"捨てられた夏の肖像" 第6話
その姿を見て。
今度はがを見た。
瞬。
誰なのか分からなかったらしい。
だがすぐに目を見いた。
「おい……まさか、その子」
同じ頃、くにいた数の客もに気づいた。入のアート展ポスターに顔写真がているうえ、最テレビで紹介されたばかりだったため、「あの絵を描いている子じゃない?」という声が聞こえてきた。は注目されるのが苦なので、困ったように私のの裾を握った。
の顔が急に変わった。
10。
あれほど「自分の子じゃない」と叫んだ男が。
今度は。
笑った。
「やっぱりか。きくなったなあ。ほら見ろよ、目のあたりなんて俺に似てきただろ?」
を疑った。
澄まで急に表をるくし、へ歩み寄ってきた。彼女は何のためらいもなくの肩へを置こうとし、「この子は私の孫なのよ。テレビにもてるの。すごいでしょう」と周囲に聞こえる声で言った。
私はそのを静かに払いのけた。
「触らないでください」
澄が顔をしかめた。
「何よ。孫に触って何が悪いの?」
「10、あなたはこの子を『浮気相の子』と呼びました。DNA鑑定でさんの娘だと証されても偽物だと言って、まれたばかりのを私と緒に追いしたでしょう」
周囲がまたざわめいた。
は慌ててを挟んだ。
「あれは昔の話だろ。俺たちだって若かったし、ちょっと勘違いしてたんだよ」
広告
「勘違い?」
私はわず笑った。
「鑑定結果を見ても認めなかったが?」
は言葉に詰まった。それでもすぐに態度を変え、「でも実の父親なのは事実だろ」と主張し始めた。さらに「がこんなに派になったなら、族として応援したい」と言い、その線は娘ではなくアート展のポスターや周囲の反応へ向いていた。
はを議そうに見げた。
「ママ、このたち誰?」
私は娘の顔を見た。
そして。
迷わず答えた。
「あなたとは、今まで何の関係もなかったたちよ」
の表が歪んだ。
「おい、そんな言い方ないだろ。俺は父親だぞ」
は首を傾げた。父親という言葉を聞いても、そこにつと自分のの父親像が結びつかないらしい。し考えたあと、彼女は私のを握った。
「私のお父さんって、このなの?」
その問いには。
ずっと準備していた答えがあった。
「血のつながりではそうよ。でも、あなたを育てたではないわ」
は数秒黙った。
それから。
へ向き直った。
「じゃあ、私が赤ちゃんのにいなくなった?」
の顔が真っ赤になった。
「いなくなったんじゃない。おの母さんが勝に――」
「それ以、娘ので嘘をつかないで」
私は声をめた。
は私を睨んだが、周囲には先ほどの異物混入騒ぎから部始終を見ている客がいる。くればさらに自分が利になると判断したのか、舌打ちをしながら黙り込んだ。
広告
その横で、澄が突然別のことを言い始めた。
「まあいいわ。それより広美、あんたたち随分儲かってるんでしょう? テレビにもてるくらいなんだから、今の事代くらい払ってちょうだいよ」
私は本気で聞き違えたとった。
数分まで員からを取ろうとしていたが。
今度は私に払わせようとしている。
「どうして私が?」
「族なんだから、それくらいいいでしょう」
「族?」
10。
何の連絡もない。
の誕すららない。
には私から届いたさえ渡していなかった。
そんなが。
が世から評価されているとった瞬。
「族」と言う。
私は澄を見つめながら、初めての底からこのたちと縁が切れていてよかったとった。
「私たちは赤のです。ご自のおで払ってください」
その。
私の腕を。
が掴んだ。
見ると。
泣き腫らした目で。
必に私を見ていた。
「ママ」
「どうしたの?」
は度、と澄を振り返った。
それから。
震える声で言った。
「私も……ママのところにきたい」
私は。
言葉を失った。
をそので連れて帰ることはできなかった。どれだけ娘本が望んでも、私が勝に連れれば別の問題になってしまうため、私はまず側と警備員へ事を説し、とだけでし話せるを作ってもらった。
は満そうだったが、異物混入の件で側から警察を呼ぶと言われ、く反対できなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
青いチョーク
63歳の田中澄江は、夫を亡くしてから2年間、午後4時になると必ず家を出るようになっていた。 夕方の光が差し込む居間には、亡き夫の湯呑みと、言葉にできない寂しさだけが残っていた。そんなある日、取り壊し前の小学校の前で、澄江は一本の青いチョークを拾う。 何気なく引いた一本の線。灰色の壁に描いた小さな青い四角。 それはただの落書きのはずだった。けれど、その壁に一人の少年が現れ、やがて子どもたちや町の人々が少しずつ色を足していく。 消えては描かれ、また雨に流されるチョークの絵。 夫を失った悲しみの中で止まっていた澄江の午後4時は、いつしか少しずつ違う色を持ち始める。 一本の青いチョークが、空白になった人生に静かな線を引いていく物語。人生逆転1.9萬字5 67 -
完結第12話
近道看板の逆襲
海の近い小さな村で、家族と農業を営む大平浩。 数年かけて育ててきたトウモロコシ畑が、ある日突然、何者かの車に踏み荒らされていた。畑の入口には、勝手に置かれた「国道への近道」の看板。何度撤去しても、立入禁止の表示を立てても、被害は止まらない。 やがて犯人は、入院中の村長の息子・光だと判明する。 「この村のものは俺のもの」 そう言い放つ光は、畑を道路のように使い続け、ついには浩の娘まで危険な目に遭わせる。警察に訴えても、相手が村長の息子というだけで話は曖昧に流されてしまう。 証拠がなければ、誰も動かない。 そう悟った浩は、畑に防犯カメラを設置し、光が自ら罠にはまる“ある看板”を立てることにした。 家族の畑を踏み荒らした男に待っていた、静かな因果応報とは――。因果応報|修羅場1.8萬字5 282 -
完結第10話
「子なし」離婚の大誤算
離婚届に署名した日、木村さゆのお腹には、まだ誰にも知られていない3か月の命があった。 夫・渡辺健二は初恋の女性との再婚に夢中で、離婚協議書には「婚姻中の子なし」と記されていた。さゆは妊娠を告げることなく、静かに名前を書き、夫の前から姿を消す。 それから10年。 さゆは一人で息子・陸を育てながら、写真館「時」を成功させ、母としても写真家としても自分の人生を築いていた。 しかし、陸の卒業式の日、思いがけず健二と再会する。 壇上で花束を渡す陸の顔を見た瞬間、健二は凍りついた。目元、鼻筋、横顔――そこには、10年前に自分が切り捨てたはずの結婚の答えがあった。 失われた10年は、金で取り戻せるのか。 父親を名乗る資格とは何か。 初恋を選んだ男が、初めて自分の過ちと向き合う時、さゆと陸が選ぶ未来とは――。人生逆転|夫婦1.5萬字5 159 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 340 -
連載中第13話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫2.0萬字5 2177 -
完結第14話
特大おにぎりの恩返し
小学4年生の遠足の日、黒川大雅は「お弁当を忘れた」と笑う同級生・浅川亜美に、祖母が握ってくれた特大の梅干しおにぎりを分けた。 けれど、それはただの忘れ物ではなかった。 給食だけが唯一まともに食べられる日もあった亜美。お風呂にも入れず、空腹を隠して笑っていた彼女の事情を知った大雅の家族は、静かに手を差し伸べる。やがて亜美は祖父母の家へ引き取られ、二人は離ればなれになった。 それから20年後。 建設会社の社長となった大雅の前に、再開発予定地にある「こども食堂」を守ろうとする一人の女性が現れる。 その名は、浅川亜美。 あの日のおにぎりは、ただ空腹を満たしただけではなかった。祖母の優しさと、一人の少女の人生を変えた記憶は、20年の時を越えて、思いがけない形で大雅の前に戻ってくる――。人生逆転|真相2.0萬字5 792 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 1095 -
完結第13話
吹雪の一杯
夫が遺した山あいの温泉旅館「灯里館」を、一人で守り続けてきた70歳の富美子。 しかし返済期限まで残り三ヶ月。1500万円の借金を抱え、親族や開発会社からは「もう旅館を売れ」と迫られていた。 そんなある吹雪の夜、富美子は雪の中で倒れていた一人の外国人男性を助ける。凍えた彼に差し出したのは、囲炉裏の火と、いつもの味噌汁だった。 ただの親切のはずだった。 だが、その外国人が残した映像をきっかけに、灯里館には世界中から予約が殺到する。さらに、旅館を買い取ろうとする開発会社が本当に狙っていたもの、そして亡き夫が密かに守ろうとしていた“山の秘密”が少しずつ明らかになっていく。 夫は本当に旅館を売ろうとしていたのか。 なぜ死後の日付で、夫の署名が残されていたのか。 消えかけた囲炉裏の火が、富美子の人生をもう一度動かし始める――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 791