みかん小説
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"終電の風呂敷" 第10話

もちろん、声をかける確信はなかった。あれから何も経っており、15歳の女だったの顔を正確に覚えているはずもない。それでも女性が孫に向かって話した次の言葉を聞いたの胸には、ほとんど答えにいものが広がった。

「昔、この辺に毎晩おにぎりを持ってきてくれるおばあちゃんがいたの。夜の仕事が終わる頃になると、必ず来てくれてね。寒いでもでも、『ちゃんとべてから寝なさい』って言うのよ」

孫は議そうに、「その、おばあちゃんのお母さん?」と尋ねた。女性は笑って首を振り、「違うの。名らなかったのよ」と答えた。それから買い物袋のを探り、さな包みを取りすと、孫へ渡した。

に入っていたのは、握り飯だった。

「どうしておにぎり持ってるの?」

「あなた、塾の帰りはいつもお腹すいたって言うでしょう」

女性はそう言って笑った。孫は包みを受け取ると、嬉しそうにかじり、そのまま祖母のを握って歩きした。

は声をかけなかった。

を確認することもしなかった。

それでいいような気がした。

トキも、娘を助けた女性の名を最までらなかった。女たちも、トキの名らないまま握り飯を受け取っていた。それでも渡されたものは消えず、何ものを越えて、別の子供へと渡っていったのだ。

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ろ姿が見えなくなるまで、ベンチに座っていた。の煙突も女子寮も、終を待つ女たちも、もうそこにはいなかったが、自分が見た昭36の夜が完全に失われたとはわなかった。建物は消えても、誰かにしてもらったさなことを覚えているがいる限り、その代の部はに残り続ける。

帰りのがホームへ入ってきたは昔のような改札鋏の音をした。あの頃は、毎晩同じ切符を買う老婦が、これほどく自分の記憶に残るとは考えもしなかった。鉄会社の記録にはも残らなかった来事が、の駅員と何もの女たちのには、静かな印のように残っていた。

そしては、の窓からざかる町を眺めながらった。

から受け取った優しさには、終着駅がないのかもしれない。

※本作は、昭36頃の京郊、集団就職や寮で暮らした若者たちの代背景をもとに構成した創作篇です。登物・駅名・来事は物語の創作です。

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