"ママ卒業の代償" 第5話
夕。
来がったケーキをテーブルへ置いた。
夫が切り分けながら言った。
「ひなも随分元気になったな」
「うん」
「学もけるようになったし」
ひなはさく頷いた。
そこで夫が、悪気なく言った。
「お父さんとお母さんのに帰れるもいかもしれないな。じいちゃんとばあちゃんは寂しくなるけど」
その瞬だった。
ひなの表が消えた。
ケーキを持つフォークが止まる。
私はすぐに気づいた。
夫も、
しまった。
という顔をした。
「ひな?」
私が声をかけても、返事はない。
しばらくして、目に涙が溜まった。
そしてさな声で言った。
「バーバ」
「うん」
「じいちゃん」
夫がを乗りした。
「どうした?」
ひなの唇が震えた。
「助けて」
私は息を止めた。
「私を、このの子供にして」
ぽろりと涙が落ちた。
「ここでずっと、パパとじいちゃんとバーバと暮らしたい」
7歳の子供が、自分の親のへ帰ることをあれほど恐れている。
私は胸が潰れそうだった。
夫は迷わず言った。
「ひな」
いつもの厳しい顔が、ひどく優しかった。
「おがここにいたいなら、ずっといていい」
私はひなのを握った。
「そうよ。誰が何と言っても、じいちゃんとバーバが守るから」
ひなは何度も頷いた。
それからケーキをべた。
泣きながらべていた。
しばらくして、ひながぽつりと言った。
「ママね」
私は黙って続きを待った。
広告
「私がいると邪魔なんだって」
「そんなこと……」
すぐ否定しようとした私を、夫が目で制した。
ひなの話を最まで聞こう。
そういうだった。
「ひなね、学好きだったよ」
「うん」
「でも、学くと悪いことが起きるってママが言うから……怖くなった」
私はすぐにはを理解できなかった。
学へくと悪いことが起きる。
どういうなのか。
ひな自も説できなかった。
でもつだけはっきりした。
この子は学が嫌いで登になったわけではない。
母親との関係ので、学へくことに罪悪や恐怖を植え付けられていた。
その夜。
ひなが眠ったも私は眠れなかった。
居に置いてあるノートパソコンをいた。
以、健太郎が言っていたことをいしたからだ。
美奈子さんがブログをいている。
育児について。
登の娘について。
私は慣れないつきで検索を始めた。
本名ではてこない。
そこで、
「登 娘 ママ頑張る」
「育児 娘 学」
健太郎がにしていた言葉をいくつも入れた。
何度もページをいては閉じる。
30分ほど経った頃だった。
見覚えのある写真が画面に現れた。
私は息を止めた。
写っているのは、ひなだった。
画面のには、庭でを摘んでいるひながいた。
違いない。
数、私が美奈子さんへ送った写真だった。
タイトルにはこうかれていた。
広告
『さな笑顔に救われる々』
そのにい文章が続いていた。
登になった娘と向きい、しずつをかせている母親。
娘の気持ちに寄り添い、焦らず学へ戻れるを待つ母親。
そんな内容だった。
私は信じられず、次の記事をいた。
『今も娘と23脚。ママ頑張る』
そこにもひなの写真。
庭で遊んでいるのものだった。
さらに次。
『学にけたよ。娘の勇気に涙』
ランドセルを背負い、私たちのから学へ向かうろ姿。
これも私が撮った写真だ。
画面をスクロールする指が震えた。
『今は娘と緒にクッキー作り』
ひながだらけになって笑っている。
そのクッキーを作ったのは私だ。
『クリスマスケーキを娘と作り』
つい数に作ったケーキを持つひなの写真まで載っていた。
私は美奈子さんから、
「クリスマスらしい写真があったら送ってください」
と言われ、何も考えずに送っていた。
記事には、
『娘がいちごでおを作ってくれました。しずつ元気になってくれることが、ママにとって何よりのプレゼント』
といてあった。
私はしばらく画面を見つめたままけなかった。
「何よ、これ……」
声が震えた。
ひなと緒にケーキを作ったのは私だ。
クリームを泡てたのも。
にクリームをつけて笑ったのも。
いちごのを褒めたのも。
美奈子さんではない。
この数か、美奈子さんはただの度もひなに会いに来ていない。
それなのに、ブログのでは毎娘に寄り添う母親になっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 441 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1268 -
完結第15話
車椅子の姑を1年間介護したのに、遺産は1円もいらない嫁が家を出た日
教師の仕事を辞め、右半身に麻痺が残った姑・芳子を365日介護してきた田中綾。芳子の70歳の誕生日会で、36人の親族を前に「家も預金も長男へ。嫁には1円も渡さない」と宣言される。熱い汁で右手を火傷しても、夫が心配したのは200万円の着物だけだった。綾は介護引継書を置き、「遺産はいりません」と家を出る。ところが無償の嫁が消えた翌朝、家族の前には月43万8000円、年525万6000円の介護見積書が突きつけられた。3人の実子は誰が母を支えるのか。そして綾は、失った教師の人生を取り戻せるのか――。嫁姑|親子関係2.0万字5 3173 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 846 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 597 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1821 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 2380 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 1105 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 5118 -
完結第11話
元警察官の父が娘に渡した一枚の封筒
久しぶりに会った娘・香織の頬に痣を見つけた元警察官の父・誠一。夫の話になると目をそらす娘に、父は勤務先の住所だけを尋ね、それ以上追及しなかった。 一か月後、再び夫に突き飛ばされた香織へ、父は一通の封筒を渡す。中にあったのは夫の秘密ではなく、香織が「大したことではない」と消してきた異変を、日付順に記した一枚の紙だった。 繰り返される暴力と謝罪の連鎖を認めた香織は、初めて「今日は帰らない」と自分で決断する。父は夫を裁くことも、離婚を命じることもせず、娘が自ら選べる安全な場所だけを守り続けた。 これは、父の静かな愛に支えられた女性が、自分の恐怖を否定するのをやめ、失っていた人生と平穏を取り戻していく再生の物語。夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 755