"雪下の赤いマフラー" 第1話
19981112、旭川には朝から細かながり続いていた。午になるとがまり、脇に積もったがいがって、町の景をく曖昧にしていた。
旭川では、そのも放課の演劇部の練習がわれていた。17歳の双子、美咲と、そして2の親友である彩も、講堂に残って『アンティゴネ』のリハーサルに参加していた。
3は揃って赤いマフラーを巻いていた。それは演劇部の仲たちがいつのにか使うようになった目印で、景のではくからでもよく目った。
双子の美咲とは、見た目こそよく似ていたが性格はまるで違った。美咲は慎で、の話を最まで聞いてから自分の見を言うタイプだった。
方のは、度こうとったことにはくこだわった。文学や芝居について語り始めると周囲が見えなくなるほどし、その激しさに美咲が困ったように笑うこともあった。
彩はそんな双子のに自然と溶け込んでいた。精肉を営む両親の娘で、普段はおとなしいが、台につと驚くほど表が変わる女だった。
そのの演目で、彩は主公アンティゴネ役に選ばれていた。
はその役をく望んでいたため、選考結果がたから2のにはわずかな緊張がまれていた。それでも美咲がへ入ることで、表面は以と変わらない3に見えていた。
広告
午、最のリハーサルが終わった。
舎をると、は午より激しくなっていた。
「く帰ろう。もっとるよ」
美咲が空を見げながら言った。
は赤いマフラーを首へ巻き直した。
「600メートルくらいでしょ。丈夫」
彩だけが、し遅れて歩きした。
美咲は振り返った。
「彩、どうしたの?」
「何でもない。ちょっと疲れただけ」
そう言って笑ったが、その顔にはいつものるさがなかった。
は彩を度だけ見た。
何か言いたそうだったが、にはしなかった。
3はをた。
のる宅を並んで歩いていく。
その姿を舎の窓から見た徒が、に「赤いマフラーだけがいので目っていた」と証言している。
それが、学で確認された3の最の姿だった。
夕方6になっても、美咲とは帰らなかった。
双子の母親である佳子は、最初は演劇の練習が延びたのだろうとっていた。しかし学へ話すると、3はすでに帰宅したはずだと言われた。
「そんな……」
佳子は受話器を置くと、着を掴んでへびした。
学までのを歩きながら、何度も娘たちの名を呼んだ。
「美咲!」
「!」
に吸い込まれ、声はくまで届かなかった。
友のにもいない。
所のにもち寄っていない。
同じ頃、彩の両親も娘が帰っていないことに気づいた。
父親の郎は精肉の奥で、何度も話をかけ続けた。
広告
学、友宅、親戚、いつく所は全て確認した。
どこにもいなかった。
「この町はどうなってるんだ……」
郎は作業台へをついた。
やがてを抑えられなくなり、にしていた包丁を肉切り台へく叩きつけた。
「彩を返せ!」
妻が止めようとしたが、郎は壁を殴った。
所のが駆けつけた頃には、拳から血が滲んでいた。
警察もすぐにいた。
学から3のまで。
公園。
空き。
バス。
川沿い。
その夜、のを何もの警察官と民が歩いた。
しかし、争った痕跡はなかった。
叫び声を聞いた者もいない。
へ乗り込む姿を見た者もいなかった。
が跡を覆ってしまった能性はあったが、それにしても3同に何の痕跡も残さず消えるのは異常だった。
翌の聞には、3の写真が並んだ。
笑顔の美咲。
し勝ち気な表の。
柔らかく微笑む彩。
「旭川の女子3、吹ので方」
記事はきく扱われた。
数、町で捜索が続いた。
それでも何も見つからない。
1週が過ぎた。
1か。
半。
になり、が解けたも、3の持ち物さえてこなかった。
佳子は双子の部を、そのまま残した。
2つのベッド。
教科。
制。
机のに置かれた箱。
「帰ってきた、変わっていたら嫌でしょう」
親戚から片づけるよう勧められても、佳子は首を横に振った。
彩の母親も、娘の制を洗えなかった。
残っている匂いまで消えてしまう気がしたからだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 70 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 3743 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1055 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 443 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 243 -
完結第10話
白木蓮の偽証
2003年、東京大学法学部を卒業し、都内で弁護士として働いていた藤代優一が、長野の実家へ帰省した後に姿を消した。 継母・沢子は「東京へ帰ると言って家を出ました」と涙ながらに証言し、防犯カメラにも優一らしき男の姿が映っていた。携帯電話の記録も長野から東京へ移動しており、警察は彼が東京へ向かった後に何かに巻き込まれたと考えた。 しかし17年後、空き家となった藤代家の解体工事中、庭の白木蓮の根元から一体の人骨が見つかる。 それは、東京へ帰ったはずの優一だった。 当時の捜査で継母の涙を信じた元刑事・黒瀬は、再び事件と向き合うことになる。防犯カメラに映った男は誰だったのか。なぜ携帯電話は東京まで移動していたのか。そして沢子は、何を守るために嘘をついたのか。 白木蓮の下に17年間埋められていたのは、遺体だけではなかった。ミステリー|行方不明1.5萬字5 153