みかん小説
本棚

"終電の風呂敷" 第3話

りず、駅まで乗務員に同し、到着の戸締まりを確認してから戻ることになったのである。帰りは保線係のに乗せてもらえるという話だった。

1138分。

引き戸がいた。

老婦が入ってきた。

を歩いてきたせいで黒い羽織の肩にはさない粒が乗っていた。傘は持っておらず、代わりに紺呂敷包みを両腕で胸に抱えるようにしている。

まで、枚お願いします」

が切符を渡すと、老婦はいつも通り静かにげた。だがその晩は呂敷から、かすかに温かいべ物の匂いがしたような気がした。噌のようでもあり、炊きたての米のようでもあった。

が到着すると、老婦ろの両に乗った。内には酒をんで帰る会社員がと、遅番を終えた若い員が数いるだけだった。は業務のため内を歩きながら、窓際に座る老婦くから見た。

彼女は呂敷を膝に置き、両をそのねていた。揺れるたびに包みがし傾くと、すぐにで支え直す。に壊れやすいものでも入っているのかとうほど慎だった。

を抜け、暗い畑のった。窓のにはが斜めに流れ、くのだけがい煙をげていた。つ目の駅を過ぎると、次がだった。

広告

がホームへ滑り込んだ。

老婦がり、呂敷を抱えた。も業務でホームへり、最の乗客が改札を抜けるまで確認する。

像以に暗かった。

くなっていた。

老婦は傘も差さず、駅の広いを渡り、の煙突が並ぶ方向へ歩き始めた。族のへ向かうならの方へ曲がるはずだったが、彼女はんでいく。

は無識に目で追った。

そこへ保線係の男が声をかけた。

君、戻るぞ」

「すみません。し用があります。先にってください」

言ってから、自分でも何をしているのだろうとった。ただ、その晩だけは、毎抱えてきた疑問をそのままにして帰る気になれなかった。

仕事を終えた子をくかぶり、老婦が消えた方向へ歩いた。にはさな履の跡が続いていたため、見失う配はなかった。

の正を通り過ぎる。

社宅でもない。

でもない。

やがて老婦きなの裏へ回り、細いの先にある古びた階建ての建物へ向かった。入の脇にはさな札があり、「女子寄宿舎」とかれていた。

柱のち止まった。

計は午0かった。

その

の裏から。

女が歩いてきた。

作業着を着たままの者。

拭いを巻いた者。

広告

眠そうに肩を落としている者。

には、どう見ても15歳か16歳にしか見えない女もいた。

寒さでをこすりわせながら。

女子寮へ戻ってくる。

老婦は入脇のい段差に腰をろした。

そして。

呂敷の結び目を。

ゆっくりほどいた。

柱のから、申し訳ないといながらも目をすことができなかった。老婦が広げた呂敷のには、の皮に包まれた丸いものがいくつも並んでいた。でも商品でもなく、まして秘密の荷物でもなかった。

握り飯だった。

つが女の拳よりもきく握られていた。塩だけのものもあれば、表面に噌を塗って焼いたもの、沢庵を細かく刻んで混ぜたものもあり、包みをいた途端に温かな米と噌の匂いがの空気へ広がった。

「おばちゃん!」

最初に気づいた女が、急に顔をるくした。疲れてを引きずるように歩いていたのに、老婦まで来ると、まるで学帰りの子供のような表に戻った。

「今は遅かったねえ」

械が止まっちゃって、片づけにかかったの」

「そう。じゃあ、ちゃんとべなさい。空っぽのお腹で寝たら、朝がつらいから」

老婦の皮をき、女へ握り飯を渡した。別の女も寄ってきて、「今噌のある?」と聞き、老婦は笑いながら「ちゃんと取ってあるよ」

と答えた。

ほどが次々に集まってきた。

女たちは奪いうこともなく、つずつ受け取っていった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: