みかん小説
本棚

"ママ卒業の代償" 第9話

健太郎も仕事を続けながら、父親として娘に向きった。

婚したからといって、全てを私たちへ任せたわけではない。

帰りが遅くても、できる限り同じへ帰る。

会。

授業参観。

事。

休みを取れるは必ず参加した。

ある運会の

健太郎が仕事の都に遅れた。

ひなは何度もを気にしていた。

「パパ、来ないのかな」

「仕事終わったら来るって言ってたよ」

私はそう励ました。

そして午の競技が始まる

息を切らしながら健太郎が庭へ入ってきた。

「ひな!」

娘の顔が気に輝いた。

「パパ!」

っていく。

「来てくれてありがとう」

健太郎はしゃがんで娘を抱きしめた。

私はその姿を見ながら泣いた。

隣を見ると、夫も目を擦っている。

「あなた、泣いてる?」

「砂だ」

庭の端なのに?」

「うるさい」

私は笑った。

あれから、ひなはしずつ変わった。

になる頃には、友達も増えた。

学では唱部に入った。

から帰ってくると、台所でいながら私の伝いをした。

では製菓部に入った。

文化祭の、私が昔から作っていたクッキーのレシピをしアレンジして品した。

結果は内の菓子コンテストで表彰された。

賞状を持ち帰ったひなは、玄関をけるなり叫んだ。

「バーバ!」

「どうしたの?」

「見て!」

賞状を差しす。

「バーバ直伝のクッキー、優勝!」

広告

「本当に?」

「うん!」

私は何度も賞状を見た。

夫は、

「俺も昔、を混ぜたことあるぞ」

と自分の功績のように言っていた。

「おじいちゃんはまみれになっただけでしょ」

ひなに笑われていた。

やがてを卒業したひなは、製菓の専んだ。

あのクリスマスの

緒に作ったケーキ。

どうやらあれが、ひなのを決めるさなきっかけになっていたらしい。

16というは、振り返ると本当にい。

7歳だったひなは23歳になった。

私は76歳。

夫もすでに仕事を引退し、今では所の将クラブへ通うのが課になっている。

「今も勝った」

と言って帰ってくるもあれば、

「今は相が卑怯だった」

と子供みたいに嫌なもある。

「将に卑怯も何もないでしょう」

「いや、あいつは俺の性格を読んでる」

「毎週やってるんだから当たりよ」

そんな会話をしながら暮らしている。

健太郎も仕事を続けてきた。

でひなを育てたわけではない。

私たち夫婦がいた。

でも父親として逃げなかったことは、私はよくっている。

ひながの頃、に悩んだも何度も話を聞いた。

学じゃなくて製菓の専きたい」

ひながそう言った夜。

健太郎は、

「本気ならけ」

と答えた。

「途で嫌になったら?」

「その考えればいい」

らない?」

「何でるんだよ」

ひなはし黙った。

広告

幼い頃の記憶が完全に消えたわけではない。

何かを選ぶ

失敗したら誰かをらせるのではないか。

そうになるところは、しばらく残っていた。

健太郎はだからこそ、娘の選択を否定しなかった。

を卒業したひなは、今では都内のケーキでパティシエとして働いている。

最初は皿洗いや仕込みがだった。

仕事から帰ってくると、

が棒」

と言いながらソファへ倒れ込む。

「辞めたい?」

私が聞くと、

「辞めない」

即答した。

「もっとくなりたい」

その顔を見ていると、7歳のクリスマスをす。

クリームを見て、

「ふわふわ」

と笑った顔。

いちごをの形に並べたの得そうな顔。

ある休

ひながの台所でしいケーキを試作していた。

「バーバ、見して」

「また?」

「プロの見」

「私もう引退した保育園の調理員よ」

「私にとっては師匠だから」

フォークでべる。

甘すぎない。

いちごの酸も残っている。

「いいんじゃない?」

「本当に?」

「でもスポンジ、もうししっとりでもいいかも」

「やっぱり?」

ひなはすぐノートへいた。

その横顔は真剣だった。

「ねえ、バーバ」

「何?」

「いつか緒にお菓子さんやろうね」

私は笑った。

「私、何歳まで働かされるの?」

「バーバは座って見する係」

「それならいいわ」

ひなが笑う。

「私ね」

し照れたように続けた。

「バーバと作ったクリスマスケーキが原点なんだ」

私は返事ができなかった。

喉が詰まった。

「何泣いてるの」

「泣いてない」

「泣いてるよ」

取ると目が乾くのよ」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: