そこに書かれていたのは、マンション2棟と預金3000万円、そして遺言書という文字。 次の瞬間、さっきまでゴミ扱いしていた形見を、嫁は突然「大切にします」と言い出した。 形見の本当の価値は、金で測れるものなのか。 亡き妻が残したエプロンをめぐり、家族の本音が静かに暴かれていく。親不孝|親子関係1.5萬字5 1314 -
完結第12話
義母ATM、ハワイへ消ゆ
67歳のみち子は、息子夫婦と孫たちを迎えるため、今年も静かに正月の準備を始めていた。 ところがクリスマスの朝、嫁の歩美から突然告げられる。 「今年は15人で行きますから」 食事、寝具、お年玉、観光費まで、すべて義母であるみち子が用意する前提。さらに歩美は、SNSでみち子を「ATMみたい」と笑い、長年の援助まで馬鹿にしていた。 37年間働き、息子夫婦に2500万円以上を援助してきたみち子は、その日ようやく気づく。 自分は家族に大切にされていたのではない。都合よく使われていただけだったのだ。 そして12月29日。 15人が玄関前に集まった時、家の鍵は開かなかった。 その頃みち子夫婦は、すでに日本にはいなかった――。ATM扱い|親子関係1.8萬字5 7202 -
完結第12話
タダ宿の代償
64歳の佐々木敦子のもとに、久しぶりに長男・大輔から電話がかかってきた。 連休に家族で帰ってくるという話に、最初は孫に会える喜びを感じた敦子。だが大輔は、当然のようにこう言った。 「母さんの家に泊まるから。ホテル代もかからないし」 しかも泊まりに来るのは、息子一家だけではなかった。嫁の両親、妹夫婦、友人夫婦まで含めた総勢10人。食事、布団、タオル、駐車場、留守番まで、敦子の家はいつの間にか“無料の宿”として扱われていた。 それでも家族のためならと我慢しかけた敦子だったが、旅行の三日前、切れていなかった電話の向こうから、息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「母さんの家使えばタダじゃん」 「お母さんってちょろいよね」 その瞬間、敦子の中で何かが静かに切れた。 この家は、3500万円を出して自分が買った家。誰かが当然のように使っていい場所ではない。 翌日、敦子は弁護士へ相談し、玄関の鍵を替える。 そして連休当日。何も知らずに10人で家の前へやって来た息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関だった――。親不孝|親子関係1.9萬字5 2945 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 338 -
完結第10話
真っ暗な部屋の退学届
姉を突然亡くした39歳の孝太郎は、残された高校生の姪・美緒を引き取ることを決めた。 母を失ったばかりなのに、泣き言ひとつ言わず、家事も勉強もこなす美緒。孝太郎は「しっかりした子」だと思い、少しずつ二人の生活は形になっていく。 だがある夜、仕事から帰ると部屋は真っ暗だった。 美緒の部屋を開けた孝太郎が見たのは、床に並べられた荷物、通帳、求人誌、そして一枚の退学届。 母を亡くした少女は、本当は何を抱えていたのか。 その夜、亡き姉が残した一通の手紙が、二人の止まっていた時間を静かに動かし始める――。第二の人生|親子関係1.4萬字5 354 -
完結第13話
止まったカードと空の家
夫の正文が「会社の旅行」と言って家を出た朝、私はすべてを知っていた。 行き先で待っているのは会社の同僚ではなく、高校時代からの親友・美津。しかも夫は、私名義のクレジットカードを勝手に使い、親友との食事や買い物にまで手を出していた。 泣いて問い詰めることはしなかった。証拠はすでにそろっている。娘も、父親の異変に気づいていた。 「引っ越すよ」 夫が浮気旅行を楽しんでいる間に、私は娘と新しい家へ向かった。そして夫のカードを止め、彼の荷物を“ある場所”へ送りつける。 旅行先で支払いができなくなった夫。荷物を受け取った親友の家。そして、空っぽの部屋へ戻ることになる裏切り者。 夫と親友を同時に失った私が、娘と本当の人生を取り戻すまでの物語。夫婦|親子関係|不倫1.9萬字5 12212 -
完結第9話
ブサ婿の正体
毒親に支配され、家の借金を返すための道具として生きてきた長嶋咲。 父は恐怖で縛り、母は涙で罪悪感を植えつける。進学も、仕事も、お金も、すべて親の都合で奪われてきた咲は、ついに資産家の息子・御堂剛との結婚まで勝手に決められてしまう。 相手は地味で冴えない男性。愛情などない、ただの取引結婚――咲はそう割り切るしかなかった。 しかし結婚初夜、2人きりになった途端、剛は静かに口を開く。 「実は俺、7年前からあなたのことを知っていました」 差し出されたのは、両親の借金に関する書類。そして、咲自身も忘れかけていた冬の夜の記憶だった。 利用するつもりだった結婚相手は、本当に咲を縛る人間なのか。 それとも、初めて彼女を自由にしてくれる人なのか。 これは、誰にも見てもらえなかった2人が、遠回りの果てに互いを選び直す物語。夫婦|親子関係1.4萬字5 2283 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 3579 -
完結第10話
夕焼けの後継者
差し押さえ寸前の修理店を守るため、26歳の佐々木満は、財閥会長の豪邸にある小劇場の照明修理を引き受ける。 母を知らず、亡き父が残した工具と古いノートだけを頼りに生きてきた満。だが、屋敷の照明設備は、なぜか父のノートに記された特殊な配線と完全に一致していた。 さらに修理を終えた満は、廊下に飾られた古い写真の中に、若き日の父の姿を見つける。 「あれ……これ、僕のお父さんの写真だ」 その一言で、財閥会長夫妻の表情は一変する。30年前に消えた息子、隠された事故、偽られた死、そして満の出生に関わる秘密。 やがて一通の鑑定書が開かれた時、豪邸に閉じ込められていた長い嘘が崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.5萬字5 991 -
完結第6話
七五三の不要人物
孫娘の七五三の日、69歳のすみは、亡き夫が褒めてくれた着物を着て神社へ向かった。 写真代、衣装代、食事会の費用まで出したのは、すべて孫の晴れ姿を祝いたかったから。けれど当日、息子夫婦から告げられたのは、あまりにも冷たい一言だった。 「家族だけで撮るから」 カメラの前に並ぶのは、息子と嫁と孫の3人だけ。すみは輪の外に立たされ、食事会でも末席に座らされる。 それでも孫のために黙っていたすみだったが、後日、写真館から届いた連絡で、彼女はすべてを知る。 自分は写真に入れなかっただけではない。写り込んだ姿さえ、“不要人物”として消されようとしていたのだ。 その夜、すみは古い帳面を開く。 そこに残されていたのは、息子夫婦へ渡してきた数々の援助記録。積み重なった金額と、消された祖母の証拠を前に、すみはついに静かな決断を下す。祖父母と孫|親子関係8.5千字5 3321